私的ロック論 ジェフ・ベックを勝手に語る<その4>ソロ中期作品聴き比べ!
みなさん、お元気ですか?早いものでジェフベックについて書き始めてから既に4回目です。いつまでやってんだ!と言う声もあるかもしれませんが、全18作品を改めて(何度も)聴いて書き終わるまでやります笑。
今回は多くのロックリスナーがジェフベックの全盛期と認めるだろう、中期キャリアの作品群が対象です。キャリア的にはソロ・フュージョン期3作とその後のソロ期2作をまとめてソロ中期としています。
これより前のバンド期の記事はこちらです。知名度では劣るバンド期ですが、決して作品的にソロ期に劣っているわけではなく、聴かず嫌いはいけません。全18作のリストもありますので、ぜひそちらも読んで聴いてみてください。
前回記事はおススメ順に紹介しましたが、今回は僅差の作品も多いので、発表順に感想を並べ、どれが良いかは読み手が決める方式で進めたいと思います。
まずはソロ・フュージョン期の幕開け、そして傑作と名高い「Blow By Blow」から。
ジェフベックのキャリアで初の全曲インスト作品。プロデューサーはビートルズのプロデューサーとしても有名なジョージマーティン。バンドでいろいろと苦労が絶えなかったジェフベックがギターインストに活路を見出した作品と捉えることもできますが、ジョージマーティンの目論んだ音楽性も時代にばっちりハマり、ビルボード4位という大ヒットを記録しました。
私的にこのアルバムを短く表現すると「ギターが奏でるAOR」です。「いやいやジェフベックはバリバリのロックだろ?」という意見もあると思うんですが、このアルバムは隅から隅までジョージマーティン(やキーボードのマックスミドルトン → 彼はここでも大活躍)が積み上げる緻密なアイデアと音楽で埋め尽くされていて、ジェフベックが自由に弾きまくった風には聴こえません。なんなら、ジェフベックは録音の際にジョージマーティンに言われたフレーズを練習して弾いたんじゃないかぐらい、ギターオリエンテッドなサウンドと言うよりは、キーボード奏者やアレンジャーが主旋律を作ったっぽい作風なんです。サウンドプロダクションも至る所に音が散りばめられていて、シンプルなロックアルバムとは言い難い。
逆に言えばそのロックぽくなさ、ブルース感やペンタントニックスケール感の希薄さ(弾いてる音はペンタトニックだったりしますが)が、エリッククラプトンやジミーペイジとは明確にプレーの質を分けた、これ以降のジェフベックの個性と言えるんじゃないかなと思います。
このアルバムの一番人気の曲かつ聴きどころは間違いなく、6曲目「Cause We've Ended As Lovers(哀しみの恋人達)」でしょう。スティーヴィーワンダーから貰った曲ですが、完全にギターで歌い切ったジェフベックは見事としか言いようがない。この曲は音数が少なくスキマだらけなんですが、ギター以外他に何もいらない正にジェフベックの独壇場。ギター雑誌では数年に一回は楽譜が掲載されるほどの人気曲です。世界ロックギターインスト曲10選を選ぶなら間違いなく入る1曲のはずです(1位かもしれません)。
ちなみに5曲目「Scatterbrain」もギタリスト界隈ではテクニカルな曲で人気のようですが、個人的には曲の雰囲気が不穏で陰鬱なのでそれほど好きじゃないですね。
次の作品は「Wired」です。こちらは前作から1年後に発表されたインスト作品です。
アルバムジャケットのイメージ通り、この作品は前作には感じられないロックな感じと突き抜け感が特徴です。前作がAOR的もしくはポップ的なアプローチのギターアルバムだとすれば、これはロック的なアプローチのギターアルバム。事実、こちらを最高傑作に推すファンも多い。
まず1曲目「Led Boots」が素晴らしい(マックスミドルトンの曲)。しっかりバンド感のある音が充満している。ここには前作で強く感じた作り込まれた音楽と言う感じがしない。ジェフベックのプレーも実に活き活きして気持ちがいい。オーバーダブ(重ね録り)をやりすぎて通しで弾いていないんじゃないかと思わせる前作よりも、目の前で一通りちゃんと弾いている感がある。
アルバム全体のサウンドプロダクション的にも、隙間なくビッチリと音が詰め込まれた前作の音作りと比べ、格段にシンプルになり隙間もあって、こちらの方がロックファン的には居心地が良いでしょう。2曲目のようなジェフベックが好きそうなファンキーな曲があるのも良いし、ドラムやベースもこの作品ではしっかり主張しているのもダイナミック感が増している理由の一つ。
特にドラムのマイケルウォルデンがかなり貢献していると思われます。彼のドラムプレーはかなりアグレッシブだし、曲も全8曲中、4曲が彼の曲です(キーボードも弾けるようです)。彼のはつらつとしたプレーに、今作から参加のヤンハマーが楽曲のイメージをスケールアップすることに貢献しています(マックスミドルトンの鍵盤も引き続きグルーヴィで良い)。
アルバムの知名度では前作「Blow By Blow」に一歩及ばない本作ですが、中身をちゃんと聴いてみれば、甲乙つけがたいクオリティであることが分かります。今回改めて聴いてみてわかったのは、この「Wired」は少し大きめの音で聴くとバンド感が強調されて気持ちいいんですよね。個人的には前作「Blow By Blow」よりこちら「Wired」の方が好みです。
インスト3部作の最後を飾るのは「There And Back」です。前作から4年ぶりとやや間隔が開いて発表された作品です。
このアルバムを一言で表せば「どことなく宇宙的もしくは広い空間が広がっているスペイシーな作品」と言えます。ヤンハマーとトニーハイマスが生み出すキーボードサウンドがそうさせるんでしょう。ただ、一つ間違うとプログレ的やサントラ的なサウンドになってしまうこの手の音作りですが、意外とファンキーな要素もあり、ジェフベックもプログレ的なギターフレーズは持ち合わせていないのか、ロックの範疇に収まる作風になっています。ただ、ロック感やバンド感だけで言えば、前作の「Wired」の方が上だと思いますが、この作品の持ち味はそこではないんだろうなと言うのが私の個人的な意見です。
この作品が面白いのは、ジェフベックのギターが前作のバンド的なプレーと言うよりは、フュージョン的な事前に考えられたフレーズやスケールで音を紡いでいる感じが強く出ているところです。そうなると前々作の「Blow By Blow」に近い感じも受けるかもしれませんが、それよりもはるかに音数が少なく、ジェフベックのギター自体がスペイシーというかロングトーンを活かした歌うフレーズを連発します。特に前半4曲(かつてのA面)にそういう雰囲気が漂っている。
後半4曲も全般的にバンド的と言うよりはギターAOR的なサウンドが支配します。5曲目7曲目のいかにもギターフュージョン的な曲があったかと思えば、6曲目はフワフワした曲でどことなくプログレッシブ感がある。8曲目はこのアルバムの作風を象徴するかのような、スペイシーなギターソロ。バンドで音を作りましたというよりは、キーボードで作ったんだろうなと言う曲調です。
ソロ・フュージョン期の3部作の中では地味な印象のある「There And Back」ですが、作風が個人的には好みで聴く回数だけで言えば「Blow By Blow」や「Wired」よりはこちらを聴くことが多いです。このアルバムを聴いてジェフベックのギターを好きになる、という人は少ないのかもしれませんが、それでも作品のクオリティはかなり高く、今なお充分に聴ける説得力を持つ作品だと思います。個人的なインスト3部作を好きな順に並べれば、
「Wired」→「There And Back」→「Blow By Blow」になりますかね。BGM的に聴くなら、「There And Back」が一番耳なじみが良くお気に入りです。
ここまでがソロ・フュージョン期で、以降は長くソロ期(歌ものあり)に入ります。
ソロ期の幕開けは「Flash」からです。この作品は1985年発表で、前作からは実に5年ぶりになります。これまでのインストアルバムではなく歌ものでヒットを狙いに行ったのかな?と思うプロダクションです。音的には時代を反映し、シンセサイザーや打ち込みによるポップで踊れる音楽が強く意識されています(踊れませんが)。プロデューサーは当時マドンナで大成功していたナイルロジャース。音を一言で言えば、" ジェフベック・ミーツ・ダンスミュージック " でしょうか。
ロックテイストはほぼ皆無で、ジェフベック自身も気に入っていない作品のようです。が、私はぜんぜん嫌いではないです。音像的にはごちゃごちゃし過ぎている感じはします。シンセサイザーとリズムセクションの打ち込み的な音が大きすぎるので、リズム音を10%小さくして、シンセサイザーも5%小さくして、ジェフベックのギターの音を10%上げてくれれば、もっと人気のある作品になったかなと。
曲のクオリティもチャートを賑わすほどのポップさはないですが、逆にそれがギタリストのアルバムっぽいし、ジェフのギターもハードロック・ヘヴィメタル隆盛期の影響を強く受けたのか、重めで音密度の高いギターサウンドが良く鳴っていて心地よい。
そんな時代の音が詰まったこの作品ですが、一番の聴きどころはカーティスメイフィールドのカバー「People Get Ready」なんですね。この曲だけ完全に時代感や作風も全く違って浮いてしまっているんですが、とにかくよい曲だし、旧友のロッドスチュワートが歌っているしでオールドファンもひとまず大満足と言うことになりました(多分)。こっちの路線で作った方が売れたかもしれません笑。
次は今回記事の最後「Guitar Shop」です。1989年作ということで、前作のフラッシュから4年後の発表です。この作品はグラミー賞を受賞しているらしいです。作風は再び全曲インストのアルバムで、ジェフベックのギター以外は、キーボードとドラムと言う3人編成です。
前作が作り込みが過ぎてガチャガチャしたプロダクションだったので、もっと空間を活かしてロックぽくと言うことになったんだろうなと思います。音空間が広めで奥行きがあり、リバーブがかかったサウンドはどことなく90年代J-POPを感じさせますが(もちろんこっちが先)、確かにジェフベックのギターは良く聴こえるし、珍しくというか弾きまくりで、ギターサウンドも太く密度も高くてギター好きには満足度は高いはずです。
私がこの作品を最初に聴いて思った感想は「ドラムのテリーボジオって凄いね」です。頑丈な体幹を感じる力強くブレないビートと曲に合わせた的確なグルーヴ感、オシャレで小味も効いたフィルイン、ドラムの音も良いし、ジェフベックが気に入ったのもわかるなと言う実力ぶり。アマチュアのドラマーは一度は聴いておいた方が良いですね。好きか嫌いかは別にして、ここまで幅広い曲でしっかり叩ける人は世界でもそうは多くないんじゃないでしょうか?
キーボードのトニーハイマスですが、この人はこの後もジェフベックとかかわっていくことになる人ですが、2作前の「There and Back」から既に参加しています。正直言うと、キーボーディストとしては、以前の盟友マックスミドルトンほどジェフベックに合ったセンスを持っているとは思えないです。理由としては、トニーハイマスは音が黒くないというか、ソウルミュージックの影響が全く感じられない、終始プログレやディスコみたいな演奏だからでしょうか?「There And Back」ではそのプログレ的と言うかスペイシーな演奏が作風と合致していたのですが、90年代に近くなると時代と感性がずれてきたのか、プレーの切れの無さが目立ちます。
曲はこれまでの作品の中では大幅にモダンに仕上がっていますし、サウンドプロダクションも良いのですが、無理やりモダンにしている気もしてナレーション(ラップではない)が入るような曲では「うーん」とか思ってしまう。であれば歌を入れればよかったのにと思います。
ギターがど真ん中にいる聴けるアルバムですが、どでかく重いテリーボジオのボトムとプログレのようなスペイシーなトニーハイマスのキーボードは、もはや第二期ジェフベックグループやソロ・フュージョン時代の質感とは別物。このアルバムの主役はジェフベックではなく、テリーボジオかなと笑。でも8曲目の「Two Rivers」はジェフベックのギターメロディが美しくて好きです。
ここまで80年代末までをジェフベックのキャリア中期ということにしていますので、今回の聴き比べはこれで終わりとなります。
いかがだったでしょうか?この時期のジェフベックは人気も高くたくさんの評論やレビューがありますし、既に聴いている作品もあったのではないかと思います。皆さんの感想と同じなのか違うのかは気にはなりますが、まずは自分の耳を信じてどう捉えたのかを書いてみました。感想を気に入ってもらえたり、記事を参考に実際の作品を聴いてもらえたら最高ですね。
次回は、ジェフベックのキャリア後期の記事となる予定です。
お楽しみに!
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