不幸を望むひと

「最近つまんない。急にお母さんが死んで、わああ!どうしよう!!って焦ったりするような非日常が起こらないかなって考えてる。」
なんだったか、刺身が沢山のった丼を食べながら友人が呟いた。

ふーん。
今こうしてバイト代で旅行してるのも非日常だと思うけど。

大学2年生の時、同郷(といっても彼女は県庁のある都会、私は海が隣にあるド田舎だけど)なことをきっかけに仲良くなった子と旅行に来ていた。
街中ではなく、崖に行ってみたいという私の要望に賛成してくれた子は初めてで、張り切って計画を立てた。

いざ旅行に行くと、崖に行く道中も、崖についても、彼女は立ち止まらない。こんなに時間をかけてきたのに、景色はいいの?
一番楽しそうだったのは、旅行前の電話で「なんか~バイト先の人に崖に旅行に行くって言ったら、すごく変な子だねって驚かれちゃった!!」と報告してきた時だった気がする。

今になれば、アイデンティティ迷子が、他人の趣向や事件に頼って特別な何者かになりたかっただけなんだと分かるんだけど。

勿論この旅行はもめた。結局絶交で旅行は終わった。
何もかも合わなかった。

奨学金無し、仕送りあり、旅行先ではタクシーを使うのが当たり前、本当は崖になんて興味ない。

奨学金300万、仕送り無し、タクシーの選択肢が頭にない、崖で波が岩にぶつかるのを暫く見ていたかった。

恵まれてる人間が、自分の頭貧しさに、わざわざ不幸を妄想してる姿を今でも忘れられない。

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