第231回:毎週「Nature」誌から一つ、論文のabstract(日本語要約)を選んで、解説しながら紹介するとどんな風になるか? の49回目

性懲りもなく、研究費の申請書を書いております。あ、時々実験もしておりますけれど。今年度の研究費申請額は今のところ、2~3年の研究が3件で4,300万円。で、今さらに、2年間400万円を作成中でございます。

それほどお金がかかるのか? というご意見はよくあるのでしょうけれど、違うんです。地方国立大学はお金がないんです。教員の定数は削減されるし、教育・研究にかかわる予算も縮減されています。電気代も上がりますので、結局手取りは数万円か? というときもありました。

ですから、継続的に研究費を獲得することが研究者として生きていくためにとても重要なことです。

IPS細胞でノーベル賞を授与された先生が良くご寄付を~と呼びかけるのを時々目にしますが、あちらは年間予算XX億円の研究所です。こちらは地方国立大学で、年間X万円かXX万円です。

そんなに違うんですね。ですから、早く大学を整理整頓したほうが良いと思います。その前に、まずは教員を流動化させる工夫が必要だと思います。力のある人は何とか研究費を獲得していけるでしょうが、それほど力のない人でも安穏と容易に研究費を獲得しやすくなっている現状はちょっと辛いですね

ということで、今週号のNature誌(Volume 631 Number 8022)にはどのような記事が掲載されていたのでしょうか?

まず、目に留まったのは、「進化遺伝学:ウマを用いた移動の普及はユーラシアで紀元前2200年頃に始まった」です。

いぜん、北海道で娘と馬に乗ったりしたことがありましたが、その馬も、家畜(というか、人の生活の中に入ってきた)化した歴史があったのですね。そりゃそうだ。馬ももともとは野生の生き物だったでしょうから。

で、面白いのは、古代のウマゲノム475例を集めて解析したという点です。やはり遺伝情報というのは、科学を変えていっています。その安定性も、解析のしやすさも、大きな特徴になっていて、このような点が様々なことを明らかにして行っています。

この論文では、簡単に言ってしまうと、どの年代に馬の家畜化がなされたかを推定したという簡単なものですが、「古代のウマゲノム」ですらも解析できるというところが非常に興味を引きました。

もう一つは、「微生物学:細菌はユビキチン様タンパク質を結合させてファージの組み立てを妨げる」です。この論文は「微生物学:細菌の抗ウイルス防御における真核生物様のユビキチン化システム」とback to backになっているようですね。タイトルのみ安さから「細菌は~」のほうを選びました。内容はそれほど違わないように思います。「細菌は~」のほうはイスラエルの研究グループのようで、もう一つのほうは米国の研究グループのようです。

ユビキチンというたんぱく質はアミノ酸が70個くらい(72個だったかなあ?)の短いタンパク質です。それ単体では機能はないといってもよいですが、タグのような役割をしています。

このユビキチンが標的のタンパク質に結合させられると、標的のタンパク質が分解されたり、細胞内の局在位置が変化したりします。

ユビキチンのシステムは真核生物、簡単に言うと、酵母(カビですね)以上の実験生物には確認されてきていますが、細菌のような原核生物には存在しないと考えられてきました。

でも、これら二つの論文はユビキチンのようなシステムが細菌にもあったことを示しています。

どこで働いているかというと、細菌に感染するファージの排除に働いているということです。

細菌とファージの関係性も結構複雑化してきています。もともと細菌に感染したファージのゲノムが細菌の染色体に取り込まれて(溶原化といいます)来るべき子ファージができるタイミングまでそのまま細菌の染色体内に潜んでいます。で、何らかの刺激によって、染色体から切り出されて子ファージ粒子が産生されるようになると、感染していた細菌を溶かして子ファージは細菌外に出ていきます(溶菌といいます)。

この細菌にファージが感染して子ファージが出ていくときに、細菌は溶かされるわけですから、細菌としては生存戦略に穴が開いている状況になります。そこで、細菌のほうは一度感染したファージには感染しにくくなるように、いわゆる「免疫」として機能するシステムを身に着けました。それがCRISPR/Casシステムです。

今では、CRISPR/Casシステムは遺伝子操作によく使われるようになりましたが、もともとは細菌の免疫システムです。

今回の論文は、このような細菌の免疫システムの一つに細菌のユビキチンのようなシステムがあったという論文になります。

今、研究費の申請をしたり、実験をしたり、各種会議に出席したり、講義したりしている間で、論文を読んで、こちらに解説できそうなものはないかと調べているのですが、今一つ面白みがないのです。今回の論文は、またまた読んでみて、面白そうであれば、こちらで紹介してみます。

古代ウマゲノムだったりして…。


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