何でも話さんと気が済まんか
父は昭和4年生まれだ。
県境にあるМ村の、地主の家に生まれた長男だ。
父にとって、家はとても大切だ。
世間体も、とても大切だ。
父はわたしに言う。
「何でも話さんと気が済まんか」
わたしは、精神病院に黙っているべきなのだろう。
幼少期の実家の様子を。
母が頭のおかしい人だったことを。
小2でいじめっ子にお風呂場に連れ込まれ、いたずらされていたことを。
26歳で強姦未遂の被害に遭ったことを。
両親に都合が悪い事実は、なにもかも黙っているべきなのだろう。
けれどわたしは不肖の娘だ。
恐ろしく出来が悪い娘だ。
精神病院に、なにもかも話すつもりだ。
わたしは父のお人形さんではない。
わたしはひとりの人間だ。
ひとりの、人格を持った人間だ。
治療を受ける権利がある。
もう、今までのように言いなりにはならない。
強く生きていこうと思う。