ダイイング・メッセージ、その使い方
ダイイング・メッセージとは、被害者が死の間際になんらかのメッセージを残すこと(たいていは犯人を示す目的)である。
作家目線で言うと、ダイイング・メッセージというのは簡単に謎を作れる方法なのだが、なぞなぞとかトリッククイズみたいになって、謎としての効果があるかは疑問であり、扱いが難しい。
ダイイング・メッセージが本格的なミステリードラマには出てこないのに、バカミスドラマなどにやたらとダイイング・メッセージが出てくるのも簡単に作成可能なことが原因に違いない。
○利点
1 簡単にミステリー風味な謎を作れる。
コツを覚えればいくらでも考えつくことが出来る。例えば被害者がトマトを握って死んでいた。犯人は「太田太(おおた ふとし)」なぜならトマトと同じ上から読んでも下から読んでも同じだから。
こんな感じでいくらでもアイデアが浮かんでくる。
2 フェイクとして活用できる。
話の展開がだらけた時、単調な謎に調味料的に何か一振りしたい。そんなときに使うとアクセントをつけられる。どうせフェイクで使うだけだから、バカなものでも充分。
3 ちょっと間抜けな探偵や刑事を演出するのに使える。
例えば、在宅ワーク中だった被害者、手にマウスを握って死んでいた。普通ならパソコン操作をしている最中に殺されたのだろうと考えるが、間抜けな刑事は手に握っていたマウスをダイイングメッセージだと考えて「ハムスターを飼っている人間が犯人だ」と意見する。みたいにユーモアミステリーに使うぶんには違和感がない。
○欠点
1 ダイイングメッセージの不自然さ
被害者が死の間際に、ダイイングメッセージを残すそんな余裕があるのか。それとともに、ミステリー的な謎を秘めたものを考えるという被害者の行為の不自然さ。いかにも机上の空論めいたものを感じて、リアリティのなさを指摘する人も多いだろう。
2 ダイイングメッセージ、その意味は合っているの
仮に被害者が眼鏡をつかんで死んでいたとしよう。
眼鏡をかけている人が犯人。
眼鏡店で働いている人が犯人。
ブランド品のフレームだったので、そのブランド品を愛用している人が犯人。
レンズを製造している会社の人が犯人。
眼鏡ではなく、眼鏡ケースに注目して欲しかった(ケースに何か隠していた)。
などということが考えられる。その中で被害者が何を意図していたのか特定するのは難しいだろう。それに証拠としての価値はほとんどない。
3 犯人は何をやっていたの
被害者がダイイング・メッセージを書いている、あるいは不自然な動作をしているのを、犯人は黙って見ていたのだろうか。
犯人は被害者が本当に死亡したか、その場で確認してから逃げるのが普通だろう。ゆえに、どうして犯人がダイイング・メッセージを見逃したのか、それらしい理由が必要となる。被害者が死んだまねをしていたとか。犯人が自分のしたことに驚いて、何も考えずに逃げていったとか。
仮に犯人の隙を突いて、ダイイング・メッセージを残せたとしても、それに気がついた犯人がそのままにしておくだろうか。カーペットに血文字が書いてあったら、犯人は洗剤や漂白剤をぶちまけ、血文字を改ざんして証拠隠滅を図るだろう。
○まとめ
欠点の1~3を合理的に説明出来ないと正統的なミステリーには使えない。逆に言えば、そこをクリアーすれば、ダイイング・メッセージトリックとして使用可ということでもある。どうせ、ダイイング・メッセージはフェイクだろうと考える目の肥えた読者の裏をかく意外な使い方があれば、効果的だ。