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SS【制服時代】

タンポポが揺れている。

黄色の花弁が日光に照らされ、らんらんと輝いている。

その横を、制服を着た大人しそうな青年が通り過ぎた。

道脇のたんぽぽなぞ、彼の目には留まらなかった。

次の日も、そのまた次の日も、彼の目には留まらなかった。

しかしある時、彼はタンポポに目を留めた。

見慣れたはずの色彩がとても新鮮なものに見え、目を惹かれたのだ。

そして花弁の明暗を隅々まで見つめながら、今日あった出来事を思い返していた。

教室の匂い、視界にはペンを持ち震える自分の手、そして突き刺さるクラスメイトの視線。

授業中、これほど緊張したことはない。

手足が震え、自分のものとは思えぬ声が話し続ける。

話している本人は自分であるはずなのに、気を抜けば他人事のような感覚になり、ぼんやりしてしまいそうだ。

眼球がカタカタと小刻みに音を立てそうである。

どうして今自分はこんな窮地に陥ったような感覚に蝕まれているのだろう。

誰かに迷惑をかけたわけじゃないし、悪いことをした覚えも無い。

ただ、授業中に少数派の意見に挙手したのだ。

普段なら積極的に話すことも、挙手をするなど以てのほかなのに。

説明責任を誰かに押し付けられる場に居続ければ、おとなしく空気を読んでいれば、思考停止していた方が、きっと楽だった。

しかし、そんな保守的な自分に嫌気が差し、こうして立つことを選んだのなら、最後までやり切らねばならない。

この緊張感の中で頼れるものといえば自分自身であり、いかに下準備をこしらえてきたかどうかなのだった。

彼は、責任を持つとはこういうことなのだと実感した。

一通り話し終えたその瞬間、小さな拍手が起こった。

それを合図に、拍手の音が大きくなっていく。

彼は拍手の音に包まれながら、自身の中から湧き出る興奮を噛み締めていた。

やっと、やっと、灰色の日々から抜け、感情が揺さぶられながらも、声を上げられるスタート地点に立ったのだ。



タンポポが揺れている。

黄色の花弁が夕日に照らされ、淡く輝いている。

タンポポの色彩の美しさに注目していた彼は、以前とは見方が変わったことに気づいた。

そこいらに生えている草木、いや建物や空だって鮮やかに見えてくる。

こんな綺麗な世界に生きていたことをなぜ今まで気がつかなかったのか。

今日新たな一歩を踏み出せたことは大きな財産になるだろう。

明日も継続して頑張るためには。

周囲の動きより、自身の良心や判断を優先するためには。

何をすれば良いのだろう。

答えを実行するのに、以前ほど難しくはなかった。

タンポポは去っていく彼の方を向きながら、穏やかに風になびいていた。

おわり

今日のお題:制服

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