私的ロック論 ジェフ・ベックを勝手に語る<その5>ソロ後期作品聴き比べ!
みなさん、お元気ですか?
前回のジェフベック中期作品の記事ですが、私の記事の中で過去最高の閲覧数を記録しました!ありがとうございます!やはりジェフベックと言えばこの時代と言うことなのかなと思った次第です。リンクはこちらです ↓
今回はソロ後期の作品を聴き比べます。時代的には90年代から2022年の最終作品までです。この時代の作品はロッククラシックというよりは、今のジェフベック感が強いですが、クラシックになっていない分、みなさん逆に聴いていない作品が多いんじゃないでしょうか?
作品数が過去イチで多いので、今回も作品発表順に簡潔に書いていきたいと思います。
90年代の最初を飾る作品はこちら。
この作品はジェフベックのオリジナル曲ではなく、彼が敬愛するロカビリーバンド「ジーン・ヴィンセント & ザ・ブルー・キャップス」のギタリスト「クリフ・ギャラップ」のカバーアルバムです。正直、原曲のバンドもギタリストも1回も聴いたことがないです。
全曲カバーなのでジェフベックの曲は含まれていませんし、情報を見聞きするにほぼ原曲に近いプレーのようで、実際これまで聴いたようなジェフベックらしさも感じません。ただ、こういうロカビリースタイルの曲はこれはこれで弾くのが難しい。理由はリズムがシャッフルなこと。常にスウィングするリズム感とそれに合わせたピッキングやコードワークが必要なんです。一般的なロックギタリストやメタルギタリストで、シャッフルビートをノリを崩さずに弾き倒せる人は多くないでしょう。
が、ジェフベックはしっかりと弾き切っている。これは凄いと思うし、ギターを弾き初めのころからしっかりコピーして来たんだろうなと思わせるさすがのプレーで上手い。個人的にはボーカルが今一つ好みではないのですが、タイトル曲の3曲目「Crazy Legs」をはじめ良い曲もあります。ジェフベックのファンの方は、ここでのジェフベックのプレーは一度聴いておくことをおススメします。ブライアンセッツァー風のジェフベックが聴ける貴重な作品と言えるかもしれません。
次の作品はデジタル3部作と呼ばれる作品群の1作目です。
デジタル3部作と言われるように、ここでのサウンドプロダクションは完全にデジタルミュージック。打ち込み感満載で曲調はこの頃に流行っていたケミカルブラザーズやファットボーイスリムに近いかなと。サブギターで参加しているジェニファーバトゥンのインタビューで「この頃ジェフはプロディジーにはまっていた」とあって妙に納得。確かに激しめの曲はもろプロディジーっぽい。
サブギターのジェニファーバトゥンの超絶テクや音楽性に影響されたのか、全般的に曲やプレーの難易度も上がっていて、時代の風をもろに受けまくったジェフベックが炸裂しています。ただ、好き嫌いが分かれると思うのが、ジェフのギターサウンドですかね。やたらデジタル音っぽくてマーシャルの音らしいのですが、そうは聴こえない。
デジタル時代の幕開けである1曲目「What Mama Said」や2曲目「Psyco Sam」も良いですし、イントロがデジタル版「Scatterbrain」に聴こえなくもない7曲目「THX138」もなかなか。あとはデジタルっぽくない3曲目のブルース「Brush with the Blues」や8曲目「Hip-Notica」もかっこよくて好きです。9曲目「Even Odds」は盟友ヤンハマーの曲でこれもなかなかのデキ。ただ、曲にほとんど鍵盤らしき音が入っておらず、名盤「There And Back」時代のような主張は感じられません。10曲目は笛的なサウンドが和テイストを醸し出していて、ジェフベックのロングトーンも良く響いて聴かせる曲です。
デジタル3部作の2作目はこちら。
この作品の1曲目は前作以上にプロディジー度が高いかもしれません。ジェフベックのギターはより歪み、曲調も引き続き打ち込み系です。ですが、アルバム全体のリズムや打ち込みの洗練度は増していて、リズムトラック中心に聴けば、前作より今作の方が圧倒的に洗練され出来が良い。
それもそのはず。プロデューサーが前作のトニーハイマスから、マッシヴアタックなどを制作したアンディライトに代わっています。このリズムトラックを聴くだけでもプロデューサー変更は意味があったことがわかります。
特に2曲目「Roy's Toy」や6曲目「Loose Cannon」はリズムがカッコいいし、ジェフベックの作品というのを忘れても聴けます笑。5曲目「Nadia」でもジェフベックのエスニック系ロングトーンはもちろん良いのですが、後ろでちょこまかと鳴っているリズムも心地よい。
前作にブルースナンバーがありましたが、今作にも箸休め的に4曲目「Rollin' and Tumblin'」がそれっぽく、膝を叩きたくなる系でこちらも良い曲です。ただ前作同様ジェフのギターが歪みすぎなので、もう少しマーシャル感を出してもらえるともっとよかたったのにとは思ってしまいますが。。ちなみに3曲目の「Dirty Mind」なんて恐らくかなりライブ映えする曲で、この曲をステージで弾いているジェフベックはクラプトンやペイジよりもはるかにイケオジに見えることは間違いない。
前作よりもリズムトラックの出来が良く、作品として照準が定まっているという点でこちらの作品の方が個人的な評価は上です。ただ、曲ごとに言えば前作にも良い曲はあります。
デジタル3部作の最終作はこちら。
デジタル最終章だけあってデジタル化は行きつくところまで行っていて、ほぼ完全に打ち込み・プログラミング系の音楽でバンド感は皆無です。リズムにちょっとしたグルーヴ感というかヒップホップ感が出たのも特徴でしょうか?この辺りは今作からプロデュースで参加のアポロ440の影響が強く出ているんじゃないかと思います。
ギターフレーズはこれまで同様かそれ以上に細かなパーツに分解され切り貼りされている印象ですし、もはやジェフベックのギターを聴かせるための曲と言うより、ジェフベックのギターも曲の中の一つの部品でしかない。前作以上にギターは歪んでいますが、音の太さや厚みを感じないところは残念です(意図的かもしれませんが)。
インパクト充分の1曲目「So What」も良いですが、雰囲気がちょっと変わってギターの質感や息継ぎ感がより強く出てくるアルバム後半に聴きどころが多いですね。7曲目「Hot Rod Honeymoon」はノリも良いし面白い。9曲目「JB's Blues」とかヒップホップ的な10曲目「Pay Me No Mind」もいい。11曲目「My Thing」はデジタル音と絡み合うギターリフがかっこいい!次の12曲目「Bulgaria」はここのところ作品に必ず1曲は入るロングトーンを活かしたギターバラードのような曲。日本盤ボーナストラックの14曲目もどことなく不思議な曲ですがそこがカッコいい。
デジタル3部作最終章だけあって、デジタルサウンドと打ち込みの完成度は一番高いし、やり切った感はあります。ただ見方を変えれば、ジェフベックの作品である必要はないところまで研ぎ澄まされてしまっているかなとも思います。時々現れるギターらしいサウンドとメロディは出来が良いので、もう少しギターはギター、リズムトラックはリズムトラックで考え方を切り分けてくれたらよかったなと個人的には思います。
私はジェフベックのデジタルミュージックへのチャレンジはアリだと思っています。エリッククラプトンもジミーペイジもやろうとも思わなかったことでしょうし、デキるとも思えない。でもジェフベックは若い才能に任せ自分の才能を試した。3枚もやる必要があったかどうかはわかりませんが、3枚の作品の中から各自でお気に入りの曲を集めてベストを作れば、かなりイケてるデジタルなジェフベック作品に仕上がるはずです。
次の作品に行きます。
デジタル3部作からの脱皮作といえる今作ですが、前作まで満載だった打ち込み感は消滅し、一方でオーケストラとの共演的な演奏が増えています。ジェフベックのギターサウンドもギターらしさが戻ってきました。
カバー曲が中心ですが全体の作風も穏やかかつ雄大で、地下室的かつ攻撃的な曲も多かったデジタル3部作とは大きく異なります。デジタル3部作で各作品それぞれ1曲はあったギターのロングトーンを活かしたバラードのデキが良かった(聴きやすい?)ことから、この作品の方向性が決まったのかなと推測します。プロデューサーは変更されており、スティーブリプソンとトレヴァーホーンです。
トレヴァーホーンはイエスの元ボーカリストで、再結成イエスで「ロンリーハート」をヒットの他、プロデューサーとしてヒット作多数。ジェフベックは彼のオーケストレーションの知識や経験が欲しかった可能性は高いですね。
安心して聴ける内容ですが、ギタープレイが主旋律をなぞるメロディ弾きが増えたのと、「Over The Rainbow」や「Nesson Dorma」(オペラで有名な曲)などカバー曲に既視感があるので興奮度は低めです。その中で6曲目「Serene」は懐かしいAOR・フュージョン感がある良い曲。ただ全般的に今作で中心的な役割を果たすべきギターオーケストラ的な曲よりも、女性ヴォーカルの曲のデキが良いというちぐはぐさはあります。
女性ヴォーカルものとしては、5曲目9曲目でジョスストーンと、7曲目11曲目(ボーナストラック)でイメルダメイ、10曲目でオリヴィアセイフ(彼女はオペラ系です)とコラボしています。ジョスストーンは以前から知っていてアルバムも何枚か持っていて好きなアーティストです。他の2人は知りませんでしたがいいですね。この5曲を聴くだけでも価値があります笑。特に9曲目はギターソロの出だしがかっこよく「おぉ、新しいベックだ!」と興奮するのですが、そこから直ぐにフェードアウトで残念。ギターソロは全部聴かせてほしかった。
次は若手女性アーティストとのコラボレーションです。
ボーカルとギターが若手女性アーティストになっています。が、2人とも私は全然知らない人ですし、知名度がある人達ではなさそうです。ベースやドラムも居て演奏はバンド形態になっています。この作品を出した意図としてはジェフベックが久々に「バンドをやってみたい!」と思ったのかなと。音楽的にはブルースを基調としたロックで聴きやすくなっています。
ただ個人的に強く感じるのは、この女性ボーカルですが特徴が無さ過ぎるし、これと言って聴かせる声質でもなくて子供っぽいし。なんで選ばれたのかな?と思います。一方でジェフベックのギターはサウンドもプレーも往年のブルースプレー感を取り戻していて悪くないです。逆に曲が過去作で一番と言うぐらいブルース風味で退屈と言うぜいたくな感想を持つ人もいるかもしれません。
クリーントーンと泣きのギターソロが聴けるバラードの5曲目「Scared For the Children」、10曲目のファンキーチューン「O.I.L」、ずっと遠くの方にケルト風味?を感じる牧歌的バラード11曲目「Shrine」も良い。
完全にデジタル録音でしょうが、スタジオでマイクを立ててバンドで録音したらもう少し音的にも空気感的にも立体感が出たのでは?とは思います。デジタル録音で作るとクリアだけど音に立体感がなく、低音ができらず空気の重さも足りない音になりがち。せっかくバンド感にこだわったのなら音もアナログ的なこだわりがあったらよかったかもとは思います。
いよいよ、ジェフベック最後の作品になります。
このアルバムアートワークはどうにかならなかったんでしょうかね?A-haのテイクオンミーのMVを下手くそにしたような絵で購買意欲が湧きません(よね?)。
今作は著名俳優でジェフベックの友人でもあるジョニーデップとの共演です。ジョニーデップはアリスクーパーやジョーペリーとハリウッドヴァンパイアーズというバンドを組んでいるので音楽が好きなんでしょう。本作のプロデューサーはジェフベックとジョニーデップで、2人で好きな音楽を話し合いながらできた作品と言えそうです。だからなのかジョニーデップのオリジナル2曲を除いて全部カバー曲です。
しばらく封印していたテクノ調の2曲目「The Death And Resurrection Show」はカッコいい!デジタル3部作のプロディジーやケミカルブラザーズ似というより、こちらはナインインチネイルズなどインダストリアル風味が強めなところが斬新。3曲目「Time」はパワーバラードを思い起こさせる曲、6曲目のジョニーデップのオリジナル曲もなかなか良い。8曲目「Ooo Baby Baby」はザミラクルズのカバーですが、やはりジェフベックはソウルのカバーが合う!ギターソロも聴けるところまで仕上がってます。9曲目の「What’s Going On」はソウルの超有名曲ですが、前半はあえて収録されるほどのものではないのですが、エンディングソロは良い。
ただ、ジョニーデップのボーカルがモゴモゴ系で聞き取りにくく、こもって音も小さめなので、もう少し歌い方を変えるかミックスで音圧を上げてもらいたいなと思いました。あと、この作品までくると、後期作品では各作品に最低1曲ぐらいは入っているロングトーンで主旋律を弾くバラードっぽい曲には飽きが来てます。今回もいくつかありますが、もうちょっとひねりや独自性が必要かなと思いました。
私的には特にカバー曲のセンスの良さなのか思いのほか聴ける作品です。歌の間にあるジェフベックのギターソロ(最近は無いバンドや曲も多い)も分かりやすさでは後期作の中では1番かもしれません。
冒頭で書きましたがアルバムアートワークが損しているのと、ジョニーデップはモゴモゴ歌っていて聞き取りにくく、コアな音楽ファンはイロモノ作品と見てしまうことはあるかもしれません。が、意外と(笑)良い曲ぞろいなのでぜひ聴いてみて欲しいです。
ここまでで、ジェフベックのスタジオ全作品の紹介は終了です。今回の後期作品の記事はいかがだったでしょうか?
私は今回の記事公開直前に、念のための確認でもう1回ざっと後期作品を聴きなおしました。既に何度も聴いていたからか理解がかなり深まり、特にデジタル3部作は完全に好きな部類に入ってしまいました笑。皆さんも先入観に惑わされず、全作品を一度は聴いてもらえたら嬉しいです。
私自身、中学生の時に「Blow By Blow」を聴きましたが(既に名盤扱いでした)、全然分かりませんでした。オレンジアルバムも大学生で聴いたと思いますが「まぁ悪くないね」ぐらいだったでしょうか?ジェフベックの音楽を最初からわかる必要はありません。
ジェフベックは我々を長い音楽の旅路へといざなってくれる最高のアーティストなんです!皆さんも自分なりのジェフベックの聴き方や楽しみ方を探してみてください。
次回は内容未定なのですが、これだけジェフベックを聴きまくったので、締めにもう1回書いてみたいなと思っています。お楽しみに!
では、また次回お会いしましょう!
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