メンタルヘルス顧問:休職を拒否する「うつ」スタッフへの対応
メンタルヘルス顧問的な対応した時のことを書いてみます。
産業保健職から、メンタルヘルス不調の社員への対応方針について相談されました。
事例:
少し前から「うつ病」と診断され、短期間の有給休暇をとり、抗うつ剤の内服治療で「回復した」と通常勤務に戻った。
心配する上司と産業保健職とでは、<”食欲低下””睡眠障害””希死念慮”といった明確なうつ症状が出たら休職にしましょう>と相談していた。
このところ、再び元気がない様子となり、
3日連続で欠勤するなど、
周囲から見ても明らかに不調であり、業務にも集中できていない様子となった。
上司から休職してしっかり回復させることを勧めたが、
本人は「休みたくない」
「休職したら戻ってこれなくなるのではないか」と訴えた。
本人が希望していないので、主治医からも休職に向けた診断書は出ていない。
どのように説得したものだろうか
回答:
仕事ができるかできないか
セオリー通り、事例性と疾病性を分けて考えるのでしょう。
事例性とはこの場合、仕事が十分にできているかどうかです。
病院に入院するかどうかを決めるのが、
まず入院治療の必要があるかどうかであるのと同様に、
出勤をさせるかどうかを決めるのは、仕事が十分にできるかできないかです。
本人がどれほど入院をしたいと言っても、
入院治療の必要性がなければ入院はさせるべきではないのと同様に、
本人がどれだけ出勤がしたいとしても、
仕事が十分にできないのであれば出勤をさせるべきではありません。
労働契約は労働力の提供と引き換えに賃金などを得る契約です。
トマトを買おうとしたのに、痛んで食べられないものを渡されたら、苦情を言って代金の支払いを拒むのと同様に、
会社は不十分な労働力しか提供されないならそれを拒むことができます。
すなわち出勤停止です。
基本的には仕事ができれば出勤すればよく仕事ができないようであれば休職を命じるか、改善するように指示/指導する。
出勤させるか否かは仕事ができるか否かで判断するものであって、治療の必要性があるかどうかではありません。
そして、仕事ができない理由が病気であれば病気休暇が選択枝となります。
社員に休みが続いているとしても、それが有休の範囲であれば社員の権利の行使であり、出勤してきたときに十分に役割を果たせているなら、出勤はさせるものだと思います。
安全配慮義務と労働契約
それに加えて会社には安全配慮義務があります
この場合はすでにうつがあることは明らかなので、「うつが悪くならないようにすること」です。
「仕事をすることでうつが悪くなっているようだ」と判断したら、究極のところ「仕事をさせない」という判断になります。
そこまで判断しきれない時には、「仕事の負担を軽減する」ことになります。
しかし「仕事の負担を軽減する」ということは、仕事量を減らすということですから、不十分な労働力の提供に他なりません。
これを無制限に行うことは労働契約違反ですから、時限措置にするべきです。
「仕事の負担を一時的に軽減し、その間に労働力を回復してもらう」という措置です。
<当面の間、1か月(任意の期間)は業務の負担をこれこれのように軽減します。その期間が経っても回復しないようであれば、休職して労働力を回復させてください>という指示を与えることになります。
もちろん、その期間や負担軽減の内容は従業員本人と会社とで相談して決めることになります。
低下した労働力を回復させるために、
受診して処方の調整を受けるか、ただ休んで回復を待つのか、
休職となってしまった時に自宅で休むのか、入院治療を受けるのか、
病気休暇の制度を使うのか使わないのか、それは原則的には本人の選択になります。
ただ、弱っている従業員本人を助ける意味で、
<病気休暇を利用しなさい、医師の診断書を出しなさい>と助けるための指示を出すわけです。
休職の指示と本人はどうふるまうか
休職の指示については、大抵の会社では、
「何日以上、欠勤が続いた場合には休職とする」という原則と、
加えて、「それに準ずる状態の時には休職とする」とが
就業規則に定められているのではないでしょうか。
何をもって「欠勤の連続に準ずる状態にある」と判断するのかは、
<決定者が面接と勤務状況により、そう判断した>で良いはずですが、
やはり根拠がなくてはいけませんから、
従業員本人が「自分は休まなくて大丈夫だ、問題なく勤務ができる!」と主張する時には、
勤務の状態を“十分な労働力を提唱している”と判断するための基準を明示して、期限を決めて経過を見るのでしょう。
基準は業務の成果物、勤怠の状況などを組み合わせて設定します。
それが達成できないようであれば、
そのことを根拠として<休職が必要である>と産業保健職は判断し、
会社に報告して、会社から休職を命じてもらう。
そして、
<病気のせいだと思うので、受診して、病気のせいだという診断書を取ってきてください>と指示の形をとった提案をするわけですが、
もし本人がそれを拒むのであれば、それは本人の選択です。
受診をするかどうか、休職のための診断書も含めてどのような治療を受けるのか、どんな治療をする医師を選ぶのかは、本人の自己決定権ですから、会社には指示する権限は基本的にはありません。
まとめ
長々と書いてきましたが、
・仕事をさせるかどうかは会社が決めることではある。
・本人は「働ける、働きたい」というのであれば、それを行動で証明する必要がある。
・産業保健職は本人への病気の影響を判断する。
・・面接で従業員本人が自身の状態について判断するのをお手伝いする。
・・会社と従業員の間に立って、働けるかどうかの判断の調整をする。
・面接のみで決められるものではないので、観察期間を設定して働けそうかどうかについて判断する、という手順を会社に提案する。
・その観察期間と判断の一時保留を含めて、産業保健職と会社は安全配慮義務を果たす。
・十分な勤怠と業務の成果を出せれば良し、もし不十分であったら、それを根拠に会社は休職を指示/命令する。病気休暇を使った方が良いよ、と善意のおせっかいをする。
といったところになろうかと思います。
私であれば、
本人の言い分を少しだけくんで、2週間程度の勤怠と業務内容の観察期間を取り、
その結果で場合によっては引導を渡す選択になると思います。
と、解決とその限界の提示を行い、
後はやってみてその結果を受けてまた考えていくですね。