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東洲斎写楽 / メトロポリタン美術館
素敵な「読み違い」
高校教諭の時、50手前の先輩男性教諭に小部屋に呼び出された。
「俺のこと好きなんか?」
ドアを閉めるやいなや、そのおじさまは、頬をてかてかさせながら私に聞いた。
今、なんと……?
業務の話だとばかり思っていた私は、話の展開のあまりの意外性に言葉が出ず、目玉だけが飛び出た。
「男にはな、異性に対してLoveか、好きではないか、二択なんや。
Likeはないんよ。
男の場合はね。……君の俺に対する気持ちは、どれや。」
「(なんの話?!!!)」
豆鉄砲を食ったような顔の私に、男は畳みかける。
「君が望むなら、一緒に夜景を見に行ってあげてもいいけど。」
私は当時、寝る間も惜しんで仕事をしていた。
授業、部活動、特別活動、保護者対応、不登校対応……押し寄せてくる業務の波を泳ぎ切るのに必死で、それ以外を見る余裕などなかった。
そんな私がどうして恋をするのか。
しかも妻子持ちのあなたに。
やがて私の驚きは静かに悲しみに変わっていった。
どうしてこの人は、私の何を見て、自分のことをが好きだと勘違いしてしまったのだろう。
私にどのような落ち度があったのか。
それとも、この人の読解力に問題があるのか。
読解力と言っても、ただ本が読めることを言うのではない。
相手の表情や、声色やしぐさを踏まえて、相手の思いや考えを読み取るのも立派な 「読解」だ。
むしろ、そっちの読解の方が社会に出て大事だと思う。そういう読解力って、どうやって養われるのだろう?