創立記念パーティー費用は福利厚生費?交際費?②
今日は前回に引き続き、創立記念パーティーの費用について争われた裁判例をご紹介したいと思います。
前回は、そもそも社外の専属とは言えない取引先も交えてのパーティーであったため、「社員と社外の人間に対するおもてなしの費用」とみられ交際費と認定され、福利厚生費だったとしても「一人当たり単価が1.2万円程で福利厚生費というには高い」と裁判所が判断した事案でした。
今回は純粋に従業員と専属取引先だけを対象としたパーティーの事案であるため、争点の中心は”一人当たり単価が高いか否か”となりますが、前回の争いで示された金額とは大分異なる判断がなされているため、その理由とともにご覧いただければと思います。
福岡地裁 平成29年4月25日 判決
1.事案の概要
養鶏事業,食肉等食料品の販売事業等を行う(株)K(九州内に拠点が全部で7箇所)が、従業員及び専属の下請業者を対象に以下のとおり「感謝の集い」を年に一度開催した際に支出した費用が福利厚生費ではなく交際費等に当たるとして税務当局に更正された事案。
⚪︎会社概要
資本金 6億
売上 約500億
経常利益 約20億
従業員 約1,100人
専属下請業者 7社
⚪︎感謝の集い概要
開催年度 支出額(一人単価) 参加人数(参加率) 時間(移動時間込)
H20.3期 2,740万(2.8万) 954人(72.7%) 4.5h(7〜10h)
H21.3期 2,321万(2.4万) 925人(72.5%) 4h (8〜11h)
H22.3期 2,105万(2.2万) 946人 (71.4%) 4h (8〜11h)
※H23.3期〜H24.3期も同様の金額のため省略
開催場所 フェニックスシーガイア(宮崎県の大型リゾートホテル)
内容 一人1.2万円のコース料理と飲物が提供され,プロの歌手や演奏家の
コンサート等を開催
趣旨 経営再建を機に従業員のやる気を引き出し、会社に長く勤めたいというモチベーションを高めていくために実施
2.裁判所の判断
以下の理由から「感謝の集い」の費用は交際費等には該当しない(福利厚生費となる)
①本件「感謝の集い」は(株)K及び協力会社等の従業員全員を対象とし,
(株)Kの代表者が従業員に対する感謝の意を表し,従業員の労働意欲を向上さ
せるために,他の従業員との歓談や交流の機会,コース料理及びコンサート鑑
賞の機会を提供するものであるため「専ら従業員の慰安のために行われる」
(福利厚生目的)ものといえ、従業員にとってある程度の非日常性を有する場所への移動の要素を含み、全従業員が一堂に会し,特別のコース料理やコンサ
ートを楽しむという非日常的な内容を含むものであって,従業員全員を対象とする「日帰り慰安旅行」であったといえる。
②従業員の一体感や会社に対する忠誠心を醸成して,更なる労働意欲の向上を図るためには,従業員全員において非日常的な体験を共有してもらうことが有
効,必要であると考えられ、非日常的な体験とは例えば普段訪れることのない
県外や国外への旅行や普段味わう機会のない食事や生の音楽鑑賞等が考えられ
る。
③開催場所が大型リゾートホテルである点は全従業員が一堂に集うためにやむを得ず、行事の目的,開催頻度(年1回),会場の性質,従業員の女性比率の高さ(6割),日程の制約(2日工場を停止すると市場への影響が大きい)等に加えて,本件行事に参加するための従業員の移動時間等を考慮すれば,県外への旅行等に代わる非日常的要素として,大型リゾートホテルにおける特別のコース料理やプロの歌手や演奏家によるライブコンサート鑑賞を含めることには,必要性,相当性があったものと認められ,(株)Kのような事業規模を有する優良企業が年1回の頻度で行う福利厚生事業として社会通念上一般的に行われている範囲を超えるものであると認めるのは困難。
④一人当たり単価が2.1万〜2.8万という点については、移動時間も含めた所要
時間(8時間〜11時間)も考慮すると通常要する費用額を超えるものとは認め
難い。
前回ご紹介した事案では「10年に一度の創立総会費用として一人当たり1.2万円は高すぎる」という結論だったにも関わらず、今回は毎年一回行う一人当たり2.8万円もの社内パーティー費用が全額福利厚生費として認められていて、ぱっと見均衡が取れていないように思えますよね。
しかし、今回の事案のポイントとしては通常のパーティー費用としてではなく、日帰り社員旅行費用として妥当か否かの判断がなされた点で、その結論が大きく異なっています。
したがって、今回の事案は仕事柄従業員が一堂に会することが困難な会社が社内パーティーを開催する際の参考になる事案と言えるため、同じ社内パーティーでも日帰り社員旅行としてしまえる要素にはどのようなものかを列挙してみたいと思います。
①行事の目的
「従業員の一体感や会社に対する忠誠心を醸成して,更なる労働意欲の向上を図ること」という目的が必要なのは、社員旅行だけではなく福利厚生費全般の要素として当てはまるものですが、これは大前提として必要な要素です。
②開催頻度
本事例では年1回開催となります。実務で携わる多くの会社や裁判例を見ていても福利厚生目的の社員旅行の実施回数というのはほぼ年1回で収まっている印象を受けるので、社内パーティーを日帰り社員旅行としてカウントするには、純粋な社員旅行を毎年実施していない会社であることは必要な要素かと思います。
③女性従業員比率の高さ、日程の制約
いずれも泊旅行の困難性を裏付ける要素ですが、女性比率の高さを挙げるのはこの時代には非常にそぐわない気はしますので、どちらかというと後者の日程の制約すなわち「全従業員が泊まりがけで旅行に行くことで会社の日常業務に大きな影響が生じてしまう」というような要素があれば良いのではないかと思います。
④行事に参加するための移動時間の長さ
日帰り社員旅行というためには、通常のパーティーないしは飲み会とは違い、ある程度の移動時間があることも、要素になるようです。今回の事案では概ね往復3h〜7hの移動時間を要する従業員が多かったようで、パーティーに要した費用の一人当たり時間単価を下げる効果がある要素であるため参考にしていただければと思います。
まとめ
以上の点をまとめると、「業務の都合で全従業員を休ませることが困難なために泊まりがけの社員旅行を実施していない会社が、従業員の労働意欲向上のため年に一度会社の拠点とは離れた隣接県等のホテルの宴会場等でグレードの高い料理と芸能関係者によるイベントを行うようなパーティーであれば、日帰り社員旅行にできるのではないか」ということができそうです^ ^
最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^