食品メーカー研究職が紅麹の件で感じたこと

3月末から4月初めは例年なら閑散期なのだが、、、

大阪の食品メーカーで研究職として働いて8年目、4月から係長職を拝命した。
今までやったことない難しい仕事で忙しくなるのかなあとか、部下の育成で悩んだりするのかなあとか、ぼんやり思いを巡らせていたが、今はそんな想像とは少し違う方向に業務の時間が割かれている。
「◯◯スーパーのバイヤーさんから、(某機能性食品メーカー)製の紅麹原料が使われていないか今週中に調べるように言われていますが、いけますか?納品してる全商品です!」「貴社の△△という商品、着色料に紅麹が含まれてるじゃないですか!(某機能性食品メーカー)製じゃないと言われても、、、、不安で食べられないので、返金してもらえませんかねえ?」

3/25週あたりは、わからないことを調べるために、色んな会社が色んな会社に「紅麹入ってますか!?!?!?まさか某社のじゃないですよね!?!?!?」みたいな問い合わせをしまくって、お互いパンクしまくっていた。
今は各社対応のテンプレートができあがってきて、少し落ち着いた印象だ。

紅麹という言葉が一人歩きしてしまっている印象だ。一般の方にはわかりにくいところかもしれないが、食品用の紅麹自体が体に毒なわけではない。今回騒動になっているメーカーの製品の一部の紅麹原料でたまたま(??)毒性が見られた、というのが今の概ねの見解だ。
風評被害というのは本当にあるもので、紅麹が原材料表示に現れている物はもちろんのこと、明太子など、特に関係のない赤い物(紅麹は、食品で赤色の着色に使われているケースが多い)まで売り上げが減っているらしい。
僕の会社も、某社とは一切関係がない紅麹を使った商品を複数取り扱っているのだが、かなりの痛手だと思う。

原因物質として「プベルル酸」という物質が挙げられはじめているがまだはっきりしたことはわかっていない様子だ。紅麹が悪いというより、意図しない物質が入ってしまった、という感じのようだ。
僕自身カビ系のことに関しては全くの素人なので、今回の文章で某社の対応がどうとか、品質管理がどうとか語るつもりは無い。
ただ、同じ、人様の口に入る物を仕事で扱っている者として、改めて感じること、思い知らされることが多かったので紹介しようと思い、久々にnoteを開いた。

余談だが、僕が社会人1年目から3年目の期間、上司であったとても大切な方が某社に転職して勤務している。本件とは全く関係ない部署のようだが、全社的に厳しい状況になることは間違い無さそうだ。
転職して5年になるが、未だに僕と一緒に飲んでくれる大切な方だ。行く末があまり暗いものでないことを祈っている。

口に入る物で、本当の意味で安全な食べ物は実はそんなにない

あってはならないことが起きたのは事実だ。しかし食品メーカーにいるからわかるが、残念なことに企業である以上、納期というものがあり、スピードを意識しないといけないシーンが少なからずある。それに、理系に長いこといるからわかるが、研究データなんて「ほんまか、、、?」みたいなものがなんぼでもある。

僕の会社で作っているものは幸い(??)人体に有害になるリスクは著しく低い食品だが、「AとBで50人で食べ比べて、一応Aが勝ったからAの配合で発売するけど、ほんまによかったんか、、、?」みたいなことはザラにある。
今後数千人、数万人に食べてもらう商品を作っているのに、同時に検査にかけれるのは多くても100人そこそことかだ。そこで結論を出さなければいけない。

市場に流してみて、実際に製品として製造してみて、そこから判明することがなきにしもあらずってことだ。

「そんなん言われましたら、加工食品なんて食べませんわ!生鮮食品だけを食べる!!」ってなると思うのだが、生鮮食品だから必ず安全なわけではない。
生鮮食品はとにかく賞味期限が短い。傷んだ魚や野菜を食べてお腹を壊すケースもあるわけだから、そういう意味では生鮮食品だから絶対に安全!というわけではないだろう。賞味期限が切れた卵で当たったとかもよくある話だ。
肉なら狂牛病が話題になったりする。
また、生鮮食品だけで1週間食事を回すのは結構大変だ。冷蔵庫がパンパンになってしまうし、味も単調になりやすい。

せやったら、どないしたらええねんと、、、
僕なりに以下の提言をしたい。

同じものを多量に、あるいは繰り返し摂取するのを避ける

水は人体に必ず必要なものだ。1日に2リットルとか3リットル飲むのがいいらしい。僕も結構水分を摂る方だ。

さて、「水は毒ですか?」と聞かれたらあなたはどう答えるだろうか?恐らくNOと答えるだろう。
しかし、人間が水を1日に100リットル、毎日摂取したらどうなるだろうか。恐らく水中毒で命を落としてしまう。

絶対に必要なものでも多量に摂取すると人体には毒になってしまう。

逆にちょっとした毒素を少量なら、ちょっとお腹が下るだけとかちょっと熱が出るだけで、数日したら意外と体は持ち直す。人体にはある程度解毒機能が備わっているのだ。

今回の騒動で、入院や死亡が確認されている人の多くは、数ヶ月以上継続して当該のサプリを摂取していたようだ。
また、高齢の方の発症がほとんどだったらしい。(高齢の方の方が体調に気を使ってサプリを飲むケースが多かったから症例も多いのか、高齢の方の方が発症しやすいのかは微妙だ)

僕としては、解毒機能が弱まった高齢の方が、今回の騒動の原因物質を長い間少しずつ摂取してしまった結果、今回の痛ましい事故に発展してしまったと睨んでいる。

僕としては同じものを継続して摂取し続けるのをあまりおすすめしない。これはサプリでも一般食品でも同じだ。
もし、サプリを飲みたいなら、ロングセラーのサプリが良い。市場に流して、膨大な人々に摂取され、それでも大きなトラブルも起きていないことが確認できているからだ。

言うは易し、行うは難しなのだが、サプリを摂るより、「1汁3菜」や、小中学生の時に習った「赤の食べ物」「黄色の食べ物」「緑の食べ物」を意識し、とにもかくにもバランス良い食事を意識することが重要だと思う。色々な栄養成分を少しずつ摂るのだ。
サプリは濃度が濃すぎるものが一定数ある。
「今日はあまり野菜を食べれなかったなあ」という日にマルチビタミンのサプリを飲む、程度に留めたい。

一般の方は「入っているか、入っていないか」が判断材料になりやすいイメージだが、僕としては「過剰か、過剰でないか」が大事な気がしている。

「この成分は体にいい」「悪い」は情報としてインパクトがあるのでメディア受けが良い。「少量ずつ、バランス良く摂りましょう!」みたいなのは何だかめんどくさそうだしつまらない。しかし、本当は後者の方が大事なんだろうなあ、と感じた次第だ。

最後に

宝酒造は3月23日、日本酒の「松竹梅白壁蔵『澪』PREMIUM<ROSE>」約9万6千本を自主回収すると発表した。某社の紅麹を原料として使用しており、某社の自主回収に倣った形だ。
宝酒造は自社商品での健康被害は(僕が調べた限り、4/6時点で)確認されていないとのこと。
簡単に回収、といってしまいがちだが、当然回収にも大変なコストがかかるし、原材料費は無駄になってしまうし、売り上げは下がる。(某社の保険がどれくらい効くかは今後の議論だろう。)そんな中、消費者に心配を与えないよう、迅速かつ優れた判断をした。
感服いたした。

この『澪』での紅麹の配合率はよくわからないが、症状が出る人の大多数が、サプリを継続摂取していたひとに集中していることを考えると、おそらくこれを飲んだとて、腎臓疾患に繋がる可能性は著しくゼロに近いのではないだろうか。

例に出して恐縮なのだが、多分、腎臓疾患が出るレベルで摂取し続ければ、先にアルコールによる肝臓疾患に繋がるのではないだろうか。

心配しなくても、この世には既に合法で体に悪いものがたくさんあり、皆、日々摂取している。
塩だって砂糖だって摂りすぎたら体に良くない。
なにかを過剰に摂取した人は体の不調が起きやすく、バランス良く摂取している人はたとえちょっとした毒素があっても解毒できているだけなのではないか、と思っている。

先ほど申し上げた通り、各社とも紅麹原料の問い合わせのテンプレートは概ね完成しつつあるので、紅麹と書いてある商品について、気になるようならお客様相談窓口等に問い合わせてみてもいいと思う。それで不安なく食事ができるならそれが1番だ。
ただ、個人的にはそれより気にかけた方がいいことがあるかもな?と思ったりする。

僕もアルコールとカフェインは摂りすぎな気がして8年ほど経つ。
結構ちゃんと依存症だなあ、、、


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