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GIF付き源氏物語 須磨⑥春 それぞれとの別れ …藤壺宮、桐壺院の御陵
🌷藤壺中宮との別れ
いよいよ須磨への出立が迫って、北山に詣でる。
桐壺院の御陵に御別れの御挨拶を申し上げるのだ。
月が明け方近くに出る頃なので、参拝の前、夜中のうちに藤壺宮を訪問して、暇乞いをする。
御簾前に御席を設けて、宮も端近にお出ましになって直接の御言葉がある。
春宮のことをとても御心配あそばしている。
互いに物思いの深い人たちはさぞしみじみと語り合ったことだろう。
慕わしく懐かしい御様子は昔と少しもお変わりにならない。
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春宮の御事を いみじううしろめたきものに 思ひきこえたまふ
かたみに心深きどちの御物語は よろづあはれまさりけむかし ≫
長年の怨みをそれとなく申し上げたいが、こんな時に今更そんな口説はおいやだろうし、自分の気持ちも乱れようから、思い直して、
ただ、
🧑🏻🦱✨「こんな思いもかけない罪に問われますのも、思い当ることはただひとつ」「天の咎めもおそろしうございます」「惜しくもない我が身のことなどはさておきまして、ただ春宮の御代の御安泰でありますように」
とのみ申し上げる。
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大将 よろづのことかき集め思し続けて 泣きたまへるけしき いと尽きせずなまめきたり ≫
右大臣方は、朱雀帝の女官を盗んだ罪を糾問せんとしているが、真正深奥の人知れぬ罪はこちらにこそあるのである。
中宮も御承知のことであるから、お胸が騒いで何も仰せられない。
源氏があれこれ走馬灯の如くに思い出して泣く様子は優艶である。
🧑🏻🦱✨「これから北山の院の御陵に参ります」「何か御伝言はございましょうか」
中宮は急にはお返事もなさらず、御心をお鎮めになる御様子である。
⚪➡️✨見しはなく あるは悲しき世の果てを 背きしかひもなく なくぞ経る
「懐かしい方は亡くなられて、残された身は出家の甲斐もなく 涙ながらに生き永らえているのです」
お悲しみがあまりに深く、御心の全てをお詠みになることもおできにならない。
⬅️🧑🏻🦱✨別れしに 悲しきことは尽きにしを またぞこの世の憂さはまされる
「院にお別れした時に悲しみは尽きたと思いましたのに、この世の辛さはますます募って参ります」
そう申し上げて、源氏は、藤壺の宮を辞する。
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🌷北山の御陵への道すがら
有明の月を待って出る。
供は5,6人ばかり、下人も気心の知れた者だけ連れて馬で行く。
美々しい行列を連ねた往時の威勢とは異なっていることを、皆悲しんでいる。
かつてのあの車争いの御禊の日に、
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右近の蔵人将監として供奉していた若者は、本来得られる従五位の叙爵に与るどころか、今は官籍さえ奪われ、面目も立たなくなり、供に加わっている。
下鴨の御社が月明りに遠く見渡せる辺りで、急にその日のことが思い出されて、馬から降りて、源氏の馬の轡を取って、
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👮🏻♂️ひき連れて 葵かざしし そのかみを 思へばつらし 賀茂の瑞垣
「あの御禊の日に、お供して葵を頭に挿していた昔を思いますと、賀茂の神も随分と冷とうございます (そのかみ …其の上、その神)
などと言うので、
『この男は、どう思っているのだろうか、誰よりも華やかな身であった自分のこんな凋落を見て』などと思うのもやりきれないことである。
源氏も下馬して御社を遥拝して、暇乞いをする。
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🧑🏻🦱✨憂き世をば 今ぞ離るる 留まらん名をば ただすの神に任せて
「この辛い現世を今離れて参ります」「私の名誉に関する評価は、正邪を糺す賀茂の糺の神にお任せして参ります」
蔵人だった男は情操の優れた人で、源氏がそんな歌を詠む様子にもしみじみと感動するのだった。
🌷北山の御陵で
北山の御陵に参ると、桐壺院の御在世中の御姿が目の前にありありと思い出される。
至尊の御身であられてさえ、この世から去られては言いようもないほどの御無念な有様となる。
いろいろなことを泣く泣く申し上げるが、この不条理のわけを明確に承ることはできない。
「遺愛の私や中宮や春宮のことなどを、あれほど仰せ置かせられた御遺言は、どこに消え失せてしまったのだろう」
そんなことを考えるのも虚しいことである。
御陵への道は草が高く茂って、分け入るほどに草の露に濡れ、月にも雲がかかり、森は木暗く、物寂しく気味悪いようになっていく。
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いとど露けきに 月も隠れて 森の木立 木深く 心すごし ≫
今来た道もわからなくなるような心細さで、拝んでいると、
院の在りし日の御姿がはっきりと立ち現れて、背筋がぞくりと粟立った。
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ありし御面影 さやかに見えたまへる そぞろ寒きほどなり≫
🧑🏻🦱✨亡き影や いかが見るらむ よそへつつ眺むる月も 雲隠れぬる
「今は亡き父帝の御霊は、どう御覧あそばすのか」「父帝になぞらえてお見上げ申した月も雲に隠れてしまった」
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📌右近の蔵人将監
『葵の巻』車争いの舞台となった新斎院(現皇太后腹の女三の宮)の御禊の日。源氏は近衛右大将。
📖大将の御仮の随身に、殿上の将監などのすることは常のことにもあらず、めづらしき行幸などの折のわざなるを、今日は ※右近の蔵人の将監 仕うまつれり。
(※右近の蔵人の将監 …右近衛府の将監で、六位の蔵人を兼ねた者)
(大将の臨時の随身は、将曹以下の下級役人が勤めるのが通例であるが、弘徽殿女御の女三宮の御禊であるので、格別の行幸の時のように、殿上人である 右近の蔵人の将監 が供奉している)
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📌糺(ただす)の森
下鴨神社の参道付近の森。只洲の地名から?
📌糺(ただす)の神
下鴨神社の御祭神。正邪を糺す神と。
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📌北山の御陵と下鴨神社と糺の森
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https://www.kunaicho.go.jp/ryobo/map/kyoto.html ≫
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📌3月20日あまり の出立の前 (3月24日出立として)
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https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/2024/dni27.html ≫
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📌有明の月
眞斗通つぐ美