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事業承継〜非上場株式の承継①〜評価方法〜

 前回は、法人の事業承継についての概略をご紹介し、事業承継において非上場会社が税務上もっとも気にすべき点は、会社の株式の承継に係る税金ということをお伝えしました。

 株式の承継(移転)は現在の株主から事業の承継者へ、相続、譲渡、贈与のいずれかで行われることとなりますが、この際相続なら相続税、譲渡なら所得税、贈与なら贈与税がそれぞれ賦課されます。

 そして、この税額はいずれの方法によっても移転する株式の価額に左右されるため、その株式の価額が高ければ高いほど税額も高くなる仕組みとなっています。

 したがって、この承継方法の組み立てと株式の価額をいかにコントロールするかが非上場会社の事業承継における重要な課題となります。

承継方法による税額の差異

 まず、非常に単純な例ですが、同じ株価1億円の株式をそれぞれの承継方法によって承継した場合に、どれだけ税金が異なるのかをご覧ください。



①譲渡
 1億×20.315%=2.031万
②相続
(1億-3,600)×20%-200万=1,080万
※相続人が1人で他の相続財産がない場合
③贈与
 1億×55%-400万=5,100万


 単純に比較すると、同じ株式の移転でも最大約5倍もの差が生じていることがわかります。では、この例から「相続による承継が一番お得だ!」という結論になるかというと当然そんなことはありません。

 例えばこの例では、他に相続財産がない場合で算出しているためこの税額ですが、相続税は全ての相続財産の価額をもとに税率が決まるため、他に相続財産が多額にあると税率はそれに応じて30%、40%と上がっていき最高税率は55%となるため、多額の資産がある方であればいくらになっても税率が変わらない①の譲渡で移転した方がお得といえます。

 また、この中で一番税率が高くて損しそうな贈与による移転が一番お得になる場合もあります。典型的なのが事業承継税制の贈与税の納税の猶予の特例を使用する場合で、この制度を利用すると贈与税の納税が一定の要件を満たしている限り猶予され、その後その株式を贈与した先代が死亡した場合には、その贈与税が免除されることとなるため、適用要件は色々厳しいのですが税金を0円で承継することも可能です(もっともその後相続財産となるため、相続時点で更にこの株式の承継に係る相続税を支払わないようにするためには相続税の納税の猶予の手続きを進める必要があります)。

 承継方法をざっくり見てみてもやり方一つでこれだけ違ってくるというこは、行き当たりばったりでの承継は非常に危険だということをイメージとして掴んでいただければと思います^ ^

非上場株の価額算定方法

 続いて、非上場株式の承継においてもう一つの大切な要素である、株価のコントロールについてですが、これを考えるにあたってはまず非上場株式の価額がどのように算出されるのかを知る必要があります。
 
 非上場株式の税務上の株価は基本的に以下のような区分で計算します。


1.原則的評価方式
  会社の意思決定に関与できる程度の議決権を有する者の評価に使う方法
 で、以下の3つ方法があります。
 ①類似業種比準方式
  →類似業種の株価を基に、評価する会社の一株当たりの「配当金額」「利益金
  額」「純資産価額」の3つで比準して評価する方法 
 ②純資産価額方式
  →会社の資産・負債を時価評価して評価する方法
 ③併用方式
  →①と②を併用(会社の規模によって併用割合は異なる)

2.配当還元方式 
  会社の意思決定に関与できる程度の議決権がない者の評価に使う方法
 で、「一株あたり配当金をいくらもらえる株式なのか」という考えに基づいた評
 価方法。


 この評価の仕方から非上場株の価値は、「会社の大きな意思決定に影響を及ぼすことができるか否か」という点がまず大きなポイントということがわかります。
 例えば議決権を50%超保有していると、株式会社の普通決議事項は全てその者の意向で決めることができます。
 普通決議事項というと、取締役の選解任・役員報酬の決定・剰余金の配当の決定等があるため、「現在の取締役を解任→自分を取締役に選任→役員報酬を1千万円から1億円に増加」なんていうことも理論上はできてしまいます。

 つまり、会社の大きな意思決定に影響を及ぼせる程度の議決権があると、会社の経営方針から財産の使途までコントロール可能なため、②の純資産価額方式のような会社の財産そのものがいくらなのかという評価方法がとられています。

 ただし、竹中工務店やサントリーのような超大規模な会社であっても非上場であるという理由で、中小零細企業と同じく会社の全資産・負債を時価評価するという方法によることは現実的でないことから、大会社と言われる規模の会社については、①のように同業他社の株価を基に時価を算出する方法が用意されています。
 そして、評価額としては一般的に②よりも①の方が低く算出される傾向にあります。

 他方、会社の意思決定への影響が少ない議決権の株主にとって、非上場株式というのは簡単に第三者へ売却することもできず、基本的には配当をもらう権利がついているということくらいの価値しか見出せないため、一株あたりの配当金額に基づいた評価が行われます。

どの評価方法がお得!?

 一般的に算出される時価が安い順に並べると、①配当還元方式②類似業種批准方式③併用方式④純資産価額方式、となり、会社の資産負債を個別に評価する純資産価額方式による場合が一番高くなる傾向にあります。

 そのため、まず評価方式をなるべく④から遠ざける必要があるのですが、これをするには事前の議決権の調整や会社規模の調整を要するので、早いうちから意識しておく必要があります。

 とはいえ、①の配当還元方式が使えるようにするには会社の重要な意思決定へ影響力を及ぼすことが難しい程度の議決権(5%未満)にすることが前提となり、一番大切な実際の会社運営に大きく支障が出てしまうため、大半は②〜④のいずれかの方法でいかに株価を安くするかという対策となります。

 例えばいくつかグループ法人を保有しているのであれば、合併や株式交換等の組織再編によって一つの会社に収益と資産を集約して大法人にして②の類似業種批准価格で評価できるようにしたり、③の純資産価額の評価しかできない会社であれば土地等の不動産を購入することで評価額を下げる等様々な方法を組み合わせて検討していくこととなります。

事業承継は税の総合格闘技!

 事業承継の検討には、先ほど承継方法で出てきただけでも相続税、所得税、贈与税が関連しているほか、評価方法を変えるための組織再編を行うに当たっては法人税、事業税、市県民税も関連してきますし、不動産の移転が絡むことも多いため不動産取得税や固定資産税の負担まで検討を要します。

 まさに事業承継とは税の総合格闘技なのです笑

 この分野は正直どの税理士でもわかるわけではない、というより精通している税理士の方が少ないというのが現実です。

 そして私もこの分野については日々実務を交えながら修行中なので、あまり偉そうなことは申せないのですが、この点を検討するにあたっては税理士選びは非常に重要なため、色々と比較検討をお勧めします(ちなみに私が所属している税理士法人はこの分野でかなり経験豊富な人間が数名おりますのでお勧めできます笑)


今回の記事から、非上場株式の価額算出イメージを何となくもっていただけたら幸いです。
 次回は、もう少し具体的に評価方法が会社の規模によってどのように異なるのかをご紹介しようと思いますので是非ご覧いただければと思います。


 最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^


 






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