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流れ星の向こう 11話

「正気で言っているのか、リナ?」
 レポルトは信じられないという目で、ヴィクター__リナを見た。
「もちろん」
 レポルトはため息をついた。
「そんなことを言うために、髪を切って、ヴィクターの服まで着て、こんな危険な真似をしたのか」
 レポルトの口調はいつになく荒く、本気で怒っているようだった。しかし、リナはそんなことなど意に介さず、自分の話を続けた。
「あなたがシスターをやっている理由を、私なりに考えてみたの。男であるあなたがシスターをやる理由、それは、マザーにあるのでしょう?」
 レポルトは言葉を失った。リナはそれを肯定と判断し、続けた。
「この孤児院には新しい規律が二つあった。脱出の禁止と恋愛禁止。私はこの二つの規律ができた経緯を調べた。一つ目はある少女の失踪。二つ目は妊娠騒動。詳しく調べると、その二つの事件はほとんど同じ時期に起きていたことがわかった。そして、その時期と出生時が重なるのが、レポルト、あなただった」
 レポルトは観念したというように、続きを話し始めた。
「ああ、そうだよ。俺はその妊娠事件で生まれた。そして、失踪したのがマザーの娘だった。俺はマザーの娘の替え玉なんだ」
 レポルトは力無く笑った。
「マザーは娘の失踪で心を病んでしまった。しかし、俺を娘のように育てることで、徐々に正常な状態に戻ってきた。マザーは俺に愛を注いでくれた。俺の親は例の事件で追放されてしまっていた。だから、それがたとえ俺に向けられたものでなくても、嬉しかったんだ」
「だから、私の脱走事件を止めたのね」
 リナの言葉にレポルトは頷いた。
「だから、リナ、悪いけど、俺はマザーを置いては…」
 「いけない」と言おうとしたレポルトの言葉をリナが遮った。
「それが、マザーの娘を探す旅でも?」
 レポルトはハッと息を呑んだ。
「私のここに預けられた日が、丁度、マザーの娘が失踪して、十ヶ月くらいだったの。もしかしたら、私はマザーの孫かもしれない。そうだとしたら、マザーの娘はそんなに遠くまで行っていないはずよ」
 リナはレポルトの目をまっすぐ見た。
「あなたがマザーの娘のふりをすることが、本当にマザーのためになることなの?」
 レポルトは首を振った。
「私たちはこの修道院の中で、何も知らないままでいていいの?」
 レポルトはまた首を横に振った。
「何も知らなければ、本当に誰かを救うことも、本当は何が大切なのかも、何もわからないままになってしまわない?」
 レポルトは深く頷き、言った。
「そう、思う」


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