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書籍紹介 ナンシー関 『信仰の現場~すっとこどっこいにヨロシク~』 講談社

こんにちは、今回も12ステップの理解に役立つ書籍を紹介します。
前回は宗教色の強い書籍を紹介しましたので、今回は趣向を変えて世俗的な本を紹介します。
気楽な気持ちで読んでもらえたらと思います。



初めに

今回の書籍は、ビッグブックのこの部分を理解するのに役に立ちます。

そして、自分たちがいろいろなものを崇拝してきたことにも気がついた。これにはぞっとしたが。私たちは、人間を、ある感情を、品物を、金銭を、あるいは自分たち自身を片っ端から崇めてきたのではないか。(中略)
私たちに信仰や愛やものを尊ぶ能力がないのではなく、さまざまなかたちを取っていたけれど、私たちも、間違いなく信仰によって生きてきたのだった。それ以外の生き方があるだろうか。

AA(2024) : 87

このテキストは、第4章「私たち不可知論者は」の一節です。
私たちは何も信じずに生きてきたようであっても、何かを信じて生きてきた。つまり生きることは、信じることと切り離せない関係にあることを説明しています。信じることを1から始めるのではなく、信じる対象を「自分を超えた偉大な力」に切り替えるよう、提案しているわけです。それには私たちは、何かを信じて生きてきたことを認識しなければいけません。

書籍情報

ナンシー関(2024)『信仰の現場 ~すっとこどっこいにヨロシク~』,講談社

一歩先には、まだ見ぬマニア・パラダイス! 矢沢と矢沢を信じる者たちが待ち受ける矢沢永吉コンサート会場、ウィーン少年合唱団の追っかけマダム、犬たちに人生を懸けるトップブリーダー、津々浦々の発明マニアが集う「発明学会」……。 “何か”を熱狂的に応援する、盲目的に信じる、それはもはや娯楽にとどまらぬ「信仰」だ。何かを信仰する彼らが、日常生活で抑制している心のタガを外し無防備に解放される現場には、日常社会からちょこっとズレたマニアたちのパラダイス別天地が広がっている。 そんな「信仰の現場」に稀代の消しゴム版画家であり唯一無二のコラムニスト・ナンシー関が潜入し、その実態を語り尽くします。爆笑必至の傑作ルポエッセイ、新装復刊!
                               

著者紹介

著:ナンシー関(ナンシーセキ)

消しゴム版画家・コラムニスト。1962年青森県生まれ。本名・関直美。法政大学中退。今世紀最大の消しゴム版画家であり稀代のコラムニスト。また、各雑誌などでエッセイや対談で活躍し、その鋭い観察眼で知られる。著書として『ナンシー関の顔面手帖』(1991年シンコー・ミュージック刊)『何様のつもり』(1992年世界文化社刊)『何をいまさら』(1993年世界文化社刊)などがある。      書籍情報、著者紹介共に講談社BOOK俱楽部より引用

永ちゃんライブ

永ちゃんの愛称で親しまれている国民的ロックスター、矢沢永吉さん。
彼のライブ会場には熱狂的なファンが集まることで知られています。
今回の主役は、そのファンの人達です。

彼らはライブ会場で、自分たちが作成したチラシを会場内にいる同じお客さんたちに配っているのだとか。その内容は、「永ちゃん、今年も○○に来てくれてありがとう」という矢沢へのメッセージと、「永ちゃんに美味い酒を飲んでもらおうぜ、みんな!」というファンに向けてのハッパ、この2つが大きな柱になっているそうです。

大乗仏教は、在家の人たちを中心に興隆し、発展してきた歴史と通じるところがありますね。

矢沢至上主義とでも言いたくなるようなこれらのレトリックは、当然レトリックだけではなく「信仰」の行動にも表れる。「いいコンサートにしたい」のは自分たちが客としていいコンサートを観たいという願望以上に、矢沢さんに気持ちよく帰っていただきたい、ということなのである。永ちゃんがライブ中のMCで「ホント、今日はサイコー」と言った時の客席の喜びようはすごかった。私はそこに「ああ、矢沢さんが喜んでくれて良かった」という安堵感があることを感じた。

ナンシー(2024) : 15

永ちゃんのコンサートから元気や喜びをもらうだけでなく、「自分も永ちゃんに喜んでもらいたい」という気持ち。受け取るだけでなく、自分を何かの形で与えようとする授受の関係が見て取れます。これはまさしく、信仰の要素のひとつでしょう。
神の意志を行いたいという願いも、言い換えると神に喜んでもらいたいと言えるかも知れませんね。

永ちゃんのファンの人達は、永ちゃんが自分にもたらしてくれる喜びや幸せ、エネルギーを信じているからこそ、熱狂的に応援したい気持ちになるのでしょう。自分にとって信じるものに向かい、何らかの形で働きかけることを信仰と捉えれば、私たちは何かを信仰して生きてきたことがわかるはずです。
「信仰」という言葉に抵抗感のある人は、少し視点をずらして考えてみるといいかも知れませんね。

ここでは、永ちゃんの例を取り上げました。他にもたくさんの「信仰」の現場に潜入したルポが書かれていますので、興味のあるところから読んでみるといいでしょう。読み物として普通に面白いですし。

関連リンク

参考文献

AA(2024) 『アルコホーリクス・アノニマス』AA日本出版局訳 ,AA日本ゼネラルサービスオフィス
ナンシー関(2024)『信仰の現場 ~すっとこどっこいにヨロシク~』,講談社