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【1人用声劇台本】忘れ物

この作品は、声劇用に執筆したものです。
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名前には運命を変える大きな力がある。
これは、名前を変えた男の話。

【上演時間】
約5分

【配役】
・名無し(♂)……名前を変えてあげる仕事をしている男。
 ※性別変更可
 ※人称、口調変更可


名無し:「おや、こんばんは。」
名無し:「ここはどこかって? どこだっていいじゃないですか。」
名無し:「私の名前? 私には名前はありません。いえ、正確に言うならば、忘れてしまったんですよ。どこかに忘れてきてしまったようです。まあ、ご自由にお好きな名前で呼んでください。」
名無し:「私ばかり質問されるのはフェアじゃありませんよね。私からも質問させていただきますよ。」

名無し:「あなたの名前は? ……ほう、素敵な名前だ。」
名無し:「おや、どうしました? 不服そうですね。ご自分の名前がお嫌いなのですか?」 
名無し:「……なるほど。名前と自分の性格が合っていないせいで酷い目に遭った、と。」 

名無し:「では変えてみますか、名前。」
名無し:「名前というのは侮れないものですよ。名前によってあなたはあなたになる。名前によって運命が決まることもあるかもしれません。」
名無し:「実は私、名前をつけるのは得意でして。その方に最も適した名前を見繕うことができます。あなたが望むのであれば、新しい名前を授けましょう。」

名無し:「……信じていないようですね。では、試しにこんな名前はどうですか? ……よかった、気に入っていただけたようですね。」
名無し:「では、あなたの今の名前は、私がいただきましょう。この紙に今の名前を書いてください。」
名無し:「はい、では、それをいただきます。……うん、おいしいです。こんなおいしいものを捨てるなんてもったいない。ごちそうさまです。」

名無し:「では、こちらの新しい名前を書いた紙を食べてください。大丈
夫ですよ、ちゃんと消化されますから。……はい、これで終わりです。」
名無し:「今あなたは新しく生まれ変わろうとしています。新しい人生をどうぞ心ゆくまで楽しんでくださいね。」




名無し:「こんばんは。またお会いしましたね。新しい名前はどうですか?」
名無し:「……ほう、名前を変えてからというもの、すべてが上手くいったと。気に入っていただけたようで何よりです。」
名無し:「……もっと自分にあった名前はないのか、ですって? ……そうですね、なら、こんな名前はどうです?」
名無し:「ふむ、いいでしょう。あなたは私に名前をくれた恩人です。この名前に変えて差し上げましょう。」
名無し:「では、この紙を食べてください。……はい、それで結構です。」
名無し:「では、改めて、良い人生を。」
  



名無し:「どうも。そろそろ来る頃ではないかと思っていましたよ。」
名無し:「また名前の変更ですか? もう数え切れないほど、名前は与えてきたはずです、らあまり何度も名前を変えるのはおすすめしませんよ?」
名無し:「……何もかも、上手くいかない、ねえ。いくら名前が運命を変えることがあると言っても限度というものがあります。あまり高い理想を持ち過ぎない方が……はいはい、分かりましたよ。」
名無し:「では、これで最後ですよ。 ……この名前を、あなたに授けましょう。どうぞ、食べて、自分のものにしてください。」
名無し:「では、悔いのない人生を送れますように。」




名無し:「おや、どうしたんですか、そんなに慌てて。……ご両親が亡くなったのですか。それは御愁傷様です。」
名無し:「……やっぱり最初の名前に戻してくれ?」

名無し:「……出来るわけねーだろバーカ。」
名無し:「いい加減にしろよ、このバカが。言ったよな、名前を変えるのはあれで最後だって。」
名無し:「名前ってのは、運命を変えちまうほど、そいつ自身に影響を与えるもんだ。そんなものを手軽に何度も何度も変えていたら、お前自身の存在が不確かで薄いものになっていく。」
名無し:「くくっ……お前、もうぺらっぺらだぜ?」
名無し:「上手くいかないことをすべて名前のせいにするようなやつに、これ以上やれる名前はねーんだよ。」

名無し:「それにな、俺の中にはたくさんの名前がある。どれがお前のかなんて、覚えてねーよ。」
名無し:「ほら、ここにある紙全部に名前を書いてある。分かるなら探し出してみろよ。」
名無し:「……ほら、もうどれが本当の自分の名だったかも分からねえだろ。」
名無し:「このままお前の頭の中からも、俺の頭の中からも忘れられていく。お前の名前はな。」
名無し:「なあ、忘れ物なんて、するもんじゃねーな。」

【終】


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