非融解性氷塊

目を閉じる。

少女の心は氷のように純粋で、透き通っていて、冷たかった。
身体の内側にある強固な氷塊が少女の心を凍らせた。血液が行き届かなくなった身体の末端部から腐敗してゆき、蝕み、やがて毀れる。
少女は心臓の辺りをおさえ、苦しそうに悶えながら痛みを表現するために、蒼茈色の唇を開き、叫ぼうとしてみるが、少女の口から溢れてきたのは雪のように白く今にも消えてなくなりそうな吐息だった。
少女の一歩前に立つ少年と目が合う。背が少女より少し高く、黒い長ズボンに学ランを羽織っている。つばの着いた帽子を深く被り、深淵とも形容できそうな帽子の陰からまんまるとした大きな目がこちらを訝しげに見つめている。少年が差し出した手にゆっくりと掌を重ねてみる。少女の手は少年に比べてとても小さかった。骨が剥き出しになった真っ白な手には、蒼茈色の血管が網目状に浮き出ており、今にも折れそうなくらいに脆かった。少年の手は温かかった。少年の手から少女の手へと温度という質量はなく形もないがたしかに存在しているものが伝わっていく。心の深い所に根ざしていた氷塊が少しづつ溶けていく。少女の手に温かい色がひろがっていき、唇に薄桃色が戻っていく。
少女は少年から目を逸らし、何を言うべきか分からないまま、ただ心の内側に秘めた淡い想いを伝えるため口をゆっくり開く。

「.......................」

目を開く。

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