話すことだけがコミュニケーションではない
とびさんと仕事をした時、コミュニケーション能力について学んだ。
そのとびさんは架設班のリーダーであり、今まで仕事をしてきた中で、最も口数が少ない人だった。3年ほど建設業界で管理職として働いているが、しゃべらないという点に関しては、ぶっちぎりのレベル。
だから、初対面の時は足がすくんだ。会話の少なさ、とびさんの存在感の大きさといったところにプレッシャーを感じていた。「この先、しばらくこの人と仕事をするのか・・・」と、だるさを覚える時もあった。
しかし、いざ仕事が始まると、順調に進んでいく。なぜなら、寡黙なとびさんのコミュニケーション能力がとんでもなく高かったから。クレームが入りそうな作業の時は、事前に報告をしてくれる。こちらが作業の指示をした際、計画通りに行うことが難しい場合は、代わりの案をサラッと提案してくれる。このような場面が多々あった。
とびさんは作業の流れをバッチリ把握している。また、こちらが言ったことに対して返答するだけではなく、発言の意図を読み解き、意見を述べてくれることもある。
なぜ、こんなにも読み解く力が優れているのか。
それは、やはり職業に関係しているのだろう。とび職は死と隣合わせ。手すりがない上空50mで足場を架設する場合すらあり、そこでは一切の迷いが許されない。したがって、作業が始まる前に、起こりうることについて考えて考えて考え抜く。おそらく管理職として働くぼくよりも真剣に考えている。
とびさんの読み解く姿勢を見習いたい、そう思った。