SS【ブラックな旅人】
彼は今、黒色の草原にいた。
じんわりと温かい気温、重たい匂いが漂う場所だった。
地平線が金色に輝き、辺りが明るくなっていく。
黒色から金色の草原へと変貌していくその合図で、彼は朝の訪れを悟る。
凛と背筋を伸ばし、絶え間なく足を動かし続けるその姿からは、
生き生きとした活気が伺えた。
彼はどんな困難でも打開策を模索し、挑戦を諦めることはない。
生まれたときからそういう奴だったのだ。
そうして生きてきた彼は、黒色の肌と強い誇りを持ち合わせていた。
そして世界に俺ほど危機を乗り越えて来た者は居ないと自負しており、
ギラギラと黒光りする肌はまるで彼の心境を表しているようだった。
そして、どこからそんな自信が湧き出でくるのかと問えば、
隕石が目の前に降ってきて衝突しそうになったことがあるやら、
洪水の中生き残ったやら、目の前で火事に巻き込まれそうになったなどなど…。
尽きることのない彼の武勇伝だろう。
どの話を取っても作り話とはとても思えない。
それほど彼の話は事細かく語られており、
何より彼自身の生にしがみつく姿を見ればそれは納得出来る。
これらの体験を経てこの金色の草原に辿り着き、
ひたすらに歩き続ける日々を送っていたーー。
ある客が檻の中のライオンを見ている。
金色の美しい毛並みに沿うよう視線をたどらせていたが、ある違和感に気づいた。
「ねえ、アリンコがくっついてるじゃん」
おわり
今日のお題:動物園