過去の私の作品㊶
生まれたばかりの青白く透明な蝉が目の前の幹を辿るように登っていく。
生まれた時から最後が見えている僅かな時間を精一杯生きるために……
空が白みおひさまの匂いが風に乗って届く頃、白かった体が強さをました色になる。
生きるための色になる。
視界もはっきりしてきた時、目の前の風に揺れる葉に恋をした。
風に揺れるたび行ったり来たりを繰り返し、出たり隠れたりを繰り返す。
いたずらにおどけるように踊ったり、微笑むように揺れる姿に蝉はどんどん惹かれていく。
自分の思いを伝えるように精一杯の声とパフォーマンスで歌うけど、その思いは伝わらない。
次の日も、また次の日も.………
恋の歌を歌い続ける。
でもある日…….…
力尽きて幹から体が離れてしまう。
暖かな土の上で静かな眠りにつくときに、あの葉っぱが枝を離れて落ちてきた。
まるで掛け布団のように 蝉の体を優しく包み込み
蝉は幸せそうにそっと静かに眠りについた。