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GIF付き源氏物語 須磨⑤春 それぞれとの別れ…二条院で旅支度と申し送り、朧月夜に文
🌷二条院で 旅支度、申し送り、人事
出立前に、二条院のあれこれを整理する。
時世に靡かず親しく仕える者たちから、二条院の事務の責任者、実務の者など決め置く。
須磨に供させる者はまた別に選ぶ。
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隠遁先とて、持ち物は、必需品だけを殊更に質素にまとめさせる。
簡素な日用品の他には、白氏文集を納めた箱、琴一張ばかりで、調度も装束も持たず、賤しい猟師ほどの荷拵えである。
西の対の紫上には、
今いる女房たちの処遇その他のこと全てを任せ、
荘園、牧場その他、伝領の土地の権利証なども全て預けて行く。
蔵や宝物庫の管理は、北山の頃から紫上の乳母であった少納言を信頼して、
実務をする腹心の家司などを統べるように命じる。
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領じたまふ御荘 御牧よりはじめて さるべき所々 券など みなたてまつり置きたまふ
それよりほかの御倉町 納殿などいふことまで 少納言をはかばかしきものに見置きたまへれば
親しき家司ども具して しろしめすべきさまども のたまひ預く ≫
東の対で召し使っていた中務、中将などは召人であって、それほどの寵を受けていたわけではないのだが、日々最高の貴公子の身近に仕えることだけを張りにしてきていた。
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見たてまつるほどこそ慰めつれ 何ごとにつけてか と思へども ≫
源氏は、「生きてまた都に帰る日もあろうかと思ってくれる人は、こちらにお仕えするように」と言って、
そういう女房たちも含めて、上から下まで皆、西の対に移らせた。
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🌷後見する人達への行き届いた置き土産
退京前の多忙な時であるが、
左大臣邸の乳母たちや花散里などにも、風情の優れた物から実用品まで、不足のないように充分な物を贈った。
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🌷朧月夜との遣り取り
朧月夜の尚侍 のもとにも、厳しい監視の目をくぐり、無理を押して文を遣る。
🧑🏻🦱✨➡️
『お見舞いのお文も頂けないのも道理とは思っておりますが、もはやこれまでと今生を見限ってしまおうほどに、比べるものもない悲嘆に暮れています』
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🧑🏻🦱✨➡️逢瀬なき 涙の川に沈みしや 流るる みを の 初めなりけん
(流るる、泣かるる)、(身を、澪)
あなたとの逢瀬が果たせなくて涙の川に沈んだのが、この身の流浪の始まりだったのか
『…とばかり思い出してしまいます。』『仏に救われる望みもない罪深い身です』
途中で誰かに覗き見られるかもしれない文であるから、細やかな気持ちなどは書けない。
朧月夜は、悲しみの堪え難く、袖から涙が溢れてどうにもならない。
⬅️👩🏻涙川 浮ぶ みなわも 消えぬべし 別れてのちの瀬をも またずて
(みなわ=水泡)
この涙の川の水の泡のように、私の命も儚く消えてしまうのでしょう、流れ流れて行った先の浅瀬、またの逢瀬も待てずに
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乱れ書いた筆跡が涙で滲んでいるようで、とても美しい。
この佳人にもう一度逢いたくてたまらなくなるが、
思えば、この人は皇太后の妹君であり、今の不遇の引き金になった恋愛事件の一方の当事者である。
自分を激しく敵対視している一族の真っただ中で厳しく監視されているのだから、別れの逢瀬のような危険は冒せずに終わった。
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いとあながちにも 聞こえたまはずなりぬ ≫
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眞斗通つぐ美