macOS における「メモリプレッシャー」の仕組み
macOSにおける「メモリプレッシャー」は、システムがどれだけ効率的にメモリを管理できているかを示す指標です。これは、システムのメモリ使用状況を視覚化し、どの程度メモリが逼迫しているかをユーザーが確認できるようにするものです。「アクティビティモニタ」の「メモリ」タブで確認することができます。
メモリプレッシャーは、色の変化によって視覚的に表示されます。
緑色: 十分なメモリが利用可能で、システムは効率的に動作している。
黄色: メモリ使用率が高まっており、システムが効率的なメモリ管理のために一部のプロセスを圧縮またはスワップし始めている。
赤色: メモリが非常に逼迫しており、パフォーマンスに影響が出る可能性が高い。スワップが多発している場合、ディスクアクセスが増え、システムが遅くなることがある。
macOSは、システムのパフォーマンスを維持するためにメモリ圧縮と仮想メモリ(スワップ)を活用して、物理メモリが足りなくなった場合にディスクをメモリのように使用します。メモリプレッシャーが高い状態では、アプリの応答性が悪くなるなどのパフォーマンス低下が発生することがあるため、赤色が長時間続く場合はメモリの増設や不要なアプリの終了が推奨されます。
この指標は、メモリの物理的な使用量だけでなく、圧縮やスワップの状態も考慮して全体的なメモリの健康状態を示すため、メモリの管理状況を総合的に理解するのに役立ちます。
macOSにおけるメモリ圧縮は、圧縮アルゴリズムを使って物理メモリの消費を減らすための手法で、具体的にはzlibやLZ4のような軽量で高速な圧縮アルゴリズムが使われています。ZIPのような圧縮形式とは異なり、非常に短時間で処理できるように最適化されています。
圧縮の仕組み
macOSは、メモリが逼迫してくると、まずはメモリ上の未使用データや使用頻度の低いデータを圧縮して、物理メモリを節約し、他のプロセスで利用できるようにします。以下のような流れで動作します。
圧縮するメモリの選択: システムは使用頻度が低く、しばらくアクセスされていないメモリページを対象に圧縮します。これにより、今後すぐにアクセスされる可能性が低いメモリから優先して圧縮が行われます。
圧縮アルゴリズム: 圧縮には、LZ4という軽量かつ非常に高速なアルゴリズムが使われることが多いです。LZ4は、データを素早く圧縮・解凍できるため、システムのパフォーマンスに悪影響を与えることなく、メモリの圧縮・解凍が可能です。ZIPのように高圧縮率を求めるアルゴリズムとは異なり、LZ4は速度を優先して設計されています。
メモリ圧縮の結果: 圧縮されたメモリは、通常のメモリの半分以下のサイズで保持されるため、実質的に物理メモリの使用量が削減されます。圧縮されている間、データは物理メモリ内に圧縮された状態で保存されており、アクセスが発生した場合には即座に解凍されます。
スワップとの違い
メモリ圧縮は、ディスクにデータを書き出すスワップとは異なり、データを物理メモリ上に圧縮して保持する手法です。スワップは、物理メモリが完全に不足したときにディスク(SSDやHDD)にデータを一時的に退避させるのに対し、圧縮はメモリ内でのデータの圧縮を行うことで、スワップをできるだけ避けることが目的です。
圧縮されたメモリの復元
圧縮されたメモリは、再び必要になると解凍され、プロセスに提供されます。解凍処理も圧縮と同じく非常に高速に行われるため、ユーザーにとってはほとんど遅延が感じられません。
メモリ圧縮は、ZIPのような高圧縮率を求めたアルゴリズムではなく、速度と軽量性を優先したアルゴリズム(LZ4など)が使用され、メモリの逼迫を軽減するために、スワップに頼らず効率的に物理メモリを管理するための手法です。
Windowsにもメモリ圧縮の仕組みはあるか?
WindowsにもmacOSと同様に、メモリ圧縮のメカニズムが存在します。Windowsでは、これを「メモリ圧縮」と呼び、Windows 10以降に導入されています。
Windowsのメモリ圧縮の仕組み
Windows 10以降のメモリ管理では、メモリが逼迫してくると、システムが「圧縮メモリ」という技術を使用して、物理メモリ内の使用頻度の低いページを圧縮します。これにより、物理メモリ内でのデータの保持量を増やすことができ、スワップ領域への書き込み(ディスクへの退避)を遅らせることができます。
以下がWindowsにおけるメモリ圧縮の基本的なメカニズムです:
メモリ圧縮のトリガー: システムのメモリ使用率が高くなり、空きメモリが少なくなってきた時に、圧縮が開始されます。Windowsは、まずメモリ圧縮を行い、スワップをできるだけ避けようとします。
どのメモリを圧縮するか: macOSと同様に、Windowsも最近使用されていないメモリページを優先して圧縮します。これは「リーク率」や「再アクセスの可能性」などの要因を考慮して、最も圧縮に適したページが選ばれます。
圧縮アルゴリズム: Windowsは、macOSのようにLZ4に近い高速かつ軽量な圧縮アルゴリズムを使用しています。これにより、圧縮と解凍が高速で行われ、ユーザーの操作に影響が少ないように設計されています。
圧縮後のメモリ管理: 圧縮されたメモリは、システムの「圧縮ストア」に保持されます。この圧縮ストアは物理メモリの一部として扱われ、プロセスが再びそのデータを必要とした場合は、システムが迅速にデータを解凍して元の状態に戻します。
スワップとの連携: 圧縮メモリはスワップと並行して機能します。圧縮が物理メモリを解放する手段として最初に試され、圧縮しても物理メモリが足りなくなった場合には、最終的にスワップ(ディスクにメモリを退避させる)が発生します。
メモリ圧縮の確認方法
Windowsでは、「タスクマネージャー」を使ってメモリ圧縮の状態を確認できます。「パフォーマンス」タブにある「メモリ」のセクションで「圧縮メモリ」という項目を確認でき、どれくらいのメモリが圧縮されているかを可視化できます。
メモリ圧縮のメリット
メモリ不足を軽減し、スワップによるパフォーマンスの低下を回避する。
アプリケーションを終了させずに、より多くのメモリを効率的に使用できる。
メモリ圧縮のデメリット
圧縮・解凍にはオーバーヘッドが伴うため、処理が非常に頻繁に発生すると、CPUに負荷がかかることがあります。
圧縮されたデータが再び頻繁に使用される場合、データの解凍が繰り返されるため、パフォーマンスが低下する可能性があります。
WindowsにもmacOSと同様のメモリ圧縮機能が存在し、これによりメモリの効率的な利用が可能になっています。スワップを避けつつ、パフォーマンスを維持するための重要な仕組みです。
OSがメモリの圧縮に対応した起源はなに?
OSがメモリ圧縮に対応するようになった起源は、メモリ管理技術の進化と、システム全体のパフォーマンス向上に対するニーズに由来します。特に、メモリが限られた環境や仮想メモリ管理の分野で、メモリ圧縮は効率的にシステムリソースを活用するための手法として採用されました。
以下はメモリ圧縮技術の起源と発展に関する重要なポイントです。
1. 仮想メモリの登場とスワップの問題
仮想メモリ技術が登場した当初(1960年代から1970年代)、OSはメモリ不足に対応するためにディスク(ストレージ)をメモリの代わりに使用する「スワップ」技術を用いていました。しかし、ディスクへのアクセスは非常に遅く、スワップが多発するとシステム全体のパフォーマンスが大幅に低下するという問題がありました。
特に、ストレージのアクセス速度がメモリよりも遅いことから、スワップが頻発する状態は「スラッシング(thrashing)」として知られ、ユーザー体験を悪化させる原因となりました。
2. メモリ圧縮の萌芽 (1990年代)
メモリの利用効率を高め、スワップの発生を抑えるために、メモリ圧縮のアイデアが生まれました。初期の頃は、主に研究機関やハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の分野で注目され、メモリが限られた環境でより多くのデータを扱うための手法として検討されました。1990年代に入り、メモリ圧縮は仮想メモリの管理技術の一環として試験的に導入され始めました。
3. Linuxとメモリ圧縮の研究
オープンソースのLinuxコミュニティでは、2000年代初頭からメモリ圧縮に関する研究が行われてきました。特に、カーネル開発者たちは、デバイスが限られたメモリで動作する状況や、システム全体のパフォーマンスを向上させる方法として、メモリ圧縮技術を研究していました。Linuxでは「zswap」や「zram」などのメモリ圧縮に関連する技術が導入され、これにより圧縮されたデータがメモリ内に保持され、スワップを減らすことができました。
4. WindowsとmacOSへの実装
Windows: Windows 10(2015年リリース)でメモリ圧縮技術が正式に導入されました。これは、システムがメモリ不足になった場合、物理メモリをより効率的に使用するために、未使用メモリを圧縮し、スワップの発生を遅らせる機能を提供しました。これにより、従来のスワップ中心のアプローチよりもパフォーマンスが向上し、特にメモリの少ないシステムで効果が高まりました。
macOS: macOSでは、2013年のOS X Mavericks(バージョン10.9)でメモリ圧縮技術が初めて導入されました。この技術は「Compressed Memory」と呼ばれ、メモリ使用率が高まった際に、メモリページをリアルタイムで圧縮し、スワップ領域へのアクセスを減らすことを目的としていました。この機能によって、macOSは複数のアプリケーションを効率よく実行し、システム全体の応答性が向上しました。
5. モバイルデバイスにおける圧縮
スマートフォンやタブレットなど、メモリが限られているモバイルデバイスでは、より効率的なメモリ管理が重要です。AndroidやiOSのようなモバイルOSでも、メモリ圧縮技術が広く利用されています。Androidでは「zram」が利用され、メモリ不足時にスワップを避けるためにデータをメモリ内で圧縮します。iOSでも、バックグラウンドアプリケーションのメモリを圧縮してメモリを効率化する技術が使われています。
結論
メモリ圧縮技術の起源は、メモリ管理の進化と仮想メモリに関連した問題への対応として始まりました。スワップのパフォーマンス低下を改善するために、1990年代に研究が進み、Linuxをはじめとするオープンソースシステムでの導入が進んだ後、Windows 10やmacOS Mavericksなどの商用OSでも正式に採用されるようになりました。この技術は、現代のデスクトップやモバイルデバイスで効率的なメモリ利用を実現する重要な機能となっています。
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