After Crisis

黒マテリアに導かれ宇宙より飛来したメテオと、白マテリアによって発動した古代魔法ホーリーが魔晄都市ミッドガル上空で衝突し、ひとつの時代が終わりを迎える。

星の深部を漾うライフストリームを原料とする魔晄エネルギーは文明の近代化に寄与した一方で地域の文化や住民たちの絆を破壊し、グローバル企業S電気動力株式会社はミッドガルの中心にあった本社ビル倒壊とともに凋落の一途を辿った。

ジェノバ戦役と呼ばれたその闘いでは多くの尊い生命が奪われ、多くの人が心に深い傷を負った。それは、ジェノバ戦役を終わらせた8人の戦士たちも例外ではなかった。


廃墟となったミッドガル近くに、廃材をかき集めて作られた“エッジ”という集落がある。

当初はバラック小屋がひしめき、慢性的な食料不足で闇市が次々と立つ、非常に治安の悪い地域であった。

しかしジェノバ戦役の英雄と呼ばれるクラウド・ストライフとティファ・ロックハート、バレット・ウォーレスの3人が治安回復に尽力し、
クラウドたちの仲間でありS電気動力株式会社旧幹部唯一の良心であったリーブ・トゥエスティによって立ち上げられた世界再生機構(WRO)が秩序の維持と市場の健全化、対ギルのハイパーインフレ対策に乗り出したことで、漸く戦後の混乱は沈静化していった。

エッジの復興は目まぐるしく、荒れ野に作られた避難民キャンプはすぐに区画整理された仮設住宅に代わり、間もなくライフラインも整備され、一時的な避難場所から新興の街へと姿を変えていく。

それまでは目の前にあることを必死でこなしていたクラウドとティファとバレットも、ここにきて今後のことを考えるようになった。生き残った者としてどう生きるか。そして、失われた生命への贖罪について。

8人のジェノバ戦役の英雄のうち、バーテンのティファはクラウドの勧めでミッドガル七番街スラムにあった酒場セブンスヘブンをエッジに再建し、人々を笑顔にすることを目標に据えた。隻腕のバレットはポスト魔晄エネルギーの時代を生きる人々のために、新しいエネルギー開発に携わることを償いに選んだ。

飛空艇乗りのシド・ハイウィンドと忍びの末裔ユフィ・キサラギはリーブの掲げる理念に賛同し、WROに加わった。長命な獣レッドXIIIは老師亡きあとのコスモキャニオンに戻り、故郷の再興に励んでいる。そして不老のヴィンセント・ヴァレンタインは、放浪の旅に出たまま行方不明となっていた。

みな深く傷つき、強い罪の意識を抱えている。誰一人として、9人目の英雄であるエアリス・ゲインズブールのことを忘れたことはなかった。彼女の形見であるピンクのリボンを分け合い、あの闘いで亡くなった天真爛漫な女性を偲んでいた。


比較的温暖な気候であるエッジに、冷たい風が吹き荒んだ秋の夜。クラウドはセブンスヘブンの居住スペースにあるベランダに出て、何やら物思いに耽っていた。

「クラウド、まだ寝ないの?」
「……いや、うん」

家族であるティファが声をかけるが、振り返った彼の返事は肯定とも否定とも言えない、ひどく曖昧なものだった。クラウドはもう少し夜風に当たっていたい気分だが、ティファに心配をかけたいわけではない。

「ティファは先に、寝ていてくれ。」

彼とティファの寝室は一応別であるが、クラウドは彼女の部屋で寝ることもよくあった。それは添い寝だけの日もあるが、熱い肌を重ね合わせることも当然ある。

身も心も冷え込む今宵、ティファは彼と一緒にいたかった。しかしそんな想いを言葉にできない彼女は、少し悩んでからベランダに出た。

「風が……冷たいね。」

風呂上がりで薄着だったティファには、晩秋の夜気はことさら冷たく感じる。何か言いそうな顔で彼女を見ていたクラウドだったが、ティファが剥き出しの腕を両手で摩り始めると、露骨に顔を顰めた。彼はただ心配しているだけなのだが、側からみると怒っているかのようにも見える。

「……ティファ、風邪引くぞ。」
「うん……」
「部屋に戻ってろ。」
「うん……」

彼にそう言われても、ティファはその場を動かない。ひとりになるのが怖かった。クラウドの側にいたかった。

「ティファ?」

クラウドは彼女の真意を測りかねて、怪訝そうな表情を浮かべていた。ティファは彼と分かり合えない淋しさを感じながら、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

「クラウドは、寒い夜に……凍えて、そのまま消えてなくなれたらって……そう、思ったことない?」
「ティファ、何を言って……」
「私のせいでもう寒さも感じられない人たちがいるのに、ひどいよね。」

罪の意識を抱えているのは、クラウドもティファも同じだった。ただ、それに向き合う方法が異なるため、ふたりは少しずつすれ違っていく。

「……ごめんなさい。」

彼女は少し鼻声でそう囁いた。今のティファには、クラウドの胸に泣きつく勇気が持てなかった。クラウドは泣きそうなティファを両腕で抱きしめようかと迷ったが、なんとなく拒否されそうな気配を感じて二の足を踏んだ。

幼馴染だった頃にはできたことが、家族になった今では難しくなっている。あの頃より距離は遥かに近くにいるのに、彼/彼女の心は遠く感じていた。

「クラウド、おやすみなさい。」
「あぁ……」

ティファは俯いたままベランダの出入口に向かい、彼の後ろ姿に向かって声をかけた。クラウドは振り返らないまま生返事をしたあと、ティファが部屋に戻ったあとに優しい声で呟いた。

「……おやすみ、ティファ。」

その晩クラウドは日付が変わる頃までベランダに佇み、寝ずに待っていた彼女の冷えた身体を温めながら、心の中でティファを愛していると叫んでいた。ティファは何度も啼きながら、赦されたいと切に願った。

End

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