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GIF付き源氏物語 須磨③春 それぞれとの別れ…二条院
二条院に戻ると…
🌷東の対(源氏の住まい)
源氏の住まう東の対 の女房たちは皆まんじりともせず夜明かしをしたようだった。あちこちに固まって嘆き合っている。
須磨にお供するつもりの篤実な者たちも、今は近親者との別れでも惜しみに行っているのか、家司の詰所はがらんとしている。
大抵の者は、源氏側の人間であると思われて咎めを受けるのを恐れて寄り付かなくなってしまった。
かつては所狭しと馬や車のひしめいていた溜まりは閑散としている。
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家司らの詰所は半分は塵が積もって、畳も所々裏返してある。
源氏は、今でさえこれでは、自分がいなくなったらどんなに荒れてしまうだろうと思う。
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🌷西の対(紫上の住まい)
紫上のいる西の対に行くと、格子も降ろさずに物思いに耽っていて、
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👧🏻
お付きの童女たちは、簀子のあちこちに寝ていたのが、源氏を見て慌てて起き出す。
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宿直姿どもをかしうてゐるを見たまふにも ≫
可愛い宿直姿を見ていると、それにつけても、この人たちも散りじりになってしまうのかなど、ありそうもない未来までも想像して胸が騒いでしまう。
🧑🏻🦱✨
源氏は、こんな時に外泊してしまったことの言訳をする。
「昨夜はやむを得ぬ御挨拶で帰れなかったのだよ」「あなたは何か邪推でもしていない?」「こうなっては少しでもあなたの側に居たいのだけれど、後始末の野暮用も多くて、引き籠っているわけにもいかないのだ」「あなたにそんな風に思われたら私はどうしたらいいのだ」と、紫上を慰める。
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かくてはべるほどだに 御目離れずと思ふを
かく世を離るる際には 心苦しきことの おのづから多かりける ひたやごもり(直屋籠り)にてやは
常なき世に 人にも情けなきものと心おかれ果てむと いとほしうてなむ ≫
👩🏻✨
紫上は、
「女の方のことで嘆いているとお思いだなんて」
「あなたの御不運を見ることが悲しいのに」
と、悲しみようも別格である。
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🍂兵部卿宮と北の方
👴🏼
紫上の父兵部卿宮は、人目を憚って再び疎遠になられて、見舞いも便りさえないので、紫上はそれを恥じて、居所を知られない方がよかったと思う。
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世の聞こえを わづらはしがりて 訪れきこえたまはず 御とぶらひにだに 渡りたまはぬを
人の見るらむことも恥づかしく なかなか知られたてまつらでやみなまし ≫
👵🏻
兵部卿宮の北の方が、「急に幸運を得たと思ったら、すぐにこのどん底」「大事な人が次々にいなくなってしまう人ねえ」「おお、縁起の悪いこと」などと言っていると、
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にはかなりし幸ひの あわたたしさ あな ゆゆしや 思ふ人 方々につけて 別れたまふ人かな
とのたまひけるを ≫
👩🏻✨
さる筋から聞いてからは、紫上の方からも、音信を絶った。
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これよりも絶えて 訪れきこえたまはず ≫
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北の方の言う通り、源氏以外には天涯孤独な、他に頼る人もいない気の毒な身の上である。
🧑🏻🦱✨
源氏は、寄る辺ないこの人の身が、尚更に案じられてならない。
「何年もお許しがなければ、洞窟の中であろうとお迎えするつもりだが」
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「今は何をしても世間が悪く悪く受け取るのだ」「朝廷の罪を得た身であるから、安閑と日月の中に出ることも許されない」
「私は罪など冒していないのだが」
「妻を連れて行くなど前例もないことだから、この情勢では、そんなことでも口実に捉えられて、もっと悪いことにさえなりかねないのだから、あなたを伴うことはどうしても無理なのだ」と、優しく搔き口説く。
それから御帳台に入り、日が高くなるまで起きて来なかった。
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🌷着替え
東の対から女房が、帥宮や三位中将(頭中将)の来訪を告げに来る。
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応接の為に身繕いを始めるのだが、無位無官の者の習いで、着替えるのが無紋の直衣であるのも哀れなことである。
源氏のことであるから、着慣らした衣にやつした姿も、例によって、却って大層魅力的である。
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🌷鏡
🧑🏻🦱✨
紫上の傍らで、鬢の毛を梳かそうと鏡に寄ると、少し面痩せしたのが我ながら気高く美しい。
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面痩せたまへる影の 我ながら いとあてに きよらなれば ≫
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とのたまへば 女君 涙一目うけて 見おこせたまへる いと忍びがたし ≫
「こんなに痩せてまるで影のようではないか」と口に出して言ってみると、
紫上はもう堪えられず目に涙をいっぱいためてこちらを見る。
🧑🏻🦱➡️身はかくて さすらへぬとも 君があたり去らぬ 鏡の影は はなれじ
「我が身は遠く流浪しようとも、鏡に映った我が影は、あなたの側をずっと離れずにいるよ」
紫上は、
⬅️👩🏻別れても 影だにとまるものならば 鏡を見ても なぐさめてまし
「お別れしても、鏡の中のあなたの影が側にいて下さるなら、慰めになりましょう」
👩🏻✨
言葉とは裏腹に柱の陰に隠れて涙を紛らしている様子は、数多の情人と比べても、傑出して魅力的だと源氏は思う。
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思し知らるる人の 御ありさまなり ≫
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👨🏻🦱👨🏻
帥宮らはしみじみと時を過ごして、夕暮れの頃にお帰りになった。
眞斗通つぐ美