生死の選択

少し前に書いたもの
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
十五歳、選択の歳。
西暦二千七百何十年に、性別の選択が可能になった。義務教育の間に性別に関する知識と子供を増やすための知識を教え込まれる。そして中学卒業と同時に、今後一生の性を、生き方を選ぶ。昔より、随分いいと聞いた。昔は性別は選択なんてできなかったって。体の手術にも大量の金が必要で、差別やいじめも多発していたって。肉体的虐待も性的虐待も精神的虐待も受けていたときがあったんだって。人権すら奪われていたって。増え続ける被害を減らすため、性別の選択という人の権利のため、科学は人間の生殖機能に手を出した。世界から戦争がなくなった数年後から、生まれてくる子供の遺伝子から性に関する染色体を抜き取った。生まれてくる子供は性別を持っていなかった。そして性的知識を全て兼ね備えてから、薬による性別投与を行い、徐々に生殖器が発達し、三年から五年で完全に男性か女性になる。
昔あった身体障害もなくなった。全ての人が平等に生き方を選べるように。全ての人間が寿命まで生き続けられるように。少し前まで禁止されていた自殺や自傷行為も人の権利のため合法になった。収めれば勝手に消毒してくれる錆防止カバーつきの自傷用刃物、どれだけ飲んでも十二時間ぐっすり眠るだけのOD用薬剤なんかが開発された。道路への飛び出しや他人の敷地での飛び降りなど法に触れなければ自殺しても家族が罰金を要求されたりしない。失敗して入院しても保険金がもらえる。それだけ自由になった。
今年130歳になるひいひいおばあちゃんはいい世の中になったよといつも言う。後悔しないようにしっかり悩みなさいといつも言う。
自分は選べなかった。どちらとも魅力的だったとかじゃない。どちらとも、あまりにも恐怖だったから。別にどちらになっても苦痛はない。男性が安月給で奴隷のように働かされていた時代は終わったし、昔あったという女性の月経や妊娠出産の苦痛もない。職業の性差別もない。
本当の自由を許されたのは子供の間だけ。授業では魅力的に説明をするけど、結局縛られたままなんだ。政府は、世界は、自分たちの関わりのない人間を追い出して、自分たちだけあたたかい家に籠るんだ。
十五歳、選択できなかった人たちは無性のまま特別学校に送られる。義務教育の保健体育、道徳をもう一度一年かけて受け直し、それで決まれば出られる。決まらなければもう一年出られない。二十歳までに決められなかった人たちは大陸から追放される。荷物をまとめさせられてかつて島国だったという島の精神病院に入れられる。そこで一生働かなければならない。もちろん最低限の衣食住やある程度の娯楽はあるが、給料は出ない。
ヒトは種族繁栄のため、全ての人間が自ら望む性になることで繁殖率が向上すると考えた。女性になるか、男性になるか。その二択。
僕には選べない。女性にも男性にもなりたくない。性別なんて要らない。
当然、追いやられるんだろう。治療と称して。変わんないじゃないか。自由なんて、ただの偶像だ。人間は結局生命の奴隷なんだ。差別から逃れられない。区別と名を変え隠してるだけ。自分たちはそんな馬鹿じゃないと。差別によっておこった過去の戦争の記録に一緒にされたくないとため息を吐きながらお前はおかしいと、差別する。疲れた、なぁ。一日坊主の日記に、ずいぶん書きすぎた。明日にはもう出なきゃいけないんだ。思考が矯正に歪められる前に書き残しておかないと。歪んでるから矯正される?どっちでもいいや。どうでもいい。作文の授業、ちゃんと聞いとくんだった。誰も読まないならそれでいいんだけど、ね。日記が有名になることもあるらしい。歴史の話は全部おばあちゃんから聞いたものだ。おばあちゃんは元々歴史の先生だった。今の板書ばかりの授業よりずっと分かりやすいよ。未来の僕も、もう一度受けられたらいいね。おやすみなさい。作文が下手くそな僕。生きるのが下手くそな僕。最期の自由な僕。
今、朝の2時48分だ。目が覚めて寝付けそうにないから加筆しとこう。僕には死ぬ勇気なんてないよ。子供で生きていたかっただけで、死にたくなんてない。なんで、勝手に大人にされるんだろう。お母さんもお父さんも僕がどちらになっても受け入れると言ってくれた。今時当たり前のことで有難いことだ。でも、僕がどちらも選ばないことだけは認めてくれなかった。不思議だね。選択権なんて、初めからないんだ。あるとすれば死ぬか死ぬの二択だけ。オトコもオンナも、ただの苦痛を与えられるための身体じゃないか。それ以外になんだよ。誰か教えて。僕の異常な記憶。
苦しむよ。人間は苦痛に心を歪めるために生まれてきたんだ。この地球という檻の中に。教えてあげよう。天国も、地獄も、人間がいる地にしかない。死ねばもう人間じゃない。また生まれ変わって地獄に落ちるまで人間にならない。生とは人間への罰。狂ったと思うだろう。僕も思うさ。現代でも治療法の見つかっていない不治の病、厨二病患者が書いたようだ。
永遠におやすみ。自由な僕。

いいなと思ったら応援しよう!