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私的メタル論 <その5>パクられまくったメタル!ーモダンヘヴィネス爆誕ー

みなさん、お元気ですか?今回は私的メタル論5回目です。前回はパクられまくったグランジを紹介したのですが、記事をまだ読んでいない方はこちらからどうぞ ↓ 

今回も前回同様パクられまくった名盤を紹介します。

米国で猛威を振るったグランジブームはなんだかんだでで過ぎ去りました。ニルヴァーナも前回紹介したアリス・イン・チェインズもメンバーの死去により解散していますし、音楽スタイルとして同じような曲調やスタイルを得意とするバンドの名をその後聞きません。もちろん、今はヒップホップとEDM系ポップスが全盛の米国市場において、そもそもロックバンドとして売り出すバンドが激減しているということもあるでしょう。

ただ今回紹介する作品は、なんなら今でも多くのメタルバンドにそのエッセンスを聴きとることができるぐらい大きな影響を与えた名作です。では行きましょう!

PANTERA(パンテラ):VULGAR DISPLAY OF POWER(俗悪)

Pantera / Vulgar Display of Power

パンテラの1992年発表の2作目です。ただ、彼らは80年代にもアルバムを何枚か発表しており(インディーズ?)、それは結構キャッチーな路線だったともいわれています。が、そのアルバムは現在では入手できず、音の内容は分かりません(アナログ盤を持っていたとしてたら結構なプレミアが付くはずです)。彼らがこのアルバムで聴ける音楽性になったのは前作(ここから1作目とカウント)からで、前作も負けず劣らずの傑作ですが、それ以上の評価で彼らを一躍メタルの中心に押し上げた作品がこれです。

時代的な話をすると、メタリカが大傑作である「ブラックアルバム」を出したのが前年の1991年、ニルヴァーナの「ネヴァーマインド」も同じく1991年。ガンズ・アンド・ローゼズの「Use Your Illusion I &II」も1991年。のちのグランジの一角であるパールジャムもまだどこかメタルっぽい「Ten」を出したのが91年ということで恐るべし91年!で、前回記事の通り翌年の1992年にはアリス・イン・チェインズが「ダート」を発表しいよいよ本格的にグランジの嵐が吹き荒れる。そんな環境下で発表されたのがこれなんです(92年にはRage Against The Machineが1stを発表してます。92年も実は凄い)。

私はこの作品を「モダンヘヴィネスの祖」と位置付けています。その理由はモダンヘヴィネスが特徴とする音作りと方法論がこのアルバムに詰まっているからです。その要素とは何たるかを説明します。

・音作りが乾いていて、特にギター音が「ドンシャリ(高音と低音が強調
 され、ミドルレンジが抑えられている)」
・ヴォーカルのメロディや歌い方が咆哮系で叫んでいるのと歌っているの
 との中間である
・今では「ブラスト」と言われる ”ダカダカダン!ダカダカダン!”と
 ギターとドラムがシンクロした叩きつけるような刻みのリズムを多用する

順番にもう少し説明します。

まず、大きな特徴はギターサウンドです。80年代のメタルギターヒーロー的な目線で言えば、ギターをギターアンプ(ほとんどが「マーシャル」製)に繋いで、つまみは全部フルにして鳴らすみたいなことが模範とされている時代がありました。簡単に言うと、(マスター)ボリュームをフルにすることでスピーカーの音が割れ、それがあの歪んだロックギターのサウンドになるわけです(実際は歪みが足りないので、エフェクターと呼ばれる機械でさらに歪ませる)。マーシャルはアンプ部分に真空管が搭載されており、その真空管による温かみのあるサウンドがただビリビリと歪むだけではない、どことなく柔らかな美しさを生んだんです。スポーツ車のエンジンを思いっきり吹かした時に自然と立ち上がるエギゾーストノート(ブォーンというあれ)に例えられるかもしれません。好きな人にはたまらないでしょう。

つまみを全部フルにするというのは、トーン(音調整)も全部フルと言うことなので、ベース(低音)、ミドル(中音)、トレブル(高音)も全開にすることになります。ただし、ミドルをフルにすると結構音が曇ってきます。何となくモコモコした音、ポコポコした音になるんです。なので、ミドルは抑えめにするギタリストは昔からいました。

が、このバンドのギタリスト「ダイアモンド(ダイムバッグ)・ダレル」はミドルをほぼゼロにすることで、曇りのないドンシャリと呼ばれるサウンドを確立しました。アンプもマーシャルではなくランドールという当時はあまり知られていないメーカーで、アンプ部分に真空管ではなくトランジスタが搭載されたのものでした。その機械的でギャンギャン・ジャキジャキした全く温かみの感じられないギターサウンドが逆に彼らのアイコニックな音とななったのです。そして、このギターサウンドが、後にマリリン・マンソンやロブ・ゾンビなど新しいデジタル・メタル世代の音作りへの橋渡しとなりました。それは、それまでのメタルギターの模範である「マーシャルが生むウォームでファットなギターサウンド」との決別でもありました。

2番目に行きます。ヴォーカルも特徴的でした。それまでのメタルバンドのヴォーカルは、しっかり歌う、そうでなければ叫ぶ・吠えるかのどちらかでした。サビが一緒に歌えるメタルバンドも多かったですが、逆に多くのデスメタル系のバンドは「グワォ~」的なグロウルと呼ばれるいわゆるデス声で歌詞を叫んだり読み上げている感じで音程を感じることはほとんどありません。しかし、このパンテラの「フィル・アンセルモ」は違いました。叫びながら歌ってるです。吠えたグロウル系ヴォイスでも音程が感じられる。これで何が起こったかと言うと、メタル界隈でデス声に対する市民権が得られるようになりました笑。

それまでは普通に歌うメタルバンドしか聴いたことがないメタルファンがデスメタルを聴くと「ヴォーカルがなぁ。。」ということが多かったのですが、パンテラが「歌うデス声」を広めたことで「こういうのもありだね」になったのです。特に日本で人気のあるメロディックデス系のバンドは意識してるしていないにかかわらず、このフィル・アンセルモのヴォーカルスタイルに近いものを感じます。

次はブラストです。このバンドが始めたかどうかはわからないものの(デス系のバンドには既に表現方法としてあったようです)、このアルバムでは非常に効果的なブラストを多く聴くことができます。ギターとドラムが一体となって「ダカダカダン!ダカダカダン!」とシンクロで激しくリズムを刻みます。特にドラムはバスドラ(足元の大きな太鼓)がツーバススタイルで(バスドラが2個)、このツーバスをリズムに合わせて踏むのと同時にスネア(体の前にある基本的なリズムを刻む太鼓)もそれに合わせて叩きます。これにギターの刻みも加わって、恐ろしく歯切れがよく、ヘヴィでタイトなリズムを作り出せるわけです。メタリカの曲にもこういう刻みはあるものの、スラッシュメタル出身からかどちらかと言うと疾走感を増すための刻みに聴こえます。こちらのパンテラの刻みはもっとその場でリズムを強く刻む、地面を叩きつけるようなイメージです。この感じが新しいんですね。疾走感が強調されるブラストだとスラッシュメタルやデスメタルっぽいんですが、そうじゃなくて切れの良い叩きつけ系タテノリのリズム。これもモダンヘヴィネスの一つの特徴です。

こんな特徴を頭に入れながら曲を聴いてみましょう。

まず1曲目の「Mouth For War」です。いきなりのギターリフが衝撃的なかっこよさです。ちょっとブラストが入ってるかなの叩きつけ系リフでありながらドライブ感も感じるザクザクギターサウンド。まさに新しい時代の幕開け。歌前に一度チェンジする2ndリフもカッコいい。そこに、フィル・アンセルモの咆哮系ヴォーカル。何もかもがバチっと決まっていてぐうの音も出ない。サビ部分のギターもこれまたキラーリフ。溢れんばかりのギターリフのアイデア。文句なしの1曲です。後ろでギターとシンクロするような切れの良いドラムフレーズや「パシーン」と響くスネアとドシっと座ったバスドラの音が気持ちいい。ちなみに、ここのギタリストとドラマーは兄弟です(ヴァン・ヘイレンみたいな感じ)。正に息がぴったりです。

2曲目はウネウネ系ザクザク系の曲です。1曲目から気づかれたかどうか分かりませんが(まだ聴いてないか?)、このバンドはギターとベースのチューニングが意図的に低めに設定されています。それ自体は半音下げとかでメタルバンドではよくあるんですが、このバンドはよりヘヴィに聴こえるように、半音とか全音とかじゃなくて、雰囲気でだいたいこの辺、と言う感じでチューニングしています。 なので、絶対音感がある人には終始気持ち悪く感じると思います笑。私はそこまでではないですが、長く音楽を聴いているので、アルバムの出だしで「あれ?」とはなります、がすぐに慣れます。このテキトーチューニングに関しては、よりヘヴィに聴こえるという目的は達成していると思います。

そして目玉の3曲目「Walk」です。これがパンテラのシグニチャーソングでしょう。今まで聴いたこともないウネリとリズム感から繰り出されるヘヴィネスで非常に印象的なギターリフ。もうメタルファンの心を鷲掴み。サビの「ウォーク」は、今にもライブ会場の男どもの大合唱が聞こえてきそうです。

4曲目「Fucking Hostile」は速い曲でこれまた派手に決めてます。これもギターとドラムのシンクロぶりが見事でブラスト的なブレイクが聴きもの。最初から最後まで息ができないぐらい音が詰まっているところもカッコいい。凄いぞパンテラ!

そのまま5曲目のバラード風の曲へ。時代なのか出だしのアルペジオは前回紹介したアリス・イン・チェインズの曲調にも似てる感じはします。こちらも不穏な空気がかっこいい。ここではフィル・アンセルモは結構歌ってます。パワーバラード風に途中からヘヴィなギターが入りますが、そこからはパンテラ節炸裂です。この静と動の対比が特徴的な曲。フィル・アンセルモの怒り狂うような咆哮ヴォーカルも聴きごたえあり。

6曲目は「Rise」。出だしはほぼ彼らの中でほぼ最速のリフで凄い刻み。そこからミドルテンポに落ちるところと、そこからのフレーズもカッコいい。何もかもが神がかり。

長くなってきたので途中はちょっと省略します笑。

ブラスト系のリフとリズムが印象的な10曲目「Be Demons Be Driven」からのメロディアスな11曲目のバラード「Hollow」。このバラードも彼らのメロディセンスの良さや幅の広さを感じさせます。フィル・アンセルモはここでもちゃんと歌ってます。誰とも似ていないし、それまでのメタルバンドの売れるためのバラードとも全く違うセンス。ギターソロが終わってからの展開は再びパンテラ節炸裂。ヴォーカルは怒りまくり、ギターはザクザクと刻みまくる。ドラムもダカダカと力強く叩きまくる。でもなぜかフェードアウトで終了(ここはちょっと不思議です)。

どうでしょうか?聴きたくなってきたでしょ?

あと、このバンドの素晴らしいところは、ギタリストのテクニック。これだけのギターリフのアイデアも凄いですし、ギターソロでの素晴らしいメロディセンスと確かなテクニックは、他のバンドにないものです。特にスラッシュメタルとかデスメタルではあまりギタリストの力量は問われないし、実際にギターソロもパートとしてはありますが、それほど印象的なものはありません。あのメタリカですら、ギターソロだけで見れば印象的なものは多くない。実際、ギタリストのランキングでもメタリカでギターソロを弾くカーク・ハメットの人気はメタリカほどではありません。しかし、このパンテラは別。「ダイアモンド(ダイムバッグ)・ダレル」の人気はギタリスト部門でもパンテラ人気に負けないレベルですし、そこらのギターヒーローよりも上手いでしょう。実際、デビュー前はそこらじゅうのギターコンテストで優勝していたそうです。

時代を変えたギターサウンドとギターリフが詰まりまくった本作が、のちのメタルバンドに与えた影響は計り知れません。マリリン・マンソンなどデジタル・メタル系はもちろんですが、Slipknot、Killswitch Engage やDisturbed など米国のメタルバンドは何かしらそのレガシーを受け継いでいるのは彼らの音を聴けばすぐにわかります。

正にこのアルバムが発売されたその瞬間、世界にモダンヘヴィネスが爆誕したのです。

今回は2作目の本作をおススメしていますが、1作目の「Cowboys From Hell」と3作目の「Far Beyond Driven」も同じレベルで名作ですので、ぜひ聴いてもらいたいと思います。

4作目からはメンバー間の不和なのかネタ切れなのか曲のクオリティが落ちてきたように思えました。そして解散状態になり、のちにギターの「ダイアモンド(ダイムバッグ)・ダレル」はライブ中に銃で撃たれて亡くなってしまいます。お兄さんのドラマーである「ヴィニー・ポール」も2018年に病死しています。

再結成は普通は無理なのですが、海外では最近ギタリストに元オジーオズボーンのザック・ワイルドが入ってツアーをやっているようです。これは海外でも賛否両論あるようですね。私は個人的にはこの再結成には反対ですが。。

今回はさすがに長く書きすぎました笑。

もう少し書こうかと思いましたが、かれこれ何回かメタルで話をしていますので、次回は違うジャンルの話にしようと思います。またメタルに戻ってきます。

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