エドガー・アラン・ポーと江戸川乱歩の店

 ヴァーチャル・リアリティを楽しむのなら機材さえ整っていたら自宅でも十分だろうと思い込んでいたが、それは誤りだと気付かされた。真実を私に教えてくれた店が「あのエドガー・アラン・ポーの世界にどっぷりハマる館(仮名)」だ。簡単に紹介する。
 エドガー・アラン・ポーとは十九世紀アメリカの詩人で小説家だ。日本の推理小説の祖、江戸川乱歩の名前の由来になったことでも知られている。怪奇小説の分野でも業績を残した。スリラーの大家と言っていい。萩尾望都『ポーの一族』のエドガーとアランの本家をたどれば、こちらに行きつくのだろう。
 そんな感じの世界観なのでホラーが苦手の人にはお勧めできないけれど、怖いのが好きな人にはたまらないと思う。私は半殺しにされて壁の中に閉じ込められる、狭くて暗い棺桶の中に入れられ生きたまま埋葬される、刃物が付いた振り子が次第に降りてくるのだが体を縛られていて動けない、家がぺしゃんこになる、チンパンジーに殺される等の仮想現実を体験した。どれも二度とやりたくないと感じたものだが不思議なことに、しばらく経つと「またやってもいいな」という気になってくる。あのエドガー・アラン・ポーの世界にどっぷりハマってしまったということなのだろう。
「店へ行かなくてもVRゴーグルがあれば十分じゃね」
 そう思った貴方! 実に惜しい。それは当たっているのだ、半分くらい。
 エドガー・アラン・ポーの世界にどっぷりハマるには残念ながら、高性能VRゴーグルだけでは足りない。酒の力が必要だ。酩酊するまで飲んで、真の悪夢が幕を開けるのだ。
 この店では美味しい酒とヴァーチャル体験をセットで提供している。客が望むならエドガー・アラン・ポーの人生そのものを追体験できるかもしれない。彼の最期は酒浸りで野垂れ死になので、お勧めできないが。
 姉妹店では江戸川乱歩の世界を体験できるらしい。『屋根裏の散歩者』『人間椅子』『芋虫』『押絵と旅する男』『パノラマ島奇譚』等を特別価格でご提供、とパンフレットに書いてあった。なかなか興味深い。カップルで行けば割引ともある。実に素晴らしい。刺激の必要な倦怠期の方などに是非お勧めしたい。

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