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私的ジャズ論:「レコードコレクターズ 2024年11月号ブルーノートベスト100」 <その3>ランキング外のおススメなど

みなさん、お元気ですか?今回はこのレコードコレクターズの特集の最終回と言うことで、ランキングに入っていないおススメや、このランキングについての感想を述べて終わりにしたいと思います。

では、ランキングに入っていないおススメから行きましょう!

CLIFF JORDAN,JOHN GILMORE(クリフ・ジョーダン, ジョン・ギルモア):BLOWING IN FROM CHICAGO(ブローイン・イン・フロム・シカゴ)

Cliff Jordan, John Gilmore / Blowing In From Chicago

どうですか?まずジャケットがかっこいいでしょ?このアルバムはジャケにも映っていますが番号が1549番なので結構初期の作品になります(ブルーノートの12inchサイズ(今のLP)になってからの作品は1500番台から)。なので、今回のランキング投票している評論家でジャズ畑の人は聴いていないはずはないんですけどね(第1号の1501番のマイルス・デイヴィスの作品は第37位にランクインしています)。

これはテナーサックス2人による作品です。ピアノとドラムは前回おススメした2枚目の「バードランドの夜 Vol.1」と同じ2人で、どちらも自分名義のアルバムが出でている人気アーティストです。前回記事はこちら ↓

まず1曲目「Status Quo」がハツラツとしていて最高にジャズを感じる快演。正直どっちがクリフ・ジョーダンでどっちがジョン・ギルモアか判断できないんですけど笑、そんなことはどうでも良い!都会的(シカゴの勢いすら感じる)で明るく前向きでカッコいいジャズ。皆さんにせめてこの1曲目だけでも聴いて欲しい(Spotifyにはあります)!

このアルバムが好きなもう一つの理由は、バラードがないことなんです。ジャズにはバラードがつきもので、アルバムには1曲ないしは2曲ぐらいはバラードが入っている。バラードは安心して聴ける半面、アーティストの特徴も出にくいし、曲によりますが昔のスタンダード(古すぎて何が良いのかわからない曲もある)をジトーっとやられると暗い気分になりやすいが、この作品にはそれがない。

このアルバムがランキングに入らず、マイルス・デイビスの1501番が入っているのは、評論家がちゃんとアルバムを聴いているのか怪しいと思ってます。正直「ここでもマイルス・デイヴィスですか?(悪い意味)」という感じ。

次のランキング外のおススメはこちらです(白ジャケなので色が飛んでます)。

DON WILKERSON(ドン・ウィルカーソン):     PREACH BROTHER!(プリーチ・ブラザー)

Don Wilkerson / Preach Brother!

これもジャケがかっこいい!ウィルカーソン兄貴(ドン)の勢いを感じる1枚です。アルバムの最初から最後まで男性的な野太いテナーサックスで歌いまくる感じの作品。バンドの音にも適度に隙間があってジャズ初心者にもやさしいはず。ギターのグラント・グリーンがほとんどコードを弾かず単音なのと、バッキングもかなり控えめだからだと思いますが、それも彼の味ですね。ピアノのソニークラークは、こちらも前回のおススメ「クール・ストラッティン」のピアニスト。

全6曲なんですが、うち3曲がダンサンブルで、これが良いんです。しかも、6曲全て彼のオリジナルと言う充実ぶり。特に3曲目「Dem Tambourines」が時が経ってクラブ・シーンでウケたらしいんですが、個人的には1曲目も4曲目も好きです。最後の6曲目も踊るまでは行かずとも明るくて彼らしい曲。ちなみに彼はレイ・チャールズのヒット曲「アイ・ガット・ア・ウーマン」や「ハレルヤ・アイ・ラブ・ハー・ソー」でテナーサックスを吹いています。

この作品がランキングに入らないというのも納得がいきませんが、なにせ日本のジャズブームは昭和でジャズ喫茶がその発信源だったわけなので、眼を閉じタバコをくゆらしながらじっとスピーカーから出てくる音を聴き続けた多くのジャズマニアにとって、知的だったり難しいジャズが有難がられる傾向にあったというのは想像に難くない。一方でこういう理解しやすくダンサンブルな作品は格下と見られていたというのはあったはずです。

今回おススメの2枚、聴いてみてもらえると嬉しいです。言っておきますと、両作品ともテナーサックスがリーダーのアルバムになってしまいました。やはり私がテナーサックス好きなのと無関係ではないとは思います笑。

そろそろ、今回のシメに入ります。

今回のレコードコレクターズのブルーノートランキングですが、いろいろと考えさせられます。ちょっと分解して挙げてみます。

・ジャズレーベルと言えば「ブルーノート」となりがちだが、他にも名作を抱えるジャズレーベルはたくさんある。ロックではレーベル別なんてナンセンスなランキングは無いのに、ジャズだけ存在するのはどうなのか?

・ジャズの名作が一向に変わり映えせず、恐らく平成元年にこの雑誌で同じブルーノートベスト100をやっても同じ結果だろうというレベルでしかない。

・100枚というリストが多すぎる。1万人から集めた結果であれば100位までの意味はあるかもしれないが、20名前後の有識者でワイワイガヤガヤやっているぐらいなら、上位20位ぐらいまでしか有意な集計結果は出ないはず。

別の角度でちょっと説明します。

何でジャズはいつもブルーノートばかり特集するなのかな?とまず思います。ブルーノートだと、ビル・エヴァンスとかスタン・ゲッツなんて1枚もないし、ジョン・コルトレーンだって、ブルーノートにたまたま録音した1作が傑作だったから良いものの、彼のその他の傑作は全て他レーベルです。

やっぱり、他の良盤を除外してブルーノートだけで100枚選ぶメリットがよくわからない。正直、今回のランキングの96位(テキトーに挙げた順位です)と97位なんて差はない。そもそも20名前後の識者の意見でしかないはずで票もそんなに割れていないはず。しかもランキングの後半になれば、必ず他のレーベルの傑作の方が良い作品になる確率は高い。

私も大人なので、この特集記事が恐らくブルーノート85周年の広告記事だからというのは想像が付きます(1位が「Out to Lunch!」だったのはランキングに特徴を出すためかなと思ってます)。また、なぜこれまでブルーノートばかりが取り上げられるのかも、ブルーノートがお金を使ってブランドを宣伝し記事にしてもらっているからだろうというのもあるでしょう。他のレーベルはそこまで努力していない(というか、もうこの時代のジャズを売る担当者や予算をわざわざ付けていないはず)。が、結果的に何が起きているかと言うと、ジャズが全く人気が上がらない昔の音楽、勉強しないと聴けない音楽になってしまっていることに一役買っているんじゃないかなと。

今回のこのランキングの選定基準も1968年までに発表されたものに限るという条件があります。ロックで言えば、ビートルズ・ストーンズ・ジミヘン万歳みたいな結果になるのがやる前から分かるようなランキング。これって今さら読んで楽しいですか?ジャズ全体のセールス向上につながるんですか?と思ってしまいますね。であれば純粋に、レーベルに関係なくしかも年代は1950年代・60年・70年代・・・現代という時間枠で切ってそれぞれベスト10ぐらいをやって後は分析や解説にした方が面白いし新しいファンも付きやすいのではと思います。もっと言えば、しばらくは1965年以前のランキングは不要。それぐらい同じ作品群ばかり。

もちろん問題もあるでしょう。ジャズ評論家の中には、この1950年代60年代ぐらいのジャズ以外はほとんど聴いていない向きもいるはずです(70年代以降はジャズもフュージョン化が激しい)。先日「メタル雑談」でも少し触れましたが、昔からのアイアン・メイデンのファンの多くは今のメタルをほとんど聴いていない。今でもアイアン・メイデンが出てきた80年代前後のメタルを愛聴しているという話と同じです。

つまり、今のジャズのランキングを作りたくても、聴いている層がほとんど見つけられない。評論家達はお金を払えば聴いてくれて良いことを書いてくれるけど、ランキングにまとまるほどの量にはならない。ランキングを集計すれば「ダイアナ・クラール」とか「ノラ・ジョーンズ」(個人的にはジャズじゃないと思ってますが)、「上原ひろみ」、「ロバート・グラスパー」(この人もジャズかどうか微妙)辺りが全体の半分以上持って行ってしまい、ランキングにならない。50年代や60年代の層の厚みが全くない。が、それでも1950年代限定ジャズ名盤ランキング100よりははるかに良い企画。

とにかく、今の若者を巻き込んで、広い層の音楽好きが魅力的と思える作品を発掘するべきなんじゃないと思います。J-POPで言えば「シティポップ」ブームがそれにあたる。発売当時恐らくほとんど売れなかった作品が、今の目線では「結構いいじゃん!」という取り上げ方をされて、CDもリマスターで再発、なんならアナログも出ている。サブスクもある。ジャズにもそういう流れや機運が欲しい。

例えば、私が好きなトランぺッターで「ドナルド・バード」と言う人がいます。この人はジャズの黄金期にも良い作品を出していますが、70年代のフュージョンブームでも良い作品を多数出しているんです。要するにみんな聴いていないだけ。

ジャズはもっと新しい視点での作品の発掘や開拓が必要だと思います。

これでレコードコレクターズのブルーノート特集に関する記事は終わりです。

次回記事の予定です。

前におススメで書きましたが、今回ランキング2位のジョン・コルトレーン「Blue Train」と4位のハービー・ハンコック「Maiden Voyage」が、「SA-CD」と言う非常に高音質と言われているフォーマットで 、"たまたま" レコードコレクターズのこの特集と同時期に発売されたんです笑。SA-CDはタワレコ企画のようですけど、どんなもんかなと思って買ってしまいました。

特に、ジョン・コルトレーンの「Blue Train」は、アナログ・CD3種類(24bitリマスター / UHQCD / SACD)の計4種類持っていますので、聴き比べてみようかなと思っています。オーディオセットは、いわゆるオーディオマニアの方ほどこだわっていませんが、一応マランツのSA-CD対応のCDプレーヤーと、同じ価格帯のマランツのアンプ、それなりのスピーカー(メーカーは忘れました)、デノンのレコードプレーヤーがあります。

最近はリマスターやらCDフォーマットの違いやら、いろいろ過去の名盤の再発を目にするのでその違いに関心がある音楽ファンも多いのかなと思っています。お楽しみに!

では、また次回お会いしましょう!

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