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「コロナ禍にある妊婦さん!あなたは健康体です。自分の日頃の【健康管理能力】をしっかり身に付け、自分自身で【健康観察】ができるようになりましょう!」


今朝のニュースで、妊婦さんのコロナの影響について報道されていた。
コロナ禍での妊娠、出産は、平常時(非妊時)の女性の生活に比べ「不安」がより大きいと一般的には考えられています。
 
確かに、
身体(子宮)の中に別の『新しい命』を育んでいるわけですから、考え始めたら、心配は尽きないかもしれません。けれど、妊娠をしているからといって、コロナ禍においてそれが、非常に特別な事態になるということがあるわけではありません。
何故って、それは、「妊娠」そのものが生理的現象であって、妊娠=病気でないことは、皆さん百も承知ですよね。むしろ妊娠は、「健康母体」であるからこそ果たせる事象です。
 

 東京都では、助産師会の「健康観察」という委託事業が、先月(510件)だったのに対し、今月は、3倍以上(1720件)にも相談件数が増えたというニュースでした。

「健康観察」という名称は、耳慣れない言葉でした。「健康観察」とは、コロナ禍において、病状の軽い人が、自己管理をすること。病気の領域だと思われます。自分の健康管理を異常に至る前の「不安」、「ちょっと気になる」というレベルで相談するのでしょうか。
 
 妊娠のおいて、緊急性を伴うかもしれない『異常サイン』というならわかります。けれど、その前の段階での相談ということですが、この感覚は、妊娠中だけはなく、女性にとっては、常に「健康」についての意識を持っていれば、そんなに手を煩わせることはないのではないかと思うのです。

いわゆる過剰支援?そこまで自分の健康状態についての自信がないまま、妊娠して、妊娠生活(妊娠期間=トツキトオカ)を送る、そして、出産という「最も危機的な状況」に置かれるとき、自分自身の健康管理能力がちゃんと働くのでしょうか?
 
「妊娠中だから」という理由で何かと「門前払い」をされた経験のある女性は沢山います。
コロナ禍でなくても『妊婦さんだから』という言葉をよく耳にします。女性が、妊娠していることは、確かに、特別な期間ですが特別な状況ではありません。つわりなどが病的に進行したり、持病が妊娠経過中に発症してきたり、という特別な場合を除けば、日常生活が普段通りに送れます、仕事もできます。
「産むが産むまで、普段通りの生活ができるのです。」(現在では、産休を取らのが普通です、会社ならば、産休は、権利として、ほぼ、キチンと取れます)
妊娠とは、
治療が必要な病気ではないのですから。
 
このよく聞く「妊婦さんだから、、、」という言葉、声掛けは、妊婦さんにとって、自身が「妊娠という特別な状況」にあるのではないかという錯覚を持ってしまうのではないかと思うのです。「特別なこと、特別な人」、確かに生涯でほんの何回かしか経験しない「妊娠」という出来事、期間ですが、実は、女性は、妊娠というトツキトオカという期間を過ごすことにより、自分自身の体内(子宮内)に「別の命を宿し」、妊娠という負荷のかかった中での身体のバランスのとり方を身に付けていきます。

 女性は、妊娠期間、出産経験を通して、より逞しくなるチャンスを手にするのです。
昔からいう『母は、強し!』です。
 
妊娠期間のその先には、さらに大きな試練、「出産という大仕事」が待ち構えています。
女性は、妊婦から産婦へと昇格し、その大役に臨みます。即ち、「赤ちゃんを産み出す!」という大仕事を経験するのです。
 
 普通に考えたら出産(分娩)とは、規模的に考えると「大手術」にも匹敵するような出来事です。
 何故って?!一人の女性の生身の身体から、赤ちゃん(通常、3000g前後に成長した胎児)を取り出すという「物理的な状況」をそのまま当てはめてみると、確かに大手術級の出来事です。
       
でも、多くの女性(妊婦)は、妊娠期間(トツキトオカの妊娠期間)を無事に過ごせさえすれば、それだけで次の段階の出産(分娩)という大激変状況へと突き進みます、そして、子宮の中から必死で「生き伸びてきた我が子」に初めて対面するのです。
 
 産婦は、自分自身の身体能力の限りを尽くし、胎児から赤ちゃんへの変貌を遂げつつある命(生命体)と共に、何時間もの時間をかけて、命を産み出します。女性は、出産という現象を終えることで、およそトツキトウカという期間(時間)をかけて「種の保存という大事業」を締めくくるのです。そして、母になるのです。
 
 その間(妊娠期間中)、身体の中に備わっている様々な機能を発揮して、妊婦として日常生活を送り、自分自身の妊娠という現象に適応しながら、その期間の健康管理の方法、身体との付き合い方を身に付けます。
そして、
女性(産婦)は、出産という「命がけの大事業」にその身一つで臨み、途中、生死を分けるような瞬間をも体験し、我が子をその手に抱き、逞しくなっていくのです。
 
愛おしい我が子を抱きとめる逞しい腕の持ち主になるのです。安定感のある優しさと逞しさを持ち合わせた母(母親)になるのです。
 ホンの初めだけは、少し危なっかしいように見えても、すぐに安定した自信のある抱き方を身に付けられる女性は、母になるまでの期間、色々な面で、母になるためのいくつもの試練を受け、心身ともに主体性を持つことを日常的にクリアしてきた結果が表れるのだと考えます。妊娠の期間中に受ける試練こそが、母を逞しくするのではないでしょうか。
 
 それは目に見えるような大きさのものではなく、日々の生活の中にある「ちょっとした出来事」への対処、判断・決断の積み重ねのように見えることだと思います。
 例えば、少しおなかが張っているようだと感じた時、前後の生活を振り返り、二、三日間、便が出ていないということに気づけば、便秘であると分かり、便が出れば、それで「よし!」とできるでしょう。

 そんな日々のことまでも、一つ一つ判断にも困り、「健康観察」窓口に相談しなくては、先に進めないようなことでは、実際、困ってしまうのではないかと考えるのです。

 出産して、赤ちゃんの育児に当たるとき、便が出ないということを体験したことのある母は普通に、何とかして「こより浣腸」(柔らかい和紙などを「こより」の様に仕立てて、赤ちゃんの肛門からうんちの誘導をする方法、現在は、綿棒の先の綿の部分にベビーオイルをしませて肛門の刺激をすることが一般的な方法)を駆使して対応します。そんなとき自分の経験、それこそ、母としての「健康観察眼」ができていなくては、困ってしまうのではないでしょうか?
 
もし、【健康観察】という相談窓口が、今後、「どんな相談でも受けますよ」という支援の方法を続けていく中で、「分からないことは何でも聞けが良い」という習慣が、つきすぎてしまったら、母になるまでに身に付けておきたい「判断力」が弱くなってしまうのではないか、ひょっとしたら、判断ができなくなってしまうのではないかと心配になるのです。
 
 今の時代、このコロナ禍においては、必要な委託事業なのかもしれませんが、助産師として、私は、「母になるプロセス」において、「自分の身体を自分で知る」「我が子を守るのは自分だという力強さ」を身に付けるチャンスは、妊娠期間にあると考えています。
 それに対して、この事業が、ひょっとして、マイナス効果になりはしないかと危惧してしまうのです。
 
命を育み、産み、育てるという女性にとって、妊娠期間中、出産に対しての心構え、子育てへの希望と期待、そして、自分で判断し決断するということを自らの身体を通して学び、知り、実践するという一連のことを学ぶ大切なチャンスである妊娠期間中、ほんのちょっとしたことまで「ヘルプ」を提供してくれるという支援が、今後、母になるための「逞しさ」や「幼子の命を護る判断力を求められる立場にたつ女性(プレ母)」にとって本当に必要なのか、その充分過ぎる支援、優しさがかえって、生きるための自主性、主体性を軟弱なものにしてしまうことはないのだろうかと思えてしまいます。やや疑問が残る制度だと感じてしまったのは私だけでしょうか?
 
このコロナ禍で、妊娠しようとしている女性、妊娠している女性、妊娠した女性、そして出産した女性。子育て中の女性。みんな同じく女性です。そして、女性という『種をつなぐ性』を持つ女性たちです。
 常日頃から、健康に関心を持ち、自分自身の健康管理に心がけている女性にとっては【健康観察】という妊婦支援事業について、「コロナ禍にある妊婦さん!あなたは健康体です。
自分の日頃の【健康管理能力】をしっかり身に付け、自分自身で【健康観察】ができるようになりましょう!」
 近々、母になる途中にある女性、母になろうとしている知識分別のある女性に本当に必要な支援なのか?今更?という思いもあるのではないかと思うのです。
 
妊娠という期間、出産という場面、そんなプロセスを踏む中で、女性は、母として赤ちゃんを抱っこする方法、おむつを替えるタイミング、お乳を含ませる工夫など、『ひとつひとつの細かな育児のテクニック・手技』を妊娠中の生活の中で、少しづつ少しづつ、身に付けていくべきことがあるのではないかと思います。

「大切な我が子を守らなくては、育てなければ!」という必死な思い『ルーツ』が、そこに存在し、その主体的生き方を何でもないような妊娠中の日常生活の中で身に付けるタイミングが妊娠期間には必要だと思うのです。
なし崩しのように、単に、支援を提供すればよいのではなく、女性が母になるという過程において、必要な考える時間、情報を選びとる力を身に付けてほしいと思うと「健康観察という支援」の在り方が、これからの母親育てへの大きな課題に思えてきます。 助産師 前田弘子

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