花瓶の水は涸れている!
【ピエロの手記69 断章57】
今 花瓶の水は涸れている
いいえ ずーっと前から
花瓶は 渇いているのです
・ ・ ・ ・ ・
「先生
このひと月はきつかったです
精神科のクリニックに行く決意をした
ずいぶん前と 同じ胸の疼痛なのです」
『それは大変でしたね。
お薬しっかり飲んでくださいね。
ところで
次は年末、年始に重なるのですよ。
だから12月24日に来て下さいね』
「・・・・・・」
予約票を渡された私は
椅子から立たざるをえなかった
クリニックを出て
訳もなく侘しい自分に気づいた
❛お前 もしかして
ドクターの言葉に
一片の癒しを、一滴の水を花瓶に欲したのではあるまいな
未練がましい❜
自嘲しながら己の影を踏んだ
「あんたを救う神様なんていないよ」と
あの彼女に言われていたのに
ーー帰ろう
待ってくれている者たちのところへ
希み敗れて
見捨てられた者たちのところへ
無縁墓地へ
渇いた花瓶に
花を生ける人もなかろうことに
‟悲しいピエロ”