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GIF付き源氏物語 須磨⑦春 それぞれとの別れ …春宮
🌷春宮の御殿に別れの御文
二条院に帰る頃にはすっかり明るくなっていた。
旅立ちの前に、 春宮 にも別れの 御文 を差し上げる。
春宮の母君=前の皇后 の 藤壺中宮 は出家されて、
宮中の春宮の御身辺の御世話には、🙍🏻♀️王命婦 を伺候させていたので、そちらの局に御文を届けさせる。
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王命婦を 御代はりにて さぶらはせたまへば その御局に とて ≫
🧑🏻🦱✨✉️➡️🙍🏻♀️
「いよいよ都を発つ日となりました」「出立の前に今一度参上できませなんだことが何よりも悲しい」「どうぞ万事御推察の上、春宮によろしくお伝えください」
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また参りはべらずなりぬるなむ あまたの憂へにまさりて 思うたまへられはべる
よろづ推し量りて啓したまへ ≫
🧑🏻🦱✨➡️👦🏻✨
いつかまた 春の都の花を見む 時失へる山賤にして
「いつまた再び春の都の花盛りを見ることができましょうか」「落ちぶれた山賤の我が身は」
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桜の散りすきたる枝に つけたまへり ≫
花びらが散りかけてまばらになった桜の枝にこの歌を付けてある。
王命婦が取り次いで、「光る君様からこのようなお文が参っております」とお見せすると、春宮は8歳の幼心なりに真剣にご覧になる。
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かくなむと 御覧ぜさすれば 幼き御心地にも まめだちておはします ≫
「どのように御返事申し上げましょうか」と、王命婦が春宮に伺うと、
春宮は、
「少しの間顔を見せないだけでも恋しくなるのに、遠くに行ってしまったら、ましてどんなに寂しかろう、とおっしゃい」
と仰せになる。
王命婦は、「御事情もおわかりにならない、頑是ない御言葉である」と悲しい気持ちになる。
源氏が中宮への叶わぬ恋に身を焼いていた折々のことが次々に思い出されて、あの罪の夜のことさえなければ、今日まで皆平穏に過ごしていられたのにと、胸が張り裂けそうになる。
自分が御手引きしてしまったばかりにと悔やまれて、全て自分のせいなのだという呵責に苛まれる。
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🙍🏻♀️✉️➡️🧑🏻🦱✨
「とても言葉では申せません」「春宮にはお伝え申しました」「お心細そうな御様子がおいたわしうございました」
王命婦から源氏に、言葉を添え代筆して返すが、取り乱してしまっている。
🙍🏻♀️➡️🧑🏻🦱✨
咲きてとく散るは 憂けれど 行く春は 花の都を 立ちかへり見よ
「花がすぐに散ってしまうのは悲しうございますが、お発ちになっても、振り向いて思い出し、またお帰りになって、春の花盛りの都を御覧くださいませ」
時しあらば
「季節がめぐり、御運の開ける時も参りましょう」
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源氏への返信の後にも、女房たちの思い出話が尽きず、東宮の御殿はすすり泣きに満ちた。
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🌷世間
源氏を一目でも見た人なら、今の苦境を嘆かない人はいない。
まして側に仕えていた者は、源氏などは知りようもない雑仕女や御厠人まで源氏の恩恵を身に余るほど受けていたのだから、少しの間でもお見掛けできなくなるのはと嘆き合っていた。
世上にも、今回の源氏への迫害を至当と思っている者はいない。
7歳の頃から帝の御前に昼となく夜となく侍って、口にしたことは全て実現してきた人である。
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帝の御前に夜昼さぶらひたまひて 奏したまふことの ならぬはなかりしかば
この御いたはりにかからぬ人なく 御徳をよろこばぬやはありし
やむごとなき上達部 弁官などのなかにも多かり ≫
この人の世話になっていない者も、恩恵を喜んでいない者もいないのだ。
上達部から五位の弁官に至るまで、源氏の口添えの恩を受けた者は多かったし、それより下の者まで拡げれば数えようもない。
しかし、皆、恩を忘れたわけでもないのだが、現状では、苛烈な政府の糾問を恐れて、誰も寄り付かない。
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世を挙げて源氏の不遇を惜しみ、内心では朝廷を批判し恨む者は多かったが、
身を棄ててまで源氏に接近してくる者はいない。
源氏は、
右大臣家が権力をほしいままにしている今の世では、そうなるのも仕方ないことだと思う一方で、
それにしても、もう少し情を見せてくれる者がいてもよいではないかなどと恨めしく思ってしまうほどに、意気消沈している。
何につけても人生は無常だと思われるのだった。
眞斗通つぐ美
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Cf.
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