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【3人用声劇台本】星の王女さま

この作品は、声劇用台本として書いたものです。
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もしも、夜空に浮かぶ星が資源になったとしたら。少し素敵だとは思いませんか?
これは、そんな世界のお話です。

【上演時間】
約25分

【配役】
・王女(♀)……わがままな王女様
  ※性別変更不可(演者の性別不問)

・家臣(♂)……家臣。王女様を守りたいと思っている。
  ※性別変更可

・国民(♂)……国民。語り継ぐ人。
 ※老人から青年への転換あります 
 ※性別変更可
  

スペシャルサンクス:是(kore)様 (表紙作成)


【プロローグ】


―夜空の下、薄汚い格好をした老人(男女不問)が立っている。―

国民(老人):あんた、見慣れない顔だねえ。そうかい。最近この国へやって来たんだね。どうだい、この国は?
国民(老人):…星が、きれいで気に入った?そうだろう、そうだろう。何しろこの国は星空がきれいなんで、「星の国」、なんて呼ばれているくらいさ。

国民(老人):ああ、あの真上でひときわ輝いている星が気になるのかい?…そうだね、なら、教えてやろう。今日の私は気分がいいんだ。それに、星が好きなヤツに悪いヤツはいないさ。
国民(老人):ここであの星のことを話すには、この国にいた王女様のことを話さないといけない。

国民(老人):これはまだ、私が若かったころの話さ…


――タイトルコール――

国民(老人でも青年でも可):「星の王女さま」


国民(青年):その昔、この「星の国」に一人の王女様がいた。
国民(青年):王女様は子供の頃から欲しいものは全部与えられてきた。おいしいお菓子、鮮やかな色のドレス、きらきら光るアクセサリー。
国民(青年):そんな環境で育ったもんだから、王女様は自分に手に入れられないものなんてないと考えるようになった。
国民(青年):性格も、可愛げや無邪気さなんてものの度を越えてとてもわがままだった。
国民(青年):お付きの人々もそんな王女様にはうんざりしていて、心から王女様に付き従う人間はいなかった。一人の家臣の男(女)を除いてはね。


王女:うーん、やっぱりこのドレス、もういいわ。捨てちゃって。
王女:え、一回しか着てないのになんで捨てるのですかって?だって、もう飽きちゃったんですもの。こういうドレスを着たい気分じゃないの。
王女:なによ、その不満そうな顔。もう一度そんな顔してみなさい、すぐにクビにしてやるわよ。

家臣:王女様!大発見です!

王女:何を騒いでいるの?今、パーティーに着ていくドレスを選んでて忙しいの。

家臣:こちらをご覧ください。

―家臣、星を出して目の前で見せる。―

王女:まあ、綺麗…!小さくて、きらきら光っているわ…。
王女:これは何?宝石?あ、それとも、お菓子?

家臣:驚かないで聞いて下さいね。「星」ですよ、星。

王女:星?あのお空に輝く星?

家臣:ええ、あの星です。

王女:…私をバカにしているのね?

家臣:いえ!そんなことはありません。

王女:だって、そんなことあるわけないわ。星というのは遠い遠いところにあって、とてもとても大きいものなのでしょう?私だって、それくらい知っているわ。

家臣:私もそう思っていたんですがね、これは確かに星なんですよ。

王女:信じられないわ…。だいたい、これが本当にあのお空に輝く星だとして、どうやって手に入れたのよ。

家臣:ええ、実はこれを手に入れたのは村の漁師なのです。なんでも、明日の漁に備えて夜の浜辺で網を繕っていたそうです。
家臣:するとそこに、星がすぅーっと尾を引いて流れたんです。流れ星ですよ。
家臣:漁師はちょうど繕った網を広げようとバサッと天高く上げたものですから、星が網にかかった、というわけです。

王女:やっぱり、私をバカにしているのね?そんな冗談に付き合っているほど私は暇じゃないの。気が済んだならさっさと下がりなさい。

家臣:いえ、冗談なんかじゃありません。私は冗談を言いません。

王女:…まあ、星なのかそうでないのかなんてどうでもいいわ。綺麗で気に入った、それだけで十分。アクセサリーにでも使えそうじゃない。

家臣:それだけじゃないんです。大発見というのは、ここからなんですよ。

王女:どういうこと?

家臣:これを持って下さい。星を集めたものです。

王女:…温かいわ。

家臣:集めると発熱するようなんです。もちろん、光も放ちます。
家臣:つまり、石炭や油の代わりとなります。いわば、新しい資源ですよ。
家臣:しかも、エネルギーは尽きることなく、永久的に使えるようです。

王女:つまり、これを売れば、この国はもっと豊かになるということ?

家臣:その通りです。

王女:国が豊かになれば、もっとお金が増えて、もっと欲しい物が手に入る?

家臣:もちろんです。

王女:素晴らしいわ!すぐに星を集めなさい!

家臣:はっ!かしこまりました!

【異変】

国民(青年):それから、王女様は星を集めだした。そして、それを外国に売りさばいた。
国民(青年):その資源の正体が星であることや、その資源をどうやって採取しているのか、その方法は秘密にしてね。
国民(青年):なんでって、そりゃあ新しく発見された資源だからね、独占したかったんだろうさ。

国民(青年):このことは私たち国民にさえ公表されず、秘密裏に行われた。
国民(青年):けれど、お触れでやたら網を献上させて、夜中に何かやっているらしいってことは国民たちにも分かる。
国民(青年):それに、急に王宮とその周辺の上流階級だけが、目に見えて豊かになっていったんだ。誰だって不信感、不安感を覚えたさ。
国民(青年):その国民の心情を表すかのように、この国の自慢だった夜空には星が見えなくなっていった。
国民(青年):豊かになっていくにしたがって星の国には寂しさが溢れていったんだ。

王女:何で星がもうとれないのよ…!もう夜空にはほとんど星がない?そんなこと知らないわよ!全っ然足りないわ。もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっともっとっ…!!

家臣:(遮るように)王女様!大発見です!

王女:大発見なんてどうでもいいわ。早く星を用意しなさい!

家臣:その星のことで大発見なんです。

王女:…なんですって?

家臣:つい先日、町で老婦人がなくなったんです。それを看取っていた男が、老婦人の息を引き取る瞬間、ふと空を見上げたんです。
家臣:するとその時、急に星空に星が輝きだしたそうなんです。これと同様の現象がいくつも報告されています。
家臣:これはあくまで推測ですが、おそらく星の正体は、人の魂なんですよ。

家臣:よく、「あの人は死んでお星さまになった」なんて言うでしょう?あれは単なる比喩ではなかったんですよ。
家臣:体から抜けた魂は、きっと空に昇って、本当に星となるのです。

王女:つまり…人が死ねば、もっと星が手に入るってこと?

家臣:ええ、そういうことになります…。私たちは、これまでに星となった人間たちの魂に感謝して、この資源を使うべきなのでしょうね。

王女:信じられない…

家臣:王女様…

王女:と言いたいけれど、理屈は何でもいいわ。
王女:星を手に入れるためなら、この国を豊かにするためなら、何だって信じますとも。何だってやってやるわ!私はこの国の王女ですもの!

王女:あはははははは…!(狂った笑い声を上げて、フェードアウト)

家臣:王女…様?お待ち下さい、王女様!

【クーデター】

国民(青年):それからは地獄のようだった。
国民(青年):王女は罪の重さに関わらず、罪人をことごとく処刑した。罪人がいなくなれば、罪もない国民をありもしない罪にかけて処刑した…。
国民(青年):私の母親も、それで捕まった。
国民(青年):おまけに、外国が星を求めてこの国に攻めてきた。その争いで、皮肉にも星の資源がいくつもできたわけだ。
国民(青年):私の父親も兵士として戦って、星となった。

国民(青年):私たち国民はついにクーデターを起こした。それしか、あのイカれた状況を変える方法がなかったんだ。
国民(青年):私たちは王宮に攻め入ろうとしたけど、そのことは王宮に筒抜けで、私たちはあっけなく捕まった。

国民(青年):主犯格である私は王女様の前に引きずり出された。王女様と会ったのは、それが最初で、最後だった。


家臣:王女様、こいつがクーデターの主犯格です。

国民(青年):おい、離せ!

家臣:うるさい、暴れるんじゃない!(国民を殴る)

王女:残念だったわね、命がけのクーデターが失敗しちゃって。そこまでして国にさからう理由が、私には分からないけど。

国民(青年):あんた、それ、本気で言ってるのか…?

家臣:おい、王女様をあんたなどと…

王女:いいわ。どうせ処刑されるんですもの。最後の訴えくらい、聞いてあげるわ。

国民(青年):そうかい。なら、はっきり言ってやるよ。
国民(青年):国民は、今のあんたらのやり方に不満しかない!何を企んでいるのか知らないが、人を平然と殺すなんてことが許されるわけない!

王女:あなたには分からないでしょうね。これは国のためでもあるのよ。知ったふうな口を聞かないでちょうだい!

国民(青年):(被せるように)分かってないのはあんたの方だっ!

王女:っ!?

国民(青年):あんたは王宮から出ないからそんなことが言えるんだ。
国民(青年):そこの家臣に聞くといい。
国民(青年):捕まることに国民がどれだけおびえているか。
国民(青年):外国との戦争でどれだけ傷ついているか。
国民(青年):どれだけ、夜空に星が見えなくなったか…。

家臣:それは…

国民(青年):あんたも分かってるんだろう?罪人だ罪人だと国民をひっ捕まえてるが、お前らが一番の罪人じゃないか!

国民(青年):返せっ!私の母さんを、父さんを、返しやがれ!

王女:…聞くだけのことは聞いたわ。つれていきなさい。

家臣:…承知しました。

国民(青年):おい、まだ話は終わってない!おい、待て!

王女:さよなら。せめてきれいな星になってね。

【幸せ】

国民(青年):私は牢獄の中に閉じ込められた。処刑は明日実行されるとのことだった。
国民(青年):牢獄の中から、私は一人で夜空を見上げていた。星がほとんどなくなってしまった夜空を。

国民(青年):はあ…見納めだってのに、最後に見るのがこんな寂しい星空だなんて、やっぱやりきれないなあ…

家臣:おい、いるか。

国民(青年):うわあ、びっくりした!

家臣:しっ、大きな声を出すな。王女様にでも見つかったらまずい。

国民(青年):…なんの用だ。処刑される私をあざ笑いにきたのか?

家臣:いや、そうじゃない。…お前に、聞きたいことがあるんだ。

国民(青年):聞きたいこと?

家臣:ああ、そうだ。…誰かが犠牲になって、それで自分が豊かになるとして、お前は、幸せだと思うか?

国民(青年):なぜそんなことを聞くのか分からないが…私は幸せだとは思わない。

家臣:なぜだ?

国民(青年):幸せってのは、一人で感じるもんじゃない。相手がいてはじめて感じるもんだ。

国民(青年):母さんも父さんもいないのに、私だけ幸せになんてなれない。
国民(青年):あんたも幸せなときを思い浮かべるといい。きっとそこに
は、誰かが横にいただろう?そういうことだ。

家臣:…そうか、よく分かった。…っふふ。

国民(青年):何だよ。何がおかしい?

家臣:いや、そんな当たり前のことに、私は気付かなかったのかと思うと、おかしくてな。

家臣:……だが、私はお前とは少し違う。
家臣:私は誰かを幸せにするためなら、そして愛するあの方を救うためなら、ともに犠牲になることをいとわないんだよ。

国民(青年):お前、何を言ってるんだ…?

家臣:いずれお前にも分かるさ。…そうだな、とりあえずこれを渡しておこう。

国民(青年):これって…

家臣:牢獄の鍵だ。これから王宮で騒ぎが起こる。そのどさくさにまぎれて、逃げ出すといい。

家臣:あと、これも受け取ってくれないか。

国民(青年):その、ノートは?

家臣:この国が隠している、新しい資源について書いたものだ。すべては、この資源のために狂ってしまったんだ。
家臣:これを、お前に授(さず)けたい。そして、これから起こる悲劇を、伝えて欲しい。じゃあな。

国民(青年):お、おい…


国民(青年):その言葉の意味が分かったのは、数時間後だった。


王女:見て、こんなにたくさんの星が集まったわ。
王女:王宮のイルミネーションに使って、
王女:アクセサリーやドレスを作って、
王女:外国にたっくさん売って、
王女:私は楽しく幸せに暮らすのよ!


家臣:王女様、さすがにやりすぎなのでは……

王女:何?あなたまで私に指図するつもり?
王女:私はね、これでも一生懸命やってるのよ。ずっと見てきたあなたななら分かるでしょう?

家臣:それは、もちろん…

王女:他になれる人がいないからって、まだ何も分からないのに王女にさせられて、それで何も出来なくて…
王女:「あの王女はダメだ」って陰口を言われていることだって知っているわ。
王女:そんな私にできることなんて、星を集めることくらいしかない。

王女:それが私の幸せになって、国民の幸せになって、あなたの幸せになるって信じるしかないのよ。

家臣:王女様…

王女:だから、私はもう決めたの。
王女:例えどれだけ犠牲にしても、とことん星を集めるって。それで皆で幸せになるって。
王女:そんな幸せを望むことが、間違っているって言うの?
王女:……逆らうなら、いくらあなたでも処刑するわよ。

家臣:…王女様、大発見があるんです。

王女:…なによ?

家臣:星のエネルギーについてなのですが、この世界に大きな影響を残した人間ほど、そのエネルギーは大きくなることが分かりました。

王女:どういうこと?

家臣:例えば、政治家や学者など、良くも悪くも大きな功績を残した人間ほど、大きなエネルギーを持つ星になるのです。
家臣:……国の王女とその家臣なら、とてつもないエネルギーを得られるとは思いませんか?

王女:あなた、なに冗談を言っているの?わけが分からないわ。

家臣:私は冗談を言いません。
家臣:…王女様、もう終わりです。せめて、私の手で…、ゆっくり休んで下さい…

―家臣、王女の首を締める。―

王女:うっ!首がっ…苦しい…っ!うっ…ううっ…!

家臣:国民を救うためですっ。そして、あなたを救うためですっ……。
家臣:私はあなたを愛している!
家臣:……だからこそ、ともに犠牲になりましょう。

王女:あなた、なら…分かって…くれるとっ…おもっ…た…の…に…

―王女、ぐったりと息絶える。―

家臣:お許しください…。
家臣:あなたの死は無駄にはなりません。きっと、王女であるあなたの魂は、誰よりも大きなエネルギーを持つ星となりましょう…。
家臣:それに、王女様一人にはしません。私もそばに行きますよ。安心してください。

【夜空】

国民(老人):こうして、この星の国は平和を取り戻したのさ。
国民(老人):国民たちは、二度とこの悲劇が起きないようにと考え、星という資源の正体は外国へ知られることはなかった。
国民(老人):やがて時が立った今では、星の国の国民でもこの事実を知るものはほとんどどいない。やがては忘れ去られるんだろうねえ。
国民(老人):その頃には、寂しかった夜空に、たくさんの星が輝いていることだろう。

国民(老人):…信じられないって顔してるね。
国民(老人):なあに、それならそれでかまわない。

国民(老人):だがね、あんたは確かにあの大きな光を放つ星と、その隣に寄り添う小さな星を見たんだ。
国民(老人):その光景を、その輝きを、どうか忘れないで欲しい…。

国民(老人):何でこんなことを話す気になったかって?そりゃあ、きれいな星空が広がっているからさ…


――終――

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