神隠し
誰も話題にあげない、神隠し。
子供達が話していたら大人達に止められる。
毎年行方不明者の出る祭り。
一昨年はみあがいなくなった。
みあの友達といなくなった。
去年は国語の先生と、その先生が顧問をしてた茶道部の四人がいなくなった。
その前もその前の年も何人かが消えた。
女も男も、三つから足腰悪い年寄りまで。
赤ちゃんを抱えて消えた人もいる。
「わたあめ買って」
「手を離したらいけないよ」
「ラムネください」
「お兄ちゃんどこ?」
声があっちこっち飛び交う屋台の道をくぐり抜けて神社へ向かう。
きっと神社だ。
お祭りの間、人はそういない。
死角も多い。
人が攫われるなら神社だ。
去年茶道部も神社に向かってた。
神社は誰もいなかった。
隅々まで調べても誰もいなかった。
神社の周りを見てまわることにした。
そしたら裏には大岩があった。
二つ、誰かの影が見える。
しゃがみ込んで線香花火をしてる。
一歩近づいたとき、片方の火が落ちた。
もう二、三歩近づいたらもう片方の火も落ちて、消えた。
火も、線香花火も、人二人も消えた。
風に舞う微かな煙だけ漂ってる。
スマホの電気をつけて、大岩の周りを見てみても、人は誰もいなかった。
「だあ、れ?」
子供の声がした。
気付けば大岩に寄りすがって眠っていた。
いつの間に、寝たんだろう。
岩を調べて、どうしたんだっけ?
思い出せない。
身体を起こす。
「君も、お迎え待ってるの?」
隣から、声がする。
髪の長い、真っ白い浴衣を着た、“何か”がそこにいた。
「君は、人?」
長い前髪から薄ら覗く右目がパチパチと瞬きをする。
「初めて、聞かれた。自分……なんだろうね。人間なのかな」
「迎えを、待ってるの?」
「そう。いつも待ってるの。お祭り、もう終わっちゃうよ。待ってるなら一緒に待ってあげる。そうじゃないなら、早くお帰り?」
「君は、何を待ってるの?」
「お迎え。それがお仕事」
「毎年祭りで人が消えるのは、そのお迎えのせい、なの?」
「……知らない。自分はお迎えを一緒に待ってあげるのが仕事。その後は、知らない」
「……迎えに、来るのは、なんなの?」「……」
「それも、知らないの?」
「……」
「知ってるなら教えてよ」
「……ワタ、シ、ノ、神、サマ」
「……?」
その子が立ち上がる。
「ちょっと明るくなってきた。もうすぐ時間」その子の両足首には、枷がつけられてる。
「それ」
「……これ、自分が間違ってお迎えに連れていかれないように」
俺も立ち上がる。
「帰る?待つ?」
「待ったら、どうなるの?」
その子は首を傾げて少し考える。
「こことはバイバイ。向こうに行く」
俺は、俺の脚は神社の方へ向く。
その子もついてくる。
「どうするの?」
「帰、る」
「ばいばい」
振り返るとその子は消えていた。