いま、杉並区があつい!

 政治には興味がないという人が多いと思う。
政治は大事だが、政治家は自分勝手ばかりしていると
憤っている人も多いと思う。
私も、まったく同感なのだが、一方で、こういう、希望の持てる話もある。
 
 ミュニシパリズムという言葉をご存知だろうか。「地域主義」とか
「地域自治体主義」とか訳されていて、地域に根づいた民主主義や
合意形成を重視する取り組みのことだそうだ。
 ちょっと分かりにくい言葉だなと思っていたのだが、
これを歌にしてしまった人がいる。
「歌にしちゃえば覚えてもらえるから」というのだが、
その発想が凄い。
そして、何と! その人は杉並区の区議会議員になってしまった。
 
 話は2年前に遡る。
 2年前、東京都の杉並区では区長選挙があった。
杉並区では、それまでの区政の進め方に疑問をもつ人たちがいて、
住民の意見を聞いてくれる区長に変えたいなと思っていたそうだ。
 ただ、自分たちの周りには区長になるような人が見当たらない。
では、どうするか。
探すしかない。
そこで探してみたら、
いい人がいた。
ヨーロッパで環境問題やジェンダーの問題に取り組んできたNGOの人だ。
岸本聡子さんという。
 
 交渉して、岸本さんが立候補してくれることになる。
だが、投票日までは2ヶ月あまり。時間がない。
大体、みんな選挙運動には慣れていない。
20人くらい集まる会議ではチラシ1枚をどう作るかでも
話がまとまらない。
 
 朝の、駅前の宣伝活動についても意見が分かれる。
知名度がないのだから、名前を連呼することが大事だと皆は思うが、
肝腎の岸本さんは違う。
政策を訴えるべきだと。
従来型の選挙運動をやっているから勝てないのだと。
 
そんなこんなで色々あるけれど、みんなは一人街頭宣伝活動まで
やってのける。
手分けして駅前で、たった1人でマイクに叫ぶのだ
(マイクなしの人もいたみたい)。

とても勇気が要るだろう。
1人でやって、声が出るか。
 
そして投票日当日。選挙事務所には、30分ごとに開票状況の速報が入る。
9時     岸本さん、前区長、同数。
9時30分   岸本さん、前区長、同数。
10時    岸本さん、前区長、同数。
  ーーー
そして、最後の最後で僅差で勝利!
 
岸本さんの魅力と、みんなの体当たりの応援が奇跡を起こした
(と言ってもいいでしょう)。
 
そして昨年、今度は区議会議員選挙があった。
岸本さんを応援した何人もの人が区議会議員選挙に出て、当選した。
新人の女性が大量に進出したため、杉並区議会では女性が過半数を
占めるようになったという。
 ミュニシパリズムを歌にした女性も、めでたく区議会議員になった。
 
 「〇月〇日、区長になる女」という映画が、今評判だが、実は、
ここに紹介した内容は、この作品の一部なので、詳しくはこの作品を
直に見て下さい。
 元気が出ること、請け合いです。

 この話は、最近、NHKでも取り上げられた。
街頭の宣伝は、候補者が一方的に演説するものだが、
岸本さんは違う。
聞いている人の意見を聞く。
時には、座り込んで。
私は、びっくりした。
こんなやり方もあったんか、と。

 また、ある区民の方が話している。
「区議会議員なんて遠いものだったけど、
自分たちの仲間が議員になった」と。

 勿論、岸本さんも、区議会議員の皆さんも、これからが大変だろう。
色々な意見の対立や利害関係があるだろうし、第一、岸本さんを
応援してくれた人たちも、当然一枚岩ではない。
共産党、立憲民主党、無所属等々。
 
 それでも、普通に生活している人たちが、自分たちだけの力で
区政のあり方を大きく変えたという事実は圧倒的だ。
これから倦まず弛まず熟議を重ねていけば、成熟した政治のあり方を
実現する可能性を秘めていると思う。
 国政の体たらくを見て、政治に辟易したり、この国の行く末を
悲観するしかないと感じている人たちも、政治とは本来、
こういうものなのだと見直すだろう。
 
 なお、国政では能登半島地震への初動対応の鈍さが厳しく批判されて
いるが、東京都の練馬区では、耐震補強工事への補助金を充実する
というニュースが入ってきた。
 緊急事態にあっては、このスピード感が大事なのだ。
普段から、綿密な仕事をしているからこそ、できる決断だろう。
 地方自治体の方が優れた行政を行っているという好例である。

                 (2024年1月23日) 

 念のため: 私は東京の近県に住む者で、この小文に出てきた人たち
      とは一面識もありません。
       また、映画の関係者とも何の関係もありません。
       純粋に、私が感動したことを一人でも多くの人にお伝え
      したいという思いで、この小文を書きました。         
      

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