賢木⑰ 雲林院から 二条院に帰邸、藤壺に山紅葉、朱雀帝に対面、春宮に参内中の藤壺に挨拶
🌷二条院に帰邸する
何日か逢わなかっただけなのに、紫の君は一層美しく成長しているように見えた。
落ち着きも加わってきた高雅な人に、夫の愛を不安がっている様子が仄見えるのが可憐でいじらしい。
藤壺中宮に惑い乱れる気配などが表にでてしまっていたのか、それが雲林院への『色変はる』という歌になっていたのかと思うと、
可哀想にも健気にも思えて、愛しさが募ってたまらず、
いつもよりも懇切に細やかに、愛撫にも熱がこもるのだった。
(✉️風吹けば まづぞ乱るる色変はる 浅茅が露に かかるささがに)
🌷藤壺中宮に山の紅葉を
中宮へのここのところの急な御無沙汰も却って人目に立つのではないかとも思えて来て、
山の土産に持たせてきたもみじ葉が庭の物よりもすぐれて紅く美しいのを、
さりげない贈物のように、参内なさる中宮に差し上げた。
文は命婦に向けて書く。
✉️「久しぶりに参内なさると伺いました。春宮の御後見のことも思うに任せず気掛かりにしておりましたが、仏道修行を思い立ちましたのが思いの外長引いてしまいました。これだけの美しいもみじ葉を一人で見ては夜の錦でございますから、御手隙の折でもございましたら御覧くださいませ」 (Cf. 📖見る人もなくて 散りぬる奥山の紅葉は 夜の錦なりけり 紀貫之 古今集)
確かに素晴らしく美しい枝なので中宮のお目も留まるが、例によって文が小さく結んであるので、女房たちの目を気になさる。
「まだこんなことを…。本当に疎ましいこと」「何かにつけこんなことをされては人目にもついてしまおう」
不快にお思いになって、枝は瓶に挿させて、廂の柱の下に押しやってしまわれた。
🌷朱雀帝と対面
春宮の御後見者は源氏であるから中宮も事務的なお返事だけをなさるのを、「どこまでも御冷静であられる」と恨めしく思うが、
今迄何事もお世話して来たのが急に没交渉になっては却って人目に立つことも危惧され、中宮の御退出の日に、源氏は参内する。
先ず朱雀帝の御前に参ると、丁度おくつろぎの時で、昔の話今の話をあれこれあそばす。
帝は故桐壺院によく似て更に若々しく優美であられ慕わしい穏やかな御様子であられる。帝からも源氏を同じように懐かしくお思いである。
朧月夜の尚侍と源氏との間が切れていないことを御耳に入れる者もあり、帝御自身もそんな気配をお感じになることもあられるが、
📜尚侍の君の御ことも なほ絶えぬさまに聞こし召し けしき御覧ずる折もあれど
帝は、「今に始まったことでもなく、互いに思い合う似合いの二人でもあるのだから」と思し召して、お咎めにはならない。
📜何かは 今はじめたることならばこそあらめ さも心交はさむに 似げなかるまじき人のあはひなりかし とぞ思しなして、咎めさせたまはざりける
漢籍のことを御下問になられたり、色めいた歌の話などを互いに打ち明け合ったりする行き掛かりに、伊勢下向の時の斎宮のお美しさのことなどを仰せになるので、源氏もつい、御息所との野宮の曙のしみじみとした別れのことを皆申し上げてしまった。
📜我もうちとけて 野の宮のあはれなりし曙も みな聞こえ出でたまひてけり
🎞️動画 六条御息所と暁の別れ 05:14~
🎞️https://www.youtube.com/watch?v=pNpVgLvOEjo
🌷帝の御遊の御誘いをお断りする
二十日の月が段々に照り出して美しい夜なので、帝は管絃の御遊をお誘いになる。
源氏は、「中宮が今宵御退出と伺って、御世話に参りました」「春宮の御世話申し上げるのは院の御遺志でもございますし、中宮の縁者を妻にいたしまして春宮とも御縁ができましたので、素通りするわけにも参りません」と、お断りする。
帝は、「春宮を我が子と思うようにという御遺言もあり、特別に思ってはいるのだが、既に春宮でいらっしゃるのだから、特別に何をするということもなく過ごして来てしまった」「字などは御齢よりも御立派にお書きになり、何事も冴えない私の面目を施してくれるだろう」などと仰せになるので、
「大概のことを御齢よりも御立派になさいますが、まだまだ幼くいらっしゃいます」などと春宮の御様子を申し上げて退出する。
😮春宮って内裏にいらっしゃるんじゃないの?
😮なのに、春宮の御様子について、帝より源氏君の方がお詳しいの?
🤔東宮御所は内裏にあることも内裏外にあることもあるみたいだけど、この時は藤壺中宮が参内して春宮のもとに参っておられるのだから、内裏のどこかに春宮の御所があるのでしょうね。
🤔帝は内裏の清涼殿、春宮は内裏のどこかの春宮御所。
🤔だけど、帝は右大臣家に囲まれて、同じ内裏の中でも、春宮へのお出ましなんかはないということなのね。
🤔源氏君は内裏の桐壺か二条院、藤壺中宮は三条宮。
🤔中宮がお動きになるのは御不自由だから、身軽な源氏君が参内しては春宮の御世話してらして、御近況なんかもよく御存じなわけね。
🌷白虹貫日 太子畏之 右大臣家の頭の弁
右大臣家、皇太后の兄君の藤大納言の子に頭の弁がいるが、家が栄え時めいて怖いものもなさそうな若者である。
御妹君の麗景殿の女御のところに参る途中に、源氏の前駆が声をひそめているのを見て立ち止まって、
「白虹日を貫けり 太子畏ぢたり」
とゆっくり誦じる。
源氏は居心地悪く感じたが、咎め立てするのも妙なことなので、知らぬふりをして通り過ぎた。
源氏が中宮と共に春宮を盛り立てていることを、皇太后が危険視なさり、厄介なことになっているらしいと聞いてはいるが、
皇太后だけでなく一族の者もこう表立って非難を始めたとは煩わしいことである、と思いながら素知らぬふりをしている。
📜白虹日を貫けり 太子畏ぢたり
白い虹は兵、日は君主。
白虹が日を貫き、秦の始皇帝暗殺の成功を予兆させたが、燕の太子は怖気づいて事は成らなかった、という史記の記述を引いて、頭の弁は、源氏に、謀反は失敗するぜw と当てこすりを言った。
🌷春宮の元に藤壺を訪ねる
源氏は、春宮をお訪ねして、中宮に、「帝の御前に参っておりまして遅くなりました」と申し上げる。
月の明るい夜である。
中宮は、「故院は、こんな夜には管絃の遊びを華やかに催してくださった」などと思い出され、御所も随分変わってしまったと悲しくなられる。
😮御言葉はないのね!
😮ギクシャクしてらっしゃるからなのか、そもそも中宮はお偉すぎて御言葉なんかなくても当然なのか。
😮でも、普通に一番の後見者なんだから、御言葉がないのは却って不自然ではないのかしら。
🤔うーん…。
源氏は、命婦に伝言させる。
遠く内裏九重の霧の彼方の雲上におわす月を、お思い申し上げております。
九重に 霧や隔つる雲の上の 月を はるかに 思ひやるかな
御簾の奥から、中宮の衣擦れの御気配が慕わしくかすかに伝え聞こえるので、源氏は怨みも忘れて涙を落とし、恨み言を伝えさせる。
月は昔と変わりませんのに霧に隔てられているのが辛うございます。
(💭山桜を見に行くのを邪魔する霞は冷たい人の心のようだ)と古くから申すようですが。
月影は 見し世の秋に変はらぬを 隔つる霧の つらくもあるかな
(💭山桜 見に行く道を 隔つれば 霞も人の心なるべし)
😮あら、完全無視?
😮中宮に思い知らせてやりたくてお便りも差し上げていなかったのに、
😨返り討ち?…
😮御出家の御決意なんか知らないんですものね。
😮かわいそ…。
🤔まあね…。
🌷藤壺中宮、春宮とのお別れ
中宮は、名残惜しく春宮に、先々のことなどいろいろお教えするが、まだ幼くあまりおわかりにならないので、とても御心配である。
春宮はいつもは早くお休みになるのに、中宮がお帰りになるまで起きていようとお思いになるようだ。
別れを恨めしくお思いになりながらも、追いかけて出てはいらっしゃらないのがいじらしくて、中宮は切ない気持ちで退出あそばす。
眞斗通つぐ美