源氏物語 若紫の巻 概略9(聖と僧都との宴席)
・ 山の夜明け
夜が明けていきます。
山の空は白く霞がかかって、山鳥はさえずり、錦を敷き詰めたように名も知らぬ花々が咲く中に鹿が佇み歩いていきます。
初めて見る景色が心に沁みて、源氏は病を忘れます。
・ 聖来たる
岩窟の聖が老体を押して僧都の坊まで下りて来て、
作法通りの護身法から、嗄れがれに尊くも陀羅尼を施します。
・ 迎えの到着
迎えの家臣たちが僧都の坊に到着して快癒の祝いを述べ、帝からの御見舞いも伝えました。
・ 山上の宴
僧都は谷の方まで人を遣って珍しい肴を取らせて饗応します。
「山籠りの誓いが今年いっぱいございまして、都までお見送りできません」「お目にかからなければ、こんな心残りはなくて済んだのでございますが」など言いながら、源氏に酒をすすめます。
源氏は「山水の景に大変に心惹かれたのですが、帝の御心配が畏れ多いので帰京して、花のうちにまた参りましょう」「皆にも風の吹き散らす前に見に来るように申しましょう」と答えます。
僧都は、源氏の様子も声も眩いばかりなので、「貴方様にお会いできたのは3000年に一度咲くという優曇華の開花に巡り合ったようで、深山の桜など比べようもございません」
源氏は、「そんな稀なこととお比べになるとは」と少し笑います。
・ 山上の贈答
岩窟の聖は源氏から杯を受けて、「奥山の松の扉を珍しく開けましたら、見たこともない花のような美しいお顔を拝見いたしました」と感涙しながら、御守りに、煩悩を払う独鈷を献上します。
それを見て僧都は聖徳太子が百済より得た秘宝を献上します。
碧玉の飾りを付けた金剛子の数珠を同じ舶来の筥に入れて薄物の袋に包んだのを五葉松の枝に付け、瑠璃の壺に薬を入れたようなのを藤や桜の枝に付けて贈り物とします。
源氏は、聖、僧都をはじめ読経した僧たちへの布施をして、予め命じて運ばせた様々の褒美を、山の賤しい猟師樵に至るまで遣わしました。
誦経もして帰ります。
・ その前に尼君と遣り取りしていたこと
宴の前に、僧都は源氏の求婚らしき申し出を尼君にそのまま伝え、源氏が既に夜中に聞いたのと同じ返事を、改めて源氏に伝えていました。
「ほんのねんねでございます」「今はお返事の申しようもございません」「真実のお気持ちで、もう4,5年経ってからのことならともかくも」と。
それを受けて、源氏は、帰る前に再び尼君への文を届けさせました。
「昨夕、美しい花を仄かに見たので、今朝は霞の中、立ち去りがたい思いです」
📖 夕まぐれ ほのかに 花の色を見て 今朝は 霞の 立ちぞわづらふ
尼君からは「本気でおっしゃっておられるのですか?本気で孫娘をお連れになるお気持ちがおありなのですか?」と貴女らしい品の良さながら、無造作に書いた返事が戻りました。
📖 まことにや 花のあたりは 立ち憂きと 霞むる空の 気色をも見む
※ 『霞むる』は『掠むる』とかかって、孫娘をかすめさらっていくとおっしゃるのが本気かどうか見ていますよ、と。
眞斗通つぐ美
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