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43 なんちゃって図像学 若紫の巻(2)②北山の朝 山上で雑談
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2 北山の朝
朝のことですから、山からの眺望はまだ遠くまで霞み渡って、四方の梢もぼんやりと白く煙るように見えています。
源氏の気を紛らすように皆で雑談を始めます。
気慰みで、何とか瘧病の発作が出ないようにと気遣っているのです。
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『北山の朝』の場の 目印 の 札 を並べてみた ▼
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「まるで絵のような光景だなあ」「こんな所に住む人は心に辛く拘泥するものなどないのだろうな」
「こんな景色など大して珍しくもございませんよ」「地方の海や山の景色を是非ご覧に入れたいものです」「元々巧者であられる殿様が珍しい景色を御覧になられましたら、ますますどんなに素晴らしい御絵をお描きになられますことか」
「富士の山に、どこそこの嶽…」
などと数え上げ始めます。
引き取って、西国の静かな海の入江や岩がちの磯の風景の面白さを語るのは、播磨守の息子の良清です。
今年六位蔵人から昇進して、冠を許される従五位下に叙されたばかりです。
(📌良清は、後に須磨の地で源氏の世話係のように働くことになります)
・ 播磨の国の元の守の噂
「近くで申せば、播磨の明石の浦などは格別でございます」「どこと言って珍しい景勝地があるわけでもないのですが、ただ海の方を見渡しておりますと、なぜか他とは違うゆったりした心地がいたすのでございます」
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「播磨の元の守で、退いた後に出家いたしまして、それから素晴らしい屋敷を建てた者がおります」
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「娘をそこの深窓に育てているそうでございます」
「その者は大臣の家柄の出で、本来なら都で出世すべきところ、社交を好みませんで、近衛中将を自ら願って辞して播磨の国司を願い出たようでございます」
「しかし任国で反乱などが起きまして『これでは面目も立たない』『都にはもう戻れない』などと申して剃髪いたしましたそうです」
「ですが、山中で修業三昧となるでもなく、見晴らしの良い海辺に大邸宅を設けるなど、どうもあまりまともではない人のようです」
「播磨には山籠もりの修行にふさわしい山も多いのでございますが」
「それよりも、人里離れては若い妻子が寂しかろうと申して、海の方に贅沢な屋敷を構えたのでございます」
「先日親元に参りました折に立ち寄ってみましたら、都での不遇とは打って変わって、辺り一帯、正に長者屋敷という風な大邸宅を構えております」「中央の政治の本道から外れたとはいえ、播磨は大国でございますから、国司の任にある間に相当の財を蓄えたのでございましょう」
「山籠もりこそしておりませんが、後生の勤めもよくしているようで、出家してから値打ちが上がった人と皆が申しております」
・ 明石に住む娘の噂
「それで、その娘はどうなの?」
源氏の問いは直截です。
「器量も気立ても悪くはないようでございます」「その後頻頻と国司が代わります度、何人もが丁重に求婚するのですが、入道が承知いたしません」
「『自分は今生で志を得ることができなかったが、娘の未来に期するものがある』『自らの亡き後にも、望む縁の得られなくば、海へ身を投げよ』と常に遺言をしているそうなのでございます」
源氏は面白い話があるものだと興味深く聞きました。
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供人たちは、「竜宮の后になるとは実に志の高いことだw」「良清は遊び人だから、入道の遺言を破らせるつもりで門口をうろついているのだろうw」「そうは言っても幼い時から明石育ちで昔者の親の言いなりなのだから、その娘はすっかり田舎臭くなってしまっているのだろうな」などと笑い合います。
「しかし母親はいい家の出らしく、都の上つ方からきれいな女房や女童などを縁故で引き抜いて来るなどして、都にいるように眩く育てているようでございます」
「ほほう」「垢抜けない娘に育ってしまっていたら入道も強気でおられなくなっておりましょうから、なかなか値打ちのある娘かもしれませぬな」
「どういうつもりでそこまで深く思いこんだのやら。磯に生うるわかめなど摘むのは人の見る目にも見苦しかろうに
(Cf. 📖 海人の住む底のみるめも恥づかしく 磯に生ひたる わかめをぞ摘む ※みるめ:見る目、海松布)」
などと言いながら、源氏はどうもこの話に興味を持った様子です。
供人たちは皆、普通でない恋がお好みだから、こうしたことにもお耳が留まるのだろうと思います。
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📌 供人たち
紀伊守が左大臣邸に出入りしているのもそうでしたが、有力貴族の家の家司は受領が勤め、有力貴族は人事権を握り、受領は収益を献上するという形が定まっていたのでしょうか。
北山への旅の供人達が地方に詳しいのは、受領である家司の若い息子達は親について地方を既に見知っているということでもありましょうか。
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📌 播磨の国の反乱
📖 かの国の人にもすこしあなづられて、『何の面目にてか、また都にも帰らむ』と言ひて、頭も下ろしはべりにける
藤原純友の乱。
藤原純友の乱が 939~941年 と言いますから、明石入道はこの時の播磨の国司だった人という設定でしょうか。
朱雀帝の御代のことのようですから、源氏物語の時代には、生々しすぎずリアリティはまだある、という程度の近さで、背景をなぞらえながら皆が読んだりしたのでしょうか。
純友方は、939年 には 播磨介 を襲撃し捕らえた ともあります。播磨守本人ではなかったにしても、これはちょっと回復しようのない屈辱だったかもしれません。
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純友は祖父が基経の実の兄弟という程度の本流の近さでありながら、父親が早くに亡くなったので出世の道もなく、父の従兄 伊予守 藤原元名に従って伊予掾として瀬戸内に横行する海賊を鎮圧して、その後土着、ということのようです。
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空蝉の夫伊予介ものんびり湯桁を数えているような時代ではなかったのかもしれません。
関東では同時期 935~940年 に平将門の乱。
都は同時蜂起だと怯え切ったとも言います。
位封の減額を余儀なくされるほどに財政は逼迫して、地方には反乱。
それでも都は世は事も無しだったのかどうか。
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📌 まとめ
・ 北山の朝https://x.com/Tokonatsu54/status/1711212429429092621?s=20
眞斗通つぐ美