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私的ジャズ論:マイルス・デイビス論 その3 - おススメの2枚目 Kind of Blue(カインドオブブルー)-
みなさん、こんにちは!花粉の薬は症状が出る前に飲むことが重要らしいので、慌てて飲み始めました。花粉症の方はいよいよシーズン到来なのでご注意ください。
さて、たった3枚でマイルスデイビスを理解する企画。前回はマイルスデイビスおススメの1枚目を紹介しました。まだ読んでない方はこちらからどうぞ ↓
音楽雑誌やネットでマイルスの凄さが語られている場合、多くがジャズの歴史的観点や音楽のフォーマットの説明に終始する場合が多いと思います。なので、あまりジャズを聴いたことが無い人にとってマイルスの何が凄いのか、話を聞いても結局のところよくわからないじゃないかと思います。前回記事はそういう方でも分かりやすく説明したつもりなので、ぜひ読んでもらえると嬉しいです。もちろん、今回も分かりやすく行こうと思ってます。
さてマイルスデイビスのおススメ盤2枚目のご紹介です。こちらです!
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この作品は「ジャズの金字塔」とも呼ばれているぐらい超有名な作品です。累計で1000万枚以上を売り上げているそうです。それぐらい有名かつ売れた作品なので今更説明しなくても良いのでは?というご意見もあるかもしれませんが、逆にだからこその今回のおススメなんです。
というのも、ジャズを聴いたことがない音楽リスナーがこれにいきなり挑戦しても、ほとんど良さが分からないことは珍しくないはずです。少なくとも「ジャズの金字塔」と呼ばれるような要素を聴きとることは不可能だろうと思います。そして、せっかくジャズに興味を持ったのに「やっぱり俺にはジャズは難しいわ」となってジャズから離れて行ってしまう。これはもったいない。
ジャズファン各自の好みはさておき、歴史的な価値で見ればこの作品はジャズ史上の最も重要な作品3枚には必ず入るはずです(あとの2枚はファンそれぞれ)。それぐらい重要かつ良い作品。なので、1人でも多くの人にジャズの良さ、この作品の良さを分かってもらいつつジャズを聴き続けてもらえるよう、私なりの聴き方を説明していきます。
まず、この作品の何がそんなに凄いんですか?という話から。この作品の凄さは大きく言うと、
・メンバーが凄い
・演奏が新しい
・影響力が強い
の3つです。
まず最初のメンバーですが、
・マイルスデイビス(トランペット)
・ジョンコルトレーン(テナーサックス)
・キャノンボール(ジュリアン)アダレイ(アルトサックス)
・ビルエヴァンス(ピアノ)*2曲目以外
・ウィントンケリー(ピアノ)*2曲目
・ポールチェンバース(ベース)
・ジミーコブ(ドラム)
です。ジャズではセクステッドと呼ばれる6人構成です。全員有名人ですね。特にホーンセクションの3人(マイルスデイビス、ジョンコルトレーン、キャノンボールアダレイ)は超有名人で、この後も大活躍します。コルトレーンに至っては、この後でマイルスバンドから独立しますが、そこでの活躍はこの時期のマイルスと肩を並べる影響力があったと言えるほどの人気者になります。
あと見逃せないのが、ピアノのビルエヴァンスでしょう。彼のピアノは、スウィング感やノリを優先するいわゆる黒人ジャズピアニストとは違い(彼は白人)、あまり跳ねずどこかクールでいながらロマンチックで知的な響きを持っていました。そのエヴァンスがマイルスと組んだ時にどんな音になるのかがここでは聴けるわけです。事実、彼とマイルスとの演奏はこの時期の録音でしか聴けません。
ちなみにこの作品は当時の発表順では前回記事でおススメした「Milestones」 の次の作品になります。前作でのピアノはレッドガーランド。彼が抜けてエヴァンスが加入したという流れです。これは、マイルスがモード奏法にこだわり、よりモードを理解し弾きこなせるピアニストということで彼になったわけなんです。が、エヴァンスは実は録音前に一度脱退しています。しかしマイルスはこの「Kind of Blue」の録音に際し彼を呼び戻しているんです。マイルスのこの作品に賭ける意気込みが伝わりますね。
2点目の「演奏が新しい」に移りましょう。メンバーの演奏が曲が持つコード(和声)から導き出されるメロディではなく、最初から音階を軸としたモード奏法に切り替わっていて、バンドの音の質感がこれまでのジャズとは全然違うんです。また、スタンダードやカバー曲を入れて親しみやすさやとっかかり感を注入することが多いジャズ作品において、全曲マイルスのオリジナル曲ということも、より個性を際立たせている理由の一つではあると思います。
前回簡単に説明しましたが今回改めてもう少し説明します。モードと言うのは音階のことです。例えば、ドレミファソラシドはイオニアンという音階(スケール)です。これをファから始めると、ファソラシドレミファとなりますが、これはリディアンと呼ばれます。こんな感じでいくつかのスケールがあるわけです。
文字で書くと最初の音をずらして並べただけで全部同じに思えてしまうんですが、実際には音の間隔が違うので並び替えると違って聞こえます。ミからファとシからドは半音階(黒鍵がない)なので、全音と半音の間隔の並び位置がずれることでスケール毎に全然違った響きになるんです。典型的な例としては、ドからドまで弾けば一番有名なCメジャースケール(イオニアン)で明るい感じですが、ラからラまで弾けばAマイナースケール(エオリアン)で悲しい感じになります。
このスケール的な考えでメロディをつなげていくことが慎重かつ大胆に導入されたのがこの作品と言えます。なので、全曲を通してコード感が希薄で、ジャズ特有のゴージャス感や華やかさは感じません。むしろ、かなりストイックでモノトーンな感じすら受けます。
でも、そもそも何故マイルスデイビスはこんなことを思いついたのでしょうか?彼もこの時点で著名なジャズトランぺッターですから、ジャズの王道的なプレースタイルでも充分に人気は維持・拡大できたと思われます。
私なりに例えます。仮に曲が C-F-G-Cというコード進行だったとします(実際にはこんな簡単なコードでジャズは出来ません)。各コードの構成音は、Cはドミソ、Fはファラド、Gはソシレ(鍵盤一個飛ばし)になりますので、各コードの該当箇所で、その構成音を弾いて(吹いて)いれば間違っては聴こえません。実際にはいろんな解釈で他の音もたくさん使えるんですが、コード構成音を弾いておけば間違いではないというのは確か。
一方で問題もあります。それはコードを理解して構成音を割り出さないといけないということ。事前に譜面が渡され練習できるのであれば何の問題も無いんでしょうが、アドリブ中心のジャズ演奏ではそこまで事前練習もできず、ライブはもちろんスタジオでもコード譜を初見で演奏できることが要求されます。その際、複雑なコード進行はプレーヤーにとってはかなりの負担になります。
マイルスはこの難題にいち早く気付いた一人でした。時代と共にコード進行がより複雑になっていくにつれ、演奏技術で追いつくのは大変なことだったはず。放っておけば無難な手癖フレーズの連発や逆にコードトーンばかりでアドリブがマンネリ化してしまう。この苦境から脱するための作戦、彼がもっとコードから自由になり、アドリブでメロディをより自由に奏でるための手段がモード奏法だったんです。
ここで、3点目の「影響力が強い」に移ります。
このアルバムが発表された当時、ジャズ界ではハードバップと呼ばれるスタイルが生み出され、いわばジャズの全盛期でした。ハードバップの幕開けと呼ばれる作品はこちらです。以前、記事でも紹介しています。
他の音楽ジャンルがそこまでメジャーではなく、録音媒体を聴く習慣がまだ定着していない当時、有名な曲のカバーをベースにアドリブ演奏を組み合わせたジャズは正に時代の音楽でした。酒場では連日連夜ジャズのライブが行われ大盛況だったようです。この「バードランドの夜」が発表されたのが1955年ですので、マイルスの今回の作品の4年前。
しかし、ハードバップ全盛期でありながら、ジャズメンの中により新しいことに挑戦しようという動きが出てきました。一人は今回の主役のマイルスのモードジャズなのですが、もう一つはフリージャズです。こちらはオーネットコールマンのこのアルバムが始まりと言われています。こちらも同年の1959年に発表されています。
オーネットコールマンのこの作品は、ある意味マイルスのモードジャズよりも急進的かつ過激なスタイルで、これまでのジャズとは全く異質なものでした。逆にまねしづらかったはずです。マイルスのモード奏法には理論的な根拠がありましたが、オーネットコールマンのフリージャズには理論らしい理論は見当たらない(だからこそのフリージャズ)。そもそも過激すぎて当時すぐに理解できたジャズメンは少なかったと思われます。
ただ、そんなマイルスのモードジャズと、オーネットのフリージャズですが、共通項もあるんです。それはジャズが演奏の緊張感を楽しむ音楽に(も)なったということです。
それまでのジャズは、原曲の良さを活かしながら、いかにアドリブでその演奏家の歌心を披露するかが勝負でした。美しいメロディやカッコいいメロディ、時にスリリングなフレーズなど、多くの人に楽器を通じて歌を披露していたと言っていいと思います。
しかし、マイルスもオーネットももはや歌にはこだわっていない。どれだけ緊張感がある音になり得るのか、どれだけ新しい音になり得るのかがより重要になったわけです。別の言い方をすればハードバップに象徴されるジャズではない、「じゃない方のジャズ」、「ジャズのオルタナティブ」が誕生したと言えるんじゃないでしょうか。
マイルスのモード奏法という当時としては斬新なスタイルは他のジャズメンの演奏に大きな影響を与え、以降のジャズ界ではむしろモードが主流派となっていきます。オーネットのフリージャズはより斬新なコンセプトなのでモードよりは波及に時間はかかりましたが、それでもジャズ界にフリージャズのウネリは到達しますし、マイルス自身もキャリア後期には「もはやフリージャズではないか?」という作品を出し始めます。
ジャズがメロディよりも緊張や新しさに重きを置き始める瞬間が1959年にあったということでしょう。
ここから作品中の曲を説明していきます。
最初の曲「So What」から。マイルスの口癖だった「だからなんだ?」からとった曲名だそう(言いそう笑)。マイルスの持ち曲の中では断トツの知名度でカバーも多い。このアルバムの目玉となる曲であることは間違いない。この後のライブでも定番曲になります。
かなりシンプルでモノトーンな感じですよね。でもこれがこの作品の良さなんです。前作で紹介した曲「Milestones」 にもどことなく似ている曲調と、全ては演奏家のアドリブパートのためにある様なミニマルな曲構成。「Milestones」はもっとアップテンポでスウィング感もありましたが、こちらはぐっとスピードが落とされている。なので、分かりにくくなったと思う人もいると思います。
話がそれますが、この曲のカバーで好きなのは、ロニージョーダンのバージョンです。こちらは曲のスピードも速くスウィング感が出ていて、メインテーマが終わった後からのメロディも良い。リズムも都会的。いやー、良いですね!大好きです。
マイルスの曲の説明に戻ります。
この曲はピアノとベースのイントロというちょっと変わった始まり方ですが、逆に印象的。それが終わるとメインテーマになります。メインテーマはグルーヴを感じるベースの繰り返しフレーズ。ベースのメインテーマで始まる曲はジャズでは実は珍しいんですが、そんなこと微塵も思わせないかっこよさ。そして「パーーパッ」とホーンセクションとピアノのコーラスが入るアレンジもさすが!この時代のマイルスやメンバーが絶好調だったことが伝わってきます。素晴らしく印象的なイントロとメインテーマが終わると各自のソロパートになります。ソロの順番は、
・マイルスデイビス(トランペット)
・ジョンコルトレーン(テナーサックス)
・キャノンボール(ジュリアン)アダレイ(アルトサックス)
・ビルエヴァンス(ピアノ)
という流れ。アドリブは誰一人としてノリノリな演奏をするのではなく、曲が持つ特性と自分が出す音の距離感や全体との位置関係を確かめてながらの演奏といった雰囲気。メンバーはマイルスデイビスが出したい音を必死に探しながら演奏しているような感じにもとれます。この全体を覆う決して脊髄反射でスウィングしないクールさと、出される音の緊張感がこの作品共通のテーマになっています。
マイルスに至っては速く吹いている箇所がほとんどないぐらい一つ一つの音に集中している。奏でるメロディーもハードバップのジャズで一般的なバックのコードに合わせた鼻歌系メロディーはほぼ聴かれません。スケール(音階)で歌われるこれ以降のジャズの香りがプンプンする。この知的さというか新しさが良いんです!もはや鼻歌でこのメロディーは作れません。
サックスの2人も素晴らしい。
まずコルトレーンからですが、前作からさらにうまくなっている。音に自信がみなぎっている。特徴的な吹きあがりフレーズや速吹きを織り交ぜながらモードらしい音を奏でます。
次のアダレイも良いですね。手数の多さと言うかフレーズのバリエーションで言えば、マイルスやコルトレーンを完全に凌駕している。この人、最初は学校の先生になろうとして音楽で食べて行くつもりが無かったらしいですが、本当でしょうか?
ピアノのエヴァンスのプレーも特徴的です。彼名義の作品で聴かれるような華やかさでロマンチックなコードワークは鳴りを潜め、モノトーンで複雑そうな和音を紡ぎ出します。それでも随所にビルエバンスらしさは感じられる。そのぎりぎりのところが聴けるのもこの曲の良いところ。マイルスがエヴァンス起用にこだわった理由もこの適応力にあったと思われます。
ポールチェンバースのベースも終始メインテーマを織り交ぜながらのベースラインが特徴的で、各メンバーのアドリブタイムでは、後ろで「ブン!ブン!ブン!ブン!」と4ビートで刻むメロディーが心地よい。ドラムも決して激しく叩くことなく、「ストンッ、ストンッ」と音の間隔を埋めるようなドラムやシンバルを使った刻みの説得力が凄い。この味わいはジミーコブならでは。
このベースとドラムのコンビはこの作品で終始良い味わいを出しています。出しゃばらず、引っ込み過ぎずと言った感じですかね。
いやー、全てがただただ素晴らしい。
ちょっと長くなってきたので、2曲目以降は短めに行きます笑。
2曲目は「Freddie Freeloader」で、この作品中この曲だけピアノはビルエヴァンスではなく、ウィントンケリーと言う人気黒人ピアニストです。やはりピアノから立ち上がる音の雰囲気は明らかにスウィンギーもしくはファンキーになっていて、「ポロン、ポロン」と跳ねるように出される鍵盤からの音はこの時代の黒人ピアニストのそれ。ただ、この曲のこのカラーが無ければ、この作品は緊張感で聴く側が疲れてしまう。ここでのウィトンケリーのピアノやバンドのノリの良さがアルバム全体の良いアクセントになっています。
ウィントンケリーのピアノソロの後にマイルスのソロが続きます。決してスウィンギーにならずどちらかと言うと直線的なソロが印象的。ところどころ出てくるシンコペーション部分でグルーヴを感じますが、この作品以降のマイルスはシャッフル系のアーティキュレーション(演奏の味付け)を嫌っているフシは感じます。
コルトレーンもアダレイも、ここでも最高のプレーです。むしろ1曲目よりも饒舌に吹いている感がある。恐らく1曲目よりメロディーを見つけやすい曲だったのかなとは思います。こちらの曲の方がこれまでのジャズフォーマットには近いので。
3曲目「Blue in Green」はピアノのエヴァンスの静かでどこか冷たくも美しいコードワークから始まる印象的なバラード。そこからマイルスのこれまた音数が極端に少ないトランペット。この曲のトーンを決定づけています。そこからエヴァンスの美しいソロパート(コードワークもいい!)、そしてコルトレーンのソロパートへ。ここは彼の歌心が溢れ出ていて素晴らしい!エヴァンスのピアノを挟んで再びマイルスのフレーズになり、エヴァンスの耽美的なピアノで終了です。一つも音を聴き逃さまいという気になってしまう、ながら聴き禁止・BGM禁止の素晴らしいスローバラードです。私はこの曲を聴いている途中で鳥肌が立つことがあります。この曲はアルトサックスのキャノンボールアダレイは不参加です。
4曲目は「All Blues」です。余談ですが、媒体の曲順が間違っているんです(昔はクレジット間違いはちょいちょいありました)。アルバム裏の印刷では「All Blues」は5曲目になってますが、実際は4曲目です。4曲目と5曲目が逆。最近の媒体も昔の再現を優先しているのか間違ったまま印刷されています。ライナーノーツの方には正しい曲順が書いてあります。
この曲は曲名からもわかる通りブルースです。リズムセクションが奏でる繰り返しフレーズの上でホーンセクション(と最後にエヴァンス)のアドリブが展開される曲です。ブルースと聞くとドロドロ系やマンネリ系などを想像してしまうのですが、この曲はそのどちらでもない、想像力溢れる曲になっています。
まず、リズムセクションが奏でるテーマのフレーズがキャッチーで口ずさめるようなメロディを持っていること。そしてホーンセクションのアドリブがいわゆるブルースにありがちなワンパターンフレーズでは全然ないことです。細かな音使いや間合いにも3者3様のオリジナリティが感じられる。さすがです。このレベルのミュージシャンになるとマンネリ定番フレーズはやらないですね。ピアノのエヴァンスもソロを取りますが、バッキングでいろいろ小技を効かせた難しいことをやってるようですが、ソロはやや控えめ。そしてメインテーマに戻りフェードアウトで終了。11分超えの大作です。
最後の曲、5曲目が「Flamenco Sketches」です。曲が持つ響きがフラメンコっぽいからこの名前ということのようです。フラメンコで利用されるスケールは「ミの旋法」と呼ばれ、これはモードで言うとフリジアンという音階(スケール)になります。要するにピアノで言うと白い鍵盤のミからミまで。このスケールを弾いてみるとわかりますが、どことなく中近東っぽいというかエスニックな香りの音がします。これがフラメンコにも共通する響きなんですね。私が結構前に書いたフラメンコの記事も一応載せておきます。
曲に戻ります。この曲もバラードですが3曲目のバラードとの違いは管楽器とピアノとの位置関係でしょうか?3曲目の方はピアノがしっかりと土台となっているのに対して、こちらの曲はピアノも管楽器も対等に音が鳴っている感じがします。淡い朝日のような色合いのエヴァンスのピアノに、スッと入ってくるマイルスのトランペット。音数の少なさはテーマなのかソロパートなのかもはや判別不能。曲の構成からすると、イントロだけがテーマで、そこから各自のアドリブパートのようです。マイルス→コルトレーン→アダレイ→エヴァンスの順にアドリブが進みます。
エヴァンスが弾くコードの関係だと思いますが、グッと引き締まり重たくなる部分があると思えば、ふわっと明るく開放される部分もあり、この繰り返しが癖になる曲です。ホーンセクションの素晴らしさは相変わらず。コルトレーンもアダレイも音数が少ないし小節数も少なめに聴こえますが、これ以上要らない!と言えるさすがの出来栄え。そしてピアノのエヴァンスのパート。美しいコードや考えられたメロディで聴かせます。一瞬スペイン風というか異国情緒的なメロディが出てくるんですが、そこも良い!そこから最後にマイルスが再びエンディングを取ります。エンディング部分で曲のスピードがゆっくりになっているような気がします(錯覚でしょうが)。かつ、メンバーがかなり音を小さくしていっているような感じもあり、今にも止まってしまいそうなフェードアウト感が逆に緊張感を高めます。そしてマイルスの静かな音色で曲が終わります。
どうでしょうか?今回のマイルス作品。この記事を読んで聴いてみたくなってもらえたら嬉しいです。自宅にこの作品が眠っているロックファンや他ジャンルの音楽ファンも一人や二人ではないはずです。ぜひ改めて聴いてみてください!
このアルバムは実際にフィジカルを手にするとわかりますが、エヴァンスが解説を書いています。そこには日本の水墨画の例えもあるんです。要するに、バンドはこの作品を録音するにあたり、事前に曲を練習することも無かった(別の曲でライブはやってました)。そもそもここでの曲は全て録音の際にメンバーが考え出したり持ち込んだものだった。下書きを伴わず素早く勢いを持って描かれる日本の水墨画のように、この作品に収められている演奏は全曲その場で初めて演奏されたものが収められているわけです。
とはいえ、実際にはマイルスは録音の際にいくつか指示を出していて、気に入らないと録音を中断したりしていたようです。その辺りのやり取りの一部を、この作品の別バージョンで聴くことができます。サブスクでも聴けます。マイルスがでっかい口笛(指笛?)で録音を止めるところも聴けるので興味のある方はぜひ聴いてください。
この作品がジャズに与えた影響は計り知れません。多くのジャズメンがモードを意識せざるを得ない時代になりました。ジャズが大衆音楽からジャズ好きのための音楽に変遷するキッカケとなったといって良いと思います。誰でも理解できる楽しいジャズから、独特の緊張感や「じゃない感」が分かる人のためのジャズへの変貌。
正にジャズの革新を体現した「ジャズの金字塔」の名にふさわしい作品です。
マイルス自身がこの作品で得た成功と達成感は、マイルスを「帝王」の座に導いたと同時に、のちにマイルスを苦しめることになります。ジャズ界を背負うほどの期待感や常に新しいジャズを開拓しなければならないプレッシャー。マイルスとバンドの快進撃はメンバーを変えながらもこの後しばらく続きます。しかし一方で、作品はどんどんと新しさや緊張感を増し、大衆の好むジャズはもちろん、ジャズファンが好むジャズからさへ遠ざかり始めます。
いかがだったでしょうか?マイルスを作品3枚で解説する連載の2枚目でした。今回、字数で言いますと9500字を超えてまして、私の過去記事の中で最長です。正直調べるのも、書くのも疲れましたが、皆さんが読むのにもちょっと長いかな?と思われたかもしれません。が、それぐらい価値のある作品なので、お許しくださいませ。
次回は最後3枚目の紹介になります。ちなみに、この連載を書いている最中にいろんな関連作や媒体を聴いたのですが(いろいろちゃんと調べて書いてるんです笑)、そういう情報も次回3枚目とは違う枠で紹介できればなと思っています。
興味を持っていただいた方は、次回以降の記事にもおつきあいください。
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では、また次回お会いしましょう!
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