B型作業所体験

ここ数ヶ月、自立支援事業所に通所していた。
自立支援事業所、というのは、引きこもりで外に出られないなどの事情を抱えた人たちが日中活動を持つ場だ。
(その割には、利用者さんたちのレベルは高かった) 
今回、その自立支援事業所を卒業し、またB型作業所に通所することになった。

その作業所は、わたしが生まれた町のすぐそばの商店街の中にある。
ジモティーだからよく知っている、と思っていたその商店街は、わたしが知っていたあの頃の商店街ではなかった。
見学のとき、まず商店街の入口がわからなかった。
30年の歳月は確かに過ぎていた。
先週木曜日、戸惑いを感じながらその商店街を歩き、作業所のドアをノックした。

1階はオシャレで小綺麗なカフェ、2階が作業場だ。
小部屋に通され、施設長(たぶん)、責任者(たぶん)らしき人たちに名刺を渡された。
「ものづくりをされるんですか?」 
と尋ねられ、とっさに
「いえ、わたしほんとになんにもできないんですよ」
と答えた。
たまたまその日は禁煙に失敗したばかりで自己評価が下がっていた。
付き添いの、相談支援事業所の担当さんが、
「できますよ」
と言って、わたしが作ったものの写真を職員さんたちに見せた。
職員さんたちの反応は
「ふーん」
といった感じのものだった。

作業所のパンフレットが渡された。
コーヒー豆の仕分けの作業以外にも、いろんなジャンルのハンドメイドの作業などをやっているらしい。
ミシンを使った小物作りもあれば、羊毛フェルトもある。
その他知らない作業もいくつもある。
テディベアなど、ドイツから取り寄せた布地で作り、一万円以上の価格で売っているそうだ。
テディベア作りたいな、と思い、そう言ってみると
「まずはぬいぐるみからですね」
と、サラッとかわされた。
(テディベアは、2年かけて身に着けた技術で3ヶ月ほどかけて作成すると聞いている)
作業所体験をお願いすると、30日火曜日なら大丈夫だと言われ、夢と希望に胸をときめかせながらグループホームに帰ってきた。

火曜日の朝は8時ちょっとまで眠っていた。
ここのところまた、朝から起きられない。
体験では、羊毛フェルトをやらせてもらうことになっていた。
力試しだ、行かねば、と思い、仕度をしてバスに乗った。

施設長(たぶん)は言った。
「今日は組み紐をやってもらいます」
あれ?羊毛フェルトじゃないの?
組み紐って誰でもできるんじゃないの?
わたしのことナメてるの?
さまざまな思いが駆け巡った。
ところが、江戸組み紐というのは、とんでもなく難しい作業だった。

失敗に失敗を繰り返した。
けれどわたしはくじけなかった。
丁寧に何度もコツを教えてくれる施設長(たぶん)の言うことを、そのたび素直に実践した。
施設長(たぶん)は言った。
「早い。
組み紐に向いている」
嬉しかった。
誇らしかった。
そして、今週水曜日、金曜日(今日)と作業所体験を重ね、わたしは一本の江戸組み紐を完成させた。

今日帰るとき、施設長(たぶん)は、またわたしの組み紐を褒めてくれた。
「初めてで、あんなにできる人はいない。
今日体験に来た、別の人にも組み紐をやってもらった。
まあまあ上手いほうだったけど、とりこさんの足元にも及ばない」
天にも登る心地だった。
江戸組み紐命!これからは組み紐で行こう!
そう思った。
そして今日の作業所体験から帰ってきて、相談支援事業所の担当さんに電話をかけ、
「通所を決定してください。
手続きをおねがいします」
と言った。

頑張れば、一般就労もできるのかも知れない。
過去にそう言ってくれた人たちもいる。
けれどわたしはもう50歳。
あまり無理をしたくない。
好きなことを、楽しんでいきたい。
だから、自分に向いている作業のB型作業所でいい。
そんな人生にも、きっと喜びはあるだろう。
わたしは、そう思っている。



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