絵本ゼミ第3回振り返り
1.絵本の真髄
グループワークで発せられた「賞を受賞した作品が長く読み続けられていくのはどうしてですかね?」という素朴な質問の中に絵本の真髄があると思いました。私たちのグループの6人中4人が選んだ本はジョン・バーニンガム『ガンピーさんのふなそび』でした。この本は1970年にケイト・グリーナウェイ賞受賞しています。
ケイト・グリーナウエイ賞は、イギリスの絵本作家ケイト・グリーナウエイにちなんで1956年に英国図書館協会によって設立された賞で1年間にイギリスで出版された絵本のうち、特に優れたものの画家に対して贈られるものです。
『ガンピーさんのふなそび』をみんなが選んだ理由は絵の優しい美しさ、物語の主人公ガンピーさんは子供でも、うさぎ、ねこ、いぬ、ぶた、ひつじ、にわとり、やぎ、こうしでも「乗せてください」というと「おとなしくしてればいいよ」とみんな乗せて、差別がない、区別しないガンピーさんのおおらかさ、船が沈んでも誰のせいにもしない、せめない、そして水から上がってみんなでお茶を楽しむという、根源的な人間の欲求、認めてもらいたい、仲良くみんなと暮らしたいという思いが時代を超えてロングセラーとなる由縁であると思いました。ロングセラーとなる絵本には普遍的な人間の思いが描かれている事がわかりました。絵本は目に見えない心、感情が絵や言葉の行間に表現されておりそれらを読み手が感じることのできることが絵本の真髄であると思います。
2.絵本作家の経年変化する状況と育った環境
ジョン・バーニンガムの『ガンピーさんのふなあはそび』で1971年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞していますが、1963年に『BORUKA』でもケイト・グリーナウェイ賞を受賞しています。2つの作品を比較してみると全く違う作者の作品かと思われるくらい画風が違うのに驚きます。
『BORUKA』は油絵で力強く描かれており、正統派の伝統的なストーリー絵本であるのに対して『ガンピーさんのふなあそび』はイラストレーションがクロス・ハッチングの線描画で浅く明るいやさしい色使いで表されています。『ガンピーさんのふなあそび』以降バーニングガムはストーリーもイラストレーションも独自の特色を持った創作で画法も作品内容によってさまざまに新しい試みがなされました。
『BORUKA』を創作した1963年から『ガンピーさんのふなあそび』1970年までの間に起きたバーニングガムの変化に興味を持ちました。
『BORUKA』を創作した翌年の1964年にバーニングガムは同じ絵本作家のヘレン・オクセンバリーと結婚しています。そして2人の子供を授かっています。ヘレン・オクセンバリーが育児体験を生かして『ガングル・ワングルのぼうけん』(1969、邦訳ほるぷ出版)を発表し、この本も1970年にケイト・グリーナウェイ賞を受賞しています。結婚、育児を通してバーニングガムの作品も自分の子供にむけての本作りがされていることをミッキー先生の講義で知りました。
作品が書かれたとき作家自身がどんな状況で何を考え目指しているのかなどを知ることも作品の理解には必要なことだと思いました。
またもう一つはバーニングガムの過去の生活体験、トレーラーハウスに住み、9つの学校を体験し、戦争中は、田舎で暮らし大自然の中で魅せられたれたこと。またアレクサンダー・サザーランド・ニイルが創設した、サマーヒル校へ転向したことがあげられます。そこでは「・・伝統的な価値観や行動様式から子供たちをひとまず解放して、自分自身の物の見方を気付かせる・・」(吉田2018)というバーニングガム自身の子供時代の体験が絵本創作に大きく影響し、子供たちに対する様々に工夫された作品の制作につながり理想の人物像「ガンピーさん」を生み出し、その後の作品『なみにきをつけて、シャーリー』(1978年)になったのだと思います。
3時代背景
ケイト・グリーナウェイ賞創設1956年から2023年まで日本でいえば戦後の昭和から平成、令和と時代が変わり当然絵本の内容や賞の基準なども変化がみられます。2013年にコールデコット賞、2014年にケイト・グリーナウエィ賞をダブル受賞したジョン・グラッセン作『ちがうねん』はオープンエンドという表現方法を使い読者に物語の解釈をゆだねる方法で創作され、表現方法や絵本の画材や技法の変化、色彩の変化などが見て取れます。絵本創作の時代背景から絵本を見ることも学びました。
3.今後の課題
作品を通してケイト・グリーナウエィ賞を受賞した絵本、それを作ってきた作家の足跡のほんの一部を学ぶことができました。
絵本の世界は広く深くまだ自分は絵本の森のようやく入口にたどり着いているように感じています。
今回ジョン・バーニングガムという一人の作家の人物像に少しだけ触れることができて作品が誕生する要素や絵本にとって大切にしていくものなどについて学ぶことができました。それは人間だれしも共通したあたたかさ、やさしさ、人を思いやる心などが底辺にあることを知り、絵本セラピストとして絵本を選ぶとき、読むときに作者の思いやその背景を大切にして活動していきたいと思いました。学習としては引き続きいろいろな作者と絵本について学んでいけたらと思っています。
4.参考文献
1.吉田新一(2018)『イギリスの絵本上下』朝倉書店
2.生田美秋 石井光恵 藤本朝己編著『ベーシック絵本入門』(2013)
ミネルヴァ書房
3.谷本誠剛 灰島かり(2006)『絵本をひらく』