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私的メタル論 <その4>パクられまくったメタル!ーメタルからグランジへー

みなさん、お元気ですか?今回は私的メタル論4回目です。前回記事をまだ読んでいない方はこちらからどうぞ ↓ 実は今回も3作品紹介して一旦は私的メタル論を終了しようと思ったのですが(また戻ってきます)、書いていたら長くなってしまいましたのでもう少し続けます。

今回はパクられまくったメタルを考えたいと思います。言い方を変えると時代を作ったメタルとも言えます。

これまで紹介したキッスやエアロスミス、ジューダス・プリーストやメタリカも時代を作ってきたとは思いますが、個性が強すぎて(良い意味です)フォロワー(バンドやアーティスト)がほとんどいません。仮にマネをすれば直ぐにばれてしまうほどの個性とも言えますし、あまりにも異質な才能でなかなかマネできるモノでもないのかもしれません。

が、やはり音楽にはパクりが付き物(良い意味でも悪い意味でも)。今回は、アーティスト本人達の思惑はどうであれ、その音楽的エッセンスがパクられ(まくっ)た結果として新たなメタル手法を生み出した作品を紹介します。

ALICE IN CHAINS(アリス・イン・チェインズ):     DIRT(ダート)

Alice in Chains / Dirt

1992年発表の2作目で、米国で発売後400万枚以上を売り上げた作品。作風を一言で言えば、暗くて陰鬱でウネウネ感満載のメタル。この前年にニルヴァーナのネヴァーマインドが発売され、世界がグランジ/オルタナティブブームに沸きました。ニルヴァーナのブレイクはロック全体に大きな影響があった訳ですが、アリス・イン・チェインズのメタル音楽への影響はニルヴァーナ以上のものでした。

1曲目から斬新に変調子(3拍+4拍 の組み合わせ)を取り入れ、陰鬱かつ不穏なギターリフから始まる「Them Bone」。当時としては圧倒的な新しさで確かにカッコいい。4曲目のバラード「Down in The Hole」も聴きもの。一聴するとパワーバラード風ではあるものの、そういうキャッチーに「ここはみんなが歌えるように作りました」というような意図は全く感じられない曲調とガレージロックのような手作り感。

後半にも聴きどころが多いのも凄い。6曲目の「Rooster」はこれまたパワーバラードっぽくありながらも、そういうヒット狙いには聴こえない。12曲目「Angry Chair」と最後13曲目「Would?」も聴きどころ。「Angry Chair」のイントロの不穏なギターアルペジオと粘っこいドラムから棒読みのメロディラインが続くあたりの、けだるくスッキリしないやる気の無さみたいな作風がグランジっぽいし若者にはウケまくりました。「Would?」も全体的に陰鬱でどことなく揺れているような感じですが、このメロディラインも米国のバンドっぽくて、分かりやすくてカッコいい。

例えばスリップノットなんかもそうですが、米国のメタルバンドのサビのメロディって、ある意味独特で日本人にはないメロディセンスなんですよね。この作品も正にそれで、サビの部分はしっかり歌えるけど、ブリティッシュメタルでもないし、ジャーマンメタルでもない、米国バンドらしいかっこよさ。暗い重い曲調は少し英国のブラックサバスのような雰囲気でもあるけど、やはりどう転んでもそうはならない国民性なんでしょう。

で、この作品が売れまくり、折しも世間はニルヴァーナの大ブレイクもあってグランジブームに沸きました。他にもメタル寄りとしては「Stone Temple Pilots」が居ましたし、ニルヴァーナ側には「Perl Jam」が居て、パンクには「Sonic Youth」、ニューウェーブ系?だと「Smashing Pumpkins」など、グランジ・オルタナティブにあらずはロックバンドにあらず的な風潮が90年代前半に蔓延し始めます。そしてメタルバンドは「ヘイ!可愛い女子とパーティしようぜ、オールナイロング」とか歌いづらくなりました笑。

ただ、多くのメタルバンドはニルヴァーナをパクることはしませんでした。理由は簡単で、ニルヴァーナのような世界観や音楽性との共通項をメタルバンドが持ち合わせておらず(誰にもないからの彼らの才能でしょうが)、パクりたくてもパクれなかったからです(パールジャムも同様)。しかし、こちらのアリス・イン・チェインズはニルヴァーナと比較すれば、はるかにパクりやすかった(気がした)。「要するに曲を暗くして、人生のネガティブな面をよくわからない歌詞で歌えばいいんだろ?あとは曲名もそれっぽく単語1語とかにしておこうぜ!」的な作品ばかりになりました。

より正確に言えば、87年にガンズ・アンド・ローゼズがメジャーデビューし(売れ始めたのはもう少し後)、髪の毛を立たせるとか、男性アーティストがメイクするという風潮が全く流行らなくなっていたのですが、90年代初めのグランジ・オルタナティブブームにより、よりダークで屈折したイメージがメタルバンドに必要になってしまったのです。

話は少しそれるのですが、ヴァン・ヘイレンのボーカルで有名なサミー・ヘイガーが(脱退後に)米国で音楽番組をやっていて、それをたまたま日本のケーブルテレビで見ることができました。印象的だったのはポイズンのドラマーの回とハートのボーカル(ナンシー・ウィルソン、金髪の妹の方)の回です。

ポイズンの回では、ドラムのニッキー・ロケットが「ニルヴァーナがブレイクした時にやばいと思った。俺達にはこういう音楽を作る土壌がない」的な話をしていますし、ハートの回ではナンシー・ウィルソンが「参加するフェスにアリス・イン・チェインズも出ると聞いた時に凄い恐怖を感じた。我々がやってきた音楽が全て時代遅れに聴こえるのではないかと思った」的な話をしていました。

90年代前半のグランジへの熱狂やアリス・イン・チェインズの人気、当時人気を誇っていたビッグバンドがグランジ・オルタナブームをどう捉えていたかを物語るエピソードでしょう。

アリス・イン・チェインズのこのアルバムは素晴らしい完成度で後世に残すべき名作であることは間違いありません。一方でその商業的成功と音楽性を業界生き残りに利用しようとした古参のメタルバンド達はアリス・イン・チェインズからグランジの表面をパクり、自らの個性とは相いれない作品でファンの期待を裏切り続けました。メタル音楽の最も人気が低迷した時期がグランジ・オルタナ全盛期であるのは偶然ではないでしょう。グランジ・オルタナのブームの後にメロコア・パンクブームが来たことで、メタルの復興がさらに遅れました。

メタル音楽が本格的に復興し始めるのは2000年ぐらいでキッスがオリジナルメンバーで解散ツアーを始める頃(ツアーはまだやってますが笑)からではないかなと思います。もちろん明確な線引きは出来ませんが、「昔ながらのメタルはサイコーなんだ!」と米国で声を上げるのはそれぐらいの口実がないと「ダサい」と言われるメタル暗黒時代が長く続いたのは間違いありません。

メタルの暗黒時代をも作り出した、正に一時代を築き上げたグランジメタルの傑作。ぜひ聴いてみてください!

次回もパクれらまくったメタルを続けます。

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