46 なんちゃって図像学 若紫の巻(4)⑤ 深夜、唐突な求婚を尼君に断られる
・ 僧都との話の続き
🔷 源氏
「お気の毒なことでしたね」「その方には忘れ形見などはなかったのですか?」
~ 兵部卿宮の子というのが件の美少女なのか確認しようとして、源氏は質問を続けます ~
◉ 僧都
「一人おりましてね」「姪はその子を産んで亡くなったようなものでございました」
「女の子なものですから、妹は、年を取ってからはその孫娘の将来の心配ばかりしております」
🔷 源氏
『やっぱりね💕』『やったね!💕』(心の声)
🔷 源氏
「急に妙なことを申すようですが、私にその孫姫君の面倒をみさせていただけませんか」
「私にも妻はいるのですが、どうもしっくり参りませんでね」「思うところがあって、私は妻とは住まず、ほとんど別宅で一人暮らしをしているような具合なのです」
「年端も行かぬ子を側に置きたがるなどとは、まともでない申し出とお思いでしょうか」
◉ 僧都
「大変ありがたい御申し出ではございますが、歳よりも幼いような子でございますから、とてもとても、御座興にも御側に置いていただけるような具合ではございませんのです」
「しかしまあ女というものは婿殿に可愛がられ躾けられて一人前になるものでもございましょうから、愚僧からは何とも申し難い所もございますれば、妹ともよく相談してお返事申し上げましょう」
~ 僧都はそんなことを真顔で言った後は話を打ち切る様子です。まだ若く世慣れない源氏は、言葉が出なくなります ~
◉ 僧都
「勤行の時間でございます」「📌①初夜のお勤めをまだいたしておりません」「済ませて参りましょう」
~ 僧都はそう言って御堂に登って行きます ~
・ 旅寝の夜
源氏は病み上がりでもあり、すっかり気落ちしてしまっています。
雨が少し降って、冷たい山風が吹いて、遠くない瀧壺の水嵩も増しているようで聞こえる瀧の音も高くなっています。
少し眠そうな読経が絶え絶えに聞えるのも物寂しさを増しています。
誰でもこんな所にいれば物思いもするのでしょうが、まして源氏は思うことが多く眠れません。
僧都は初夜と言いましたが、実際には夜はもうだいぶ更けていました。
奥にも人の起きている気配がしています。
息をひそめているようですが、数珠が脇息に擦れるような微かな音や、優雅な挙措でこそ起きる何か慕わしいような衣擦れの音がします。
・ 尼君との対話(女房の取次)
気配が近いので、間仕切りの二枚の屏風の間を少しずらして扇を鳴らしてみます。
貴人の客に知らんふりもできぬこととて、女房が一人膝行してきますが、誰もいないようなので、聞き違いかと戻ろうとするところに、
🔷 源氏
「御仏のお導きは暗いところでも間違いのないものと言いますから」
~ 源氏の声はとても若く上品で、お返事するのも気が引けるようです ~
🔸 女房
「どちらに御案内をお求めでございましょうか。ふつつかで行き届きませんで」
🔷 源氏
「唐突なようですが、初草の若葉の如き人の身の上を聞いてから、私は旅寝に泣き濡れておりますと、申し上げてください」
📌②📖 初草の 若葉の上を 見つるより 旅寝の袖も 露ぞ乾かぬ
🔸 女房
「こちらにはそんな妙齢の方はおられないのでございますが」
🔷 源氏
「しかるべきことがあって申し上げているのだとお伝えください」
~ 女房は奥に行って伝えます ~
🔶 尼君
「まあ華やいだお話だこと」「姫がお年頃とお思いなのかしら」
「それにしても、姫を📌③若草にたとえたのをどうして御存じなのかしら」~ わけがわからず困惑しますが、お返事が遅れては見苦しいと思って ~🔶 尼君
「こちらは乾く間もない深山の苔でございますから、御旅先の一夜限りの御手持無沙汰をお慰めすることなどできません」
🔷 源氏
「こんな状況でのご挨拶など無礼とは存じておりますが、恐縮でございますが、この機会に真剣にお話しさせていただきたいのです」
🔶 尼君
「何かお間違えでいらっしゃるのでしょう」「お返事もできないような妙なことをおっしゃいますこと」
🔸🔸 女房たち
「そんなそっけない物言いをなさってはいけませんわ」
~ 貴人に対して無礼があってはならないと、そのままでは取り次がずに、もっと御丁寧にと諫めます ~
🔶 尼君
「そうね」「丁寧におっしゃっているのだから、若い人たちではあしらうのもお困りでしょうね」「私なら構わないでしょう」
~ 尼君自ら、こちらに寄ってくるようです ~
🌷🌷🌷『深夜、唐突な求婚を尼君に断られる』の場の 目印 の 札 を並べてみた ▼
・ 尼君との対話(直接)
🔷 源氏
「唐突に思い付きの軽薄なことを申しているような状況ですが、決してそうではないのです」
「御仏の御前に近いこんなところで、徒や疎かなことを申すことはございません」
~ ここまでは何とか一生懸命に言いますが、向こう側の落ち着いた気配に気後れして、すぐには本題を言い出せません ~
🔶 尼君
「思いもよりませんでしたこんな機会にここまでおっしゃるのですから、確かに、何かの因縁があってのことなのかもしれません」
🔷 源氏
「姫君のお気の毒なお身の上を伺いました」「私を亡くされた方の代わりとお思いくださいませんでしょうか」「私も早くに親を亡くしまして心細い日々を過ごして参りました」「境遇の似ている同士、親しくさせていただきたいと真心から申し上げたかったのですが、機会もございませんで」「こんな時にぶしつけとお思いでしょうが、お話しできる僥倖に、憚りながら申し上げる次第でございます」
🔶 尼君
「大変ありがたく伺うべきお話と思うのですが、何かお聞き間違いでもございましょう」「この年寄り一人を頼みにしている孫娘はおりますが、まだ本当のねんねでございまして、いくら寛大にでも許していただけるほどにもなっておりませんのです」「とても承れるお話ではございません」
🔷 源氏
「すべて承知しておりますので、どうぞ窮屈にお考えにならず、私の衷心より申し上げている真心を御覧くださいませ」
~ 尼君は、源氏が姫の幼さを知らずに言っているのだと思って、それ以上話を聞く気もない様子です ~
~ 僧都が戻りました ~
🔷 源氏
「まあ仕方がない」「お申込みいたしましたので、お返事を期待しております」
~ それだけ言って屏風を閉てました ~
・ 朝
明け方になりました。
山風に乗って下りて来るお堂の読誦の声がとても尊く滝の音と響き合っています。
源氏が、山風の運ぶ誦経の声に目覚めて、「夢から覚めて涙の誘われる滝の音です」と詠みかけると、「山に籠っておりますので耳慣れてしまいました」と僧都は返します。
📖 吹き迷ふ 深山おろしに 夢さめて 涙催す 滝の音かな
📖 さしぐみに 袖濡らしける 山水に すめる心は 騒ぎやはする 耳馴れはべりにけりや
・ 付記
📌① 初夜
📌② 初草の若葉の上
📖 初草の 若葉の上を 見つるより 旅寝の袖も 露ぞ乾かぬ
若い妹を性的対象として若草にたとえる歌が伊勢物語にありますが、
初草の 若葉の とは、少女を性的な対象とするニュアンスの言葉だというコンセンサスがあったと考えてよいのでしょうか。
📖 うら若み ねよげに見ゆる わか草を 人のむすばむことをしぞ 思ふ
📌③ 若草にたとえた
夕刻源氏が覗き見ている時に、若紫の幼さを心配して、尼君と女房が、若草、初草との歌の遣り取りをしています。
44 なんちゃって図像学 若紫の巻(3)③ 北山で若紫を覗き見 https://note.com/modern_lilac381/n/nf8aeac1e89ff
尼君が「あなたの行く末がわからないままでは、私は死ぬに死ねないのですよ」と詠み、
女房が「姫君の行く末もご覧にならないで、消えるなんておっしゃらないでくださいませ」と返しています。
📖 生ひ立たむ ありかも知らぬ 若草を おくらす露ぞ 消えむ そらなき」
📖 初草の 生ひ行く末も知らぬまに いかでか 露の 消えむとすらむ
眞斗通つぐ美
📌 まとめ
・ 求婚を断られる
https://x.com/Tokonatsu54/status/1711223759737438583?s=20