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その信念はあなたの役に立っていますか?
暑さ寒さも彼岸までといいますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。朝晩少し過ごしやすくなりましたね。BBSGでは引き続き「第四章私たち不可知論者は」を読み進めています。
2つの世界観
前回の振り返りでは不可知論者と無神論者について取り上げ、第四章は不可知論者の為に書かれた章である事を説明しました。「ふーん、そんな人もいるんだね」と他人事のように読んでしまうと、この章を読む意味はありません。四章を読むときには、自分の考えに引きつけて「自分には不可知論者的な考えがないか」を問いかける必要があります。では不可知論者的な考えとは何を指すのでしょう。
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図の上には物質領域と書いています。目に見える世界だけを信じる世界観です。AAにきたアルコホーリクは大半がこちらの世界観を持っています。この章を読む時にはこの2つの世界観の対比を意識して読み、自分はどちらの世界観を信念として持っているかを問いかけながら読むといいでしょう。
神を信じるべき理由
第四章の第一パートはステップ1のおさらい、ステップ2の補足、不可知論者の説明、開かれた心の必要性について書かれています。71ページの5行目から80ページの7行目までは第2パートに入ります。このパートでは、不可知論者に向けて神を信じるべき理由について書かれています。パートごとに整理をして読むことで、ビッグブックを構造的に捉える事ができます。
どうして自分より偉大な力を信じなければならないのか
どうして自分より偉大な力を信じなければならないのかとまだ疑っているあなたのために、いくつかのことを書く。
問. どうして自分より偉大な力を信じなければならないのか
この問に対する答えを意識して、テキストを読んでいくといいでしょう。
事実と結果
今日の実用本位の現代人は、事実と結果にうるさい。とはいえ、今世紀は事実の裏付けがあればあらゆる理論を受け入れている。たとえば電気の理論である。誰もが全然疑わないで、電気のことを信じている。なぜこんなに簡単に受け入れるのか。それは、理屈に合った仮説を信じなければ、自分たちが見、感じ、使いこなしている電気のことを説明できないからである。
電気という目に見えないエネルギーを信じ、依存している私たち。事実と結果があれば仮説を信じ受け入れている事を示しています。
現代では誰もが、証拠さえあれば仮説を信じる。見てわかるだけのものは、たとえそれが完ぺきなものでも取り上げられない。目に見えるものは、証拠としては一番弱いということを科学は示している。人間が物質界を研究するにつれ、外見は内側にある真実とはまったく違っていることが次々と明らかにされている。例をあげよう。たとえばどこにでもある鉄骨の大きな梁。それを作っているのは、ものすごい速度でお互いの周りを回転している電子の塊である。こうしたちっぽけな物体は正確な法則にしたがって動いている。このような法則は物質界のすべてにあてはまる。科学はそう教えている。私たちにはそれを疑う理由はない。
証拠があれば仮説を信じる。物質界の全てのものはある法則にしたがって動いている。科学的に実証されている法則を疑わないあなたは論理的にものを考える人ですよねと問いかけています。
それなのに、私たちは自分が目にする物質や生命のもとに、「力に満ちて、自分たちを導く、全てを作り上げた知性的存在」があるという完全に論理的な推測に出会うと、すぐさま、ひねくれた性質が現れ、そんなことはないと自分に言い聞かせようとする。
「力に満ちて自分たちを導く、全てを作り上げた知性的存」とは神を指します。論理的にものを考えるあなたが、神の存在については非論理的ではないですか、それは自己矛盾していませんかと言っています。
自分が神だと思っている
私たち不可知論者、無神論者は、絶えず進歩を続ける神の創造物の先鋒を務める、神の知恵のしもべだとは考えなかった。私たちは人間の英知こそが完ぺきであり、永遠だと信じた。どうやらそれはうぬぼれだったようである。
ここの翻訳は意訳になっているようです。要約すると「自分が神であるという主張をしていた私たちであった」(あなたもそうではないか)と問いかけています。詳しくは、心の家路さんが詳しく解説していますのでそちらを参照してください。
https://ieji.org/big-book-study/big-book-study-080
実績を見てみよう
ここに何万人もの男女がいる。ごくふつうの人間である。彼らはキッパリと言う。自分より偉大な力を信じるようになって、その力に対してある態度を取り、幾つかの簡単なことをするようになってから、生き方、考え方が、革命が起こったように変わったと。彼らは、何もかもが壊れ、望みを失い、人間の力ではどうにもならなくなった時に気づいた。新しい力と平和と幸せへの方向感覚が流れ込んできたことを。それは彼らがほんのわずかなことを、誠意をこめて始めたすぐあとに起こった。
質問の中で何万人もの男女とは誰のことか、ビッグブックを書いたのは最初の100人ではなかったのか。という質問を頂きました。初版では100人の男女と書かれていたものが共同体が大きくにつれて数字も改定されていきました。ここではアルコールに問題を抱え、人生に行き詰まった人たちが12ステップに取り組み、経験した事実を書いています。前の段落にある実績とは回復した何万人もの男女がいるという事実を指します。はじめに書いたように事実と結果にうるさい現代人の中の一人である不可知論者は、この事実をどう受け取りますかとせまっているのです。続きです。
幸せへの方向感覚
かつては生きていることに空しさを感じて、弱り果てていた彼らだった。なぜ自分たちの生き方がそれほどむずかしくなっていたのか、彼らはそのおおもとの理由を示してくれる。酒の問題はさておき、生きることになぜそんなに満足できなかったのかを語ってくれる。どうやって変化が訪れたのかも。何万人もの人たちが、いま神がここにいるという思いこそが、人生でいちばん大切なことだと言う。人は信仰を待つべきだという確かな理由だと。
ここではアルコホリズムだけでなく、人間が生きる上での困難にも言及しています。自分が神であって自分の事は自分で決めていくのだという考え、自分しか頼れるものがない生き方には、心の奥底で寂しさと寄るべのなさがつきまとうのでしょう。神も人もいない、自分だけのひとりぼっちの世界なのですから。その空しさが解決されない限り、また飲酒に戻っていかざる得ないのが本物のアルコホーリクです。
方向感覚とは原文では direction で神が私たちにどう生きていけば良いかを指し示して導いてくれることを指します。いま神がここにいるという思いは原文では the consciousness of the Presence of God です。神の存在を意識し、導きに従いながら生きていく人生には、新しい力と平和と幸せが与えられると言っています。
問. どうして自分より偉大な力を信じなければならないのか
答え. 私たちは導かれるべき存在だから
初めの問いに対する答えはこの段落で結論が出されています。ステップワークで読み合わせをする時には、この段落を読んだら一度71ページの問いに戻り、整理するといいでしょう。
プラグマティズム
ミーティングの中で「ここを読むとイラッとする」という素直な意見をいただきました。その理由を考えてみましょう。一つはテキストの読解ができず、分からないまま読んでいくことへのストレス。もう一つは自己の論理的思考に信頼を持つ不可知論者に対して、事実を根拠に霊的なものへの論理的ではない先入観、固定概念を持っているという矛盾をつかれることへのストレスです。ここでは後者について取り上げます。
要約すると「あなたは神などない(もしくは知り得ない)と主張するがその信念が酒をやめる邪魔をしていないか。だとしたらあなたの信念は回復の役に立っていないのではないか。」「役に立たない考えならそれは真理ではないのではないか」という問いかけです。プラグマティズムという概念を頭に入れておくとこのパートを理解しやすくなります。
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本人がまだイライラしている時に訪問することにしよう。落ち込んでいる時の方が、ものごとを受け入れやすくなっているからである。
信念体系が揺らぐとき、人はいい気分ではいられません。過去の自分の考えを否定して捨てていくのは痛みを伴うからです。ビッグブックを書いた人たちは悪意を持ってこのような書き方をしているのではなく、不可知論者が持つ固定概念や偏見に気がつけるよう、読者の持っている信念の価値判断について直面化を促しているのです。プラグマティズムについて詳しくは、心の家路さんの記事を参照してください。
https://ieji.org/big-book-study/big-book-study-080
今回は少し長くなってしまいました。
次回は不可知論者の持つ固定概念と神の考えについて見ていきます。
参考文献
AA(2003) 『アルコホーリクス・アノニマス』AA日本出版局訳 ,AA日本ゼネラルサービスオフィス