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SS【拝啓、博士へ】


xxxx年、人類は「平和」に暮らしていた。

争いごとは滅多に起こらない。戦争も紛争もテロもなく、些細な悪戯さえない。
そして誰もが笑顔。そんな時代を人類はついに手にいれたのだ。

このような奇跡の時代の実現を、どれほどの先人たちが望み焦がれていただろう。

目まぐるしい科学技術の発展、そして平和を願った技術者の、汗と涙の結晶が世に送り出されたことから始まった。

それがこの奇跡の時代を成り立たせているもの……マスクだ。

詳しくは「自動表情言動操作用仮面装着機器」。

すべての人にこのマスク着用が義務化され、人間たちは決められた駒のように表情や言動が操作される。

豊かな表情をしているように見えても、心から笑ったり怒ったりせず何も感じないのである。

そうして操り、争いの原因となる芽をそもそも作らせない。

そしてこの計画に不信感を持つ人間がいれば、その者の周囲に計画賛成派の人間を囲ませれば良いだけだ。

そうして平和と言い張るのがこの世界のルールであり、人間らしく生きるよりも効率を優先した結果と言えるのだろうかーー。



そこで博士は目を醒ました。

今のは夢だったのだろうか。

ふと机の上のマスクが目に留まった。

今見ていた夢と重なる。

もしかしたら夢が現実になる研究を、人間の幸せとは遠い世界へと導きかねない研究を、自分はしているのでは…。

仮面を付けた豊かな表情の奥に、虚ろな人形のような目でじっとこちらを見つめる視線を感じた気がした。

そんな無機質な、かつ奇跡の時代を象徴するかのように見えるこのマスクから、博士はそっと目を逸らした。

本当の平和とは、人間の感情を失くしてしまうことではない。

そう思い、博士はもう一眠りしようと布団に顔を埋めた。

寝息を立てている博士の向かい側にあるマスクは、月明かりに照らされながら微笑んでいるように見えた。

おわり

今日のお題:マスク

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