嘘(※BL風味)

初BL 診断メーカーでひいたお題で書いてみる
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   嘘

「前払いだよ。貰った額で回数決める。千?すっくな。一発だけだz、ゴホッ。おい、商売なんだって。規定守ってもらわないと訴えるか、ぅぐ」
なにやら揉めてる声がする。
この辺りは夜になると物騒になる。
なんでもありの無法地帯。
太った大柄の男が痩せた小柄な男を殴っている。
「お待たせ〜。悪い悪い電車一本間違えたわ」
「チッ」
人に見られてまずいと思ったのか殴っていた手を止めて去っていく。
「誰?」
「知らない人。ねぇちょっと着いてきてくれない?」
「……知らない人に着いていくなって父さんに言われた」
「君、父親いないだろう」
「いや、まぁもういないけどさ」
「子供の時から見たこともないだろ」
「……なんで、知ってんだよ」
「着いてきてくれないかな〜。人手が欲しいんだけどな〜」
「聞けよ」
「まぁたったこれっぽっちじゃ仕事する気にもなれないか〜」
財布の中身をチラチラ見せたら目が変わった。
「おい、さっさと行くぞ。どこ行くんだ?」
「こっち〜」

そこは高級マンションの一室だった。
「なにすればいいんだ?料理以外ならなんでもできるぞ」
「そうだね。料理は僕が教えるよ」
「いや、別に教わらなくても」
「君にはここに住んでもらう」
「……は?」
「衣食住は面倒見てあげよう。あと君の弟もここに住むといい。もう一室借りてあるから。妹の入院代、手術代も出そう」
「なんで、そんな」
「君を買いたい。君のことを好きにしていいなら、弟妹が自立するまでの援助資金を出してあげる」
「は?え?」
「考えが纏まらないようなら、一度相談してくるといい。弟は明後日の朝、修学旅行から帰ってくるんだろ?明後日の夜まで待とう。ここのエントランスにいるよ」
なんで、そんなことまで知ってんだ?
調べられてる?
なんで、なんのために?
「「それはやめた方がいいよ」」
弟と妹に話した。
「そうだよな、でも」
「私たちよりも、まず兄さんの体が心配だよ。ただでさえボロボロなんだし……殴られ屋なんてやめてさ、普通の仕事に就いたら?危ないことやめてよ」
「でも、稼がないと」
「もう借金は返し終わったんでしょ?私が手術を受けるのはまだ先だし、そんなにすぐ大金がいるってわけじゃないよ。先生も半分は負担を減らしてくれるように働きかけてくれてる。退院してから私も働いて、それで返せばいいでしょ?」
「で、も」
「……ねぇ兄さん。その人に会わせてよ。そんなに頼りたいなら、僕たちにも会わせて」
「……そうだな。来てもらうように、頼んでくるよ」

まだ日が暮れる前に訪ねてきた。
「俺の、妹と、弟に会ってほしい。俺だけじゃ決められない」
「あぁ、それは確かに。今から行って面会時間には間に合うかな?」
「間に合うよ。七時までだから」
僕は上着を羽織ってスマホと財布と鍵だけポケットにしまって部屋を出た。
徒歩二十分ほどで病院に着く。
陽の妹は点滴に繋がれていて年不相応に小さく細かった。
「兄を買って、どうするつもりですか」
兄が、大好きなんだな、ずっと。
「僕はね、君のお兄さんに一目惚れしたんだ。この子を手元に置けるなら全財産投げ打ってもいいと思った。彼は君たちのことを自分の命より大切にしてるだろ?それはやめてほしいと思ってね。僕がお金を援助したらやめてくれるかな?と思って。……でも、やめそうもないよね。一昨日見て分かったけど、お金よりも殴られることが目的になっていない?」
「はぁ?そんなこ」
「一昨日殴られながら悦に浸った表情をしてたのに?僕があいつを遠ざけたら落胆したような表情してたくせに」
「な、ん」
「それはあると思います」
「え!?」
「そういう気があるのは私たちも気づいてたんです。いくら止めてもなかなか辞めないし」
「ちが」
「僕が買ったらそれをやめさせると約束しよう。ただ完全に、ということはほぼ不可能だからあくまで傷が残るようなことを自らしない、でどうかな」
「話を進めるなっ」
陽が顔を赤らめるのをよそに弟妹は頭を下げた。
「お願いします。兄さんを死なせないでください」
「頭なんて下げなくていいよ。まず君の手術からだね。すぐに入金してこよう」
「いや、手術は半年後なので」
「?そうなの?」
「はい、無事終わってからお願いします」
「そうなんだ。お金払ってすぐするもんだと思ってたよ。じゃあひとまず今は入院代と義足代かな?」
陽の弟は左脚の膝から下がない。
一応支えられる程度の義足がつけられているが、歩くのには杖を使うようだし、自力で歩ける丈夫なものの方がいいだろう。
「いい技師を知ってる。明日にでも行って調整してもらいなさい。歩くのがやっとというのは不便だろ?」
弟は少し困ったような顔をしてから頷いた。

翌日、俺と弟はそいつのマンションに引っ越した。
「なんで俺はお前と同じ部屋なんだよ」
弟を見送ってからほぼない荷物を勝手に収められる。
「当たり前じゃないか。僕が買ったのは君だよ?それとも俺に弟くんと寝てほしかった?」
「はぁ?」
「わぁ、君怒るとすごいブスだよ。二度と怒らない方がいい。とても人に見せる顔じゃないね」
「余計なお世話だ。で、なにすりゃいいの?」
「君はただ身を任せてればいいよ。それよりまずご飯を食べよう。お腹空いたでしょ」
「……まぁ」
「僕が作ったんだ。あっためるからちょっと待ってね、ってどうじたの?」
「毒でも盛ってないだろうな」
「盛ってないよ。……毒は」
「おい待て聞き逃さねえぞ。何盛ったか吐け」
「なにも盛ってないって。冗談冗談。そんなに不安なら見てればいいよ」
タッパーから二つの皿にパスタを乗せる。
粉チーズをふって、テーブルに置く。
その過程ではなにも盛ってない。
タッパーからはなんか挟むやつで一掴みずつ交互に出してたし、ほんとになにもなさそうだ。
「!美味い」
「そう?ただのスパゲッティなんだけど」
「給食のやつより美味いぞ」
「ええ、そうかなって早」
「これからずっとこれが食べれるのか」
「献立は変えるけどね。嫌いなものもアレルギーもないし、多分これと同じ美味しさに感じると思うよ」
「まじか」
「どうしたの?」
「これ、二人にも食べさせたい」
「勿論だよ。ご飯はできる限り一緒に食べようね」
やっぱり、この話は受けてよかったんじゃないか。
二人にもこういう生活させられるなら。
「あ、お前名前なんだ?」
「悠也だよ」
「俺、」
「君は今日から陽だ」
「え?」
「本名はもちろん知ってるけどね、名付け親の正気を疑うような名前だから、意味は知らなくていいよ。君は少なくとも僕の前では陽を使って」
「……よう」
「弟妹も、酷い名前だから、呼び名だけでも君が考えてあげたらどうかな?」
「……そう、なのか。すごい、綺麗な名前って、言われてたけど」
「まぁ、意味を知らなければそう見えるかもね」
「分かった。ようって呼んでくれ。あと、俺名前の付け方は分かんねえから教えてくれ」
「もちろん」
皿を持っていって、洗って、ソファに座らされた。
「これから君の悪癖を治そうと思うけど、いいね?」
「……ほんとに、するのか?」
「うん。異論は認めない」
「んじゃ聞くなよ」
「一旦どの程度か確かめるね」
「なに、……」
頭の上にふんわり手を置かれて、ゆっくり左右に動かされる。
「はっ、はっ」
気持ち悪い嫌だやめろ嫌だ気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い

頭を撫でているだけなのに、拷問でも受けるかのような表情で目に涙を溜める。
軽く頬を叩く。
「はぁ、ぁ」
安心したように表情が和らぐ。
「かなり重症だね」
恐らく頭の中で痛みと快楽が全く逆になっている。
痛いことは心地よくて快いことは苦しいと、簡単に言えばこんな感じになってる。
これを治すのはなかなか時間がかかりそうだ。
「なお、る?」
「大丈夫。洗脳を解くのは得意だから」
ここに来てからずっと腕や脚を掻いてる。
ある程度心地よい空間にいたらそうするように無意識に身についたんだろう。
風呂に入った時、傷の酷さを再確認した。
「なぁ、なんでお前も入るの?」
「なんでだめなの?」
「子供じゃないんだからさ、一人で入れるよ」
「体を洗う時タワシ使ってるでしょ」
「え、いや使わねぇの?」
「使わないよ。普通手か柔らかいスポンジ。こういうところから治していかないと……待って、もしかして弟くんもタワシ使ってる?」
「義足は」
「肌はダメだよ」
「ふーん」
「爪たてない。頭は指の腹で洗わないと」
「指に腹なんてあるの?」
「あるよ」
「変だな」
「変だね」
また、腕を掻いてる。
それから寝つくまで、というか寝ついてもなお掻き続けていた。
しかも傷口を掻くから血が出ている。
応急処置として陽の手に手袋をはめて僕も寝た。

撫でられて殴られて、撫でられて殴られて、なにをしてるのかもなにをされてるのかも分からない。
そういえばあの日から全く外に出てないし、悠也と努(つとむ)以外会ってない。
結構強打されないと落ち着かなかったのが最近軽い平手打ちで落ち着けるようになってる。
よくなってる、ってことなのかな。
頭を撫でられても気持ち悪さはない。
あいつの犬猫でも愛でるような目は少し気持ち悪いけど。
結(ゆい)の話は努から聞いてる。
手術が終わってから順調に回復していて、来月には退院できるって。
そしたらまた話せる。
一緒にご飯も食べれる。
俺はなにがしたいんだっけ。
最近そういうのに悩まされなくなってきてる。
前は考えることがいっぱいあって、苦しかったけど、考えないといけないことがほとんどなくなって、本当にただ身を任せてれば幸せに過ごせる。
いいんかな。
夢じゃないんかな。
悠也のことはまだ信用しきってるわけじゃないけど、身だけ任せれば気楽ではある。
……ほんとは、治りたくない。
今の身体のままでも十分楽しいし。
でも、二人に迷惑かけたくないし、それにこいつ、時々俺が死んでないか確認するんだよな。
俺、死んだんかな。
死にたくは、ないから。
こいつも、苦しかったんかな。
日記、ごめん、読んじゃった。
もう、嘘つかなくていいのに。
俺はもうお前のこと全部じゃないけど受け入れられるよ。
だから、さ。
俺たち置いて死のうとするなよ。
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お題は「数年後の未来から来た調教師と趣味と実益を兼ねた殴られ屋との優しい嘘の物語」でした
優しい嘘って難しい
悠也は気づいたら数年前の自分に戻ってたという感じで同じ時空に二人いるようなことは起こってません

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