たこ焼きパーティー

7月上旬だっただろうか。
面談をしてくれていた、グループホームの社長が言った。
「またたこ焼きパーティーしたいですね。
Kさんの予定を聞いてみてください」
Kさん、とは、わたしのグループホームの相部屋さんだ。
「ありがとうございます!
Kさんの都合聞いときます!」
そう言って、翌日わたしはそのことをKさんに告げた。
そして、Kさんとふたりで、たこ焼きパーティーを楽しみにしていた。

たこ焼きパーティーは、去年の7月にも開催されていた。
楽しい楽しいたこ焼きパーティー。
嬉し恥ずかしたこ焼きパーティー。
そのときの写真は、今もスマホに大切に取って置いている。

7月9日、わたしがコロナ陽性の診断を受け、しばらく隔離されることになったとき、少し心配していた。
「たこ焼きパーティーの予定は流れてしまうかも。
社長もたこ焼きパーティーのことを忘れてしまうかも」
杞憂だった。
7月19日の誕生日、わたしとKさんにケーキを買ってきてくれた社長は言った。
「たこ焼きパーティーしてませんでしたね。
27日はどうですか?」
ふたりは狂喜した。
レクだ!
イベントだ!
たこ焼きパーティーだ!
そして、その日はやってきた。

たこ焼き粉、天かす、たこがテーブルに並べられた。
包丁を渡され、たこを切った。
去年はたこを小さく切りすぎて、たこの歯ごたえがなかった。
今年はちょい大きめにたこを切った。
社長はたまごを買い忘れてきたらしく、わたしがたまごをひとつ冷蔵庫から出した。
たこ焼き粉にたまごと水を入れ、かき混ぜた。
天かすも入れ、タネの準備ができたと同時に社長がたこ焼き器のスイッチを入れ、油を引いた。

油がジュワジュワ音を立てる。
社長がお玉でタネをたこ焼き器に流す。
たこ焼きの周りが、少しずつ固まってくる。
「ひっくり返していいですか?」
「いや、もうちょっとですね」
少し待つ。
「もうひっくり返していいですか?」
「そうですね!いいでしょう!」
みんなで一勢につまようじでたこ焼きをひっくり返していく。
「あれっ?これまだかな?」
「あっ!こっちはいいみたいです!」
つまようじ片手に、3人とも張り切ってたこ焼きをつついている。

熱々をフーフーして頬張る。 
「美味しいです!」
とわたしが言う。
社長が言う。
「うん!ちゃんとたこ焼きの味がする!」
そして、みんなでたこ焼きを次々に頬張りながら、いろんな話をした。
社長の36歳の誕生日が近いこと、わたしの禁煙失敗談、Kさんがガラケーからスマホに変えようと思っていること。
たこ焼き器を囲んでのそれらの話題は、きっといつもより何割増しかで楽しい話題に感じられた。

たこ焼きパーティーの最後に、社長がたこ焼き器にチョコレートを割り入れた。
去年もチョコレート入りのたこ焼きを食べて、美味しいということは実証済みだ。
今年はなんの不安もなく、チョコたこ焼きを口に入れた。
「チョコレートって、なんにでも合いますよね。
やったことないですけど、チョコレートって、ごはんにかけても美味しいと思うんですよ。」
社長の言葉にちょっと引いた。
ややこわばった表情で、肯定も否定もせずにその言葉を受け流し、残りのたこ焼きを食べ尽くした。

社長がメインになり、手分けして後片付けをした。
「たこ焼き粉あと半分残ってます。
またやりましょう!」
社長の言葉が嬉しかった。
使ったものを事務所に運び、自室に向かう階段を上りながらウキウキした。
次回のたこ焼きパーティーはいつだろう。
今度はまた、記念写真を撮ってもらおう。
楽しい楽しいたこ焼きパーティー。
嬉し恥ずかしたこ焼きパーティー。
次回がほんとうに楽しみだ。

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