第230回:毎週「Nature」誌から一つ、論文のabstract(日本語要約)を選んで、解説しながら紹介するとどんな風になるか? の48回目

ちょっとまた、忙しくなってきています(勝手に忙しくしています)。やっぱり、研究費のすべてが競争的でかつ研究グループの規模がとてもちっちゃいという地方大学の状況はなかなかつらいものがあります。まさに自転車操業。でもNature誌だけは目を通しております。ですからたとい短いとしてもここには記載したいですよな。

さて、今週のNature誌(Volume 631 Number 8021)にはどのような記事が掲載されていたのでしょうか?

まずは、「ゲノミクス:98万3578人におけるタンパク質コード領域の多様性についての詳細なカタログ」です。

はっきり書いてしまうと、もうこのようなデータ解析の論文は、その解析手法をフォローすることができない(あ、フォローできないのは私ですけれど、なにか?)ので、一番重要な解析課程を理解することができません。ですから、抄録を読んで、そういうことか~とぼんやりと理解するしかありません。

ただ、あくまでデータ解析でありますので、特に今回のように。「4848遺伝子においてまれな両対立遺伝子性pLOFバリアントを持つ人を特定した」というような場合には、必ずしも症状として露呈していない場合もあるだろうから、どういう意味合いがあるかについては、あくまで「数学モデル」というか「解析上の重要性」というだけで、実証されたわけでは、もちろんありません。

ですから、このような論文を読んだ場合には、今後の展開を考えるしかなくなります。この点は、他の実験の論文とは異なるところです。実際に実験をしたような論文であれば、そこに用いられている解析手法がどれほど先端的で、個人的に行ったことがないとしても、それほど問題はなく「あぁ、そうか」と、納得できるものではあるのです。

でも、データ解析はつらい。勉強しようとも思わない。それを「前頭葉の萎縮」とか思いたくはないけれど、「え~一から勉強すんの~」という気にはなりますね。

で、いつもいつもの見解ですが、この遺伝子の機能をなくした(かもしれない)変異をカタログ化するということは非常に意味がありますが、もちろんこれらすべての検証が重要になってきます。ですから、実際に、患者の検査材料を今後すべて全ゲノム解析、全遺伝子発現解析を行って、それも全世界的にですけれど、データベース化してその後にまたまたデータ解析をして統計学的な相関関係を図るということが重要になってきます。

よく講義でも学生にいうのですが、現在20歳くらいの学生は今後50年くらいは元気に働く可能性がありますから、この50年の間に医療は大きく変わるのでしょう。その中心になる技術はやはり画像解析技術と遺伝子解析技術だと思います。それに付け加えるとすればAIですが、AIはあくまで補助的なものですから、上にあげた二つの解析技術が医療の中心となった時に、この論文のようなカタログがだんだんと整備されて行って、その精度が上がった時には予後予測とか治療戦略の選定とかに大きな情報を与えるようになるのだと思います。

もう一つ、読まないとわからなそうな論文がありました。「植物科学:効率的な植物ゲノム改変のための、トランスポザーゼに補助される標的部位への組込み」です。もちろん領域外の論文は基本的には読んでもわからないんですけれど、解析技術論文は読むようにしておりまして、その場合には領域外でも結構アイデアをもらうことが多いので、ちょっと読んでみたいのです。

一般的に植物の遺伝子操作は難しいとされてきました。ですから掛け合わせ(交配)のほうが実用的に用いられてきました。でも、例外はないわけではもちろんなくて、実際に遺伝子組み換え作物というのはあります。でも、遺伝子標的という意味であれば、動物の世界で、CRISPR/Cas9システムがそれまでのノックアウトマウスやノックインマウスの作出技術を圧倒的に変えてしまったような技術革新はこれまでありませんでした。

今回の論文は、明らかに動物の世界で行われてきた技術を植物にも応用してみようというようなことで、かなり挑戦的な論文なのでしょう。この論文についても、読んでみたいと思います。


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