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退職金と小規模企業共済のお得な受け取り方〜時期と順序に要注意!〜
今日は中小企業経営者の多くの方が加入されているだろう小規模企業共済と、自社の退職時に受け取る退職金のお得な(損をしない)受け取り方をご紹介します。
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための積み立てによる退職金制度です。加入者は個人で、その支払った掛金は全額所得控除となり、共済金の受け取り時には一括で退職所得として受け取る方法と、分割で雑所得(年金)として受け取る方法の2種類があります。
そのため、まず受け取り方を一括にするのか分割にするのか、もしくはその併用にするのかといった論点も出てくるのですが、この点は後半で触れさせていただき、まずは一般に税制としては退職所得として受け取る方が有利なため、一括で受け取る場合の受け取り方法について見ていきたいと思います。
①65歳以上になった時点で小規模企業共済を任意解約
まず、「65歳以上になった時点」の意味としては、小規模企業共済の任意解約は65歳以上ならその受け取る共済金は退職所得となるのですが、それ未満だと一時所得に区分されてしまいます。
退職所得は”分離課税”といって、他の給与や事業所得等とは別個独立して所得金額を計算する仕組みかつ、退職所得控除という大きな税制優遇があるのに対して、一時所得は給与や事業所得等と合算して所得金額を計算する”総合課税”であり、所得控除も50万円しかないため、高所得者であればあるほど税負担が高くなってしまいます。
したがって、まず大前提の年齢基準を満たす必要がありますが、もう一点注意すべき点は加入期間です。
小規模企業共済は、加入期間が20年以上であればこれまでの掛金の100%以上が共済金として支払われますが、15年なら92.5%、10年なら85%、と減額されてしまうため、65歳になった時点であと何年で加入期間が20年以上になるかということも含めて解約時期を検討する必要があります。
②任意解約の5年以後に会社の退職金を受け取る
小規模企業共済の解約後5年以後に退職金を受け取ることが必要な理由は、退職所得控除の重複期間計算の特例を受けるためです。
退職所得控除は、勤続年数1年につき40万円(20年超の期間は70万)を控除できるのですが、複数回退職金を受け取る場合には、それぞれの退職所得控除の計算をする際に「退職金の支払いをする年の前年以前4年以内に支払われた退職金で勤続年数(加入期間)が重複する期間があればそこは二重に計算しないようにしましょう」という制約があります。
したがって、小規模企業共済の解約による退職所得の受け取り後、5年を経過しない時点で会社の退職金を支給してしまうと、以下の計算例のとおり、退職所得控除が削られてしまうことになります。
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ちなみに、「これだと最低限70歳まで働かなきゃならなくなるから、逆に会社の退職金を支給した5年後に小規模企業共済を解約すれば良いのでは?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、逆にするパターンだと先ほどの重複期間の除外計算の対象期間が4年以内から19年以内に延びてしまうため、60歳で退職したとしても、80歳で小規模企業共済を解約しないと重複計算の特例が使えないことになってしまうため、かえって働く期間は長くなってしまいます笑
分割支給を受けて雑所得として受け取るパターン
以上が一括受け取りする場合の留意点ですが、分割支給を受けたて雑所得とした方が良いパターンとしては①他の公的年金等の受給額と併せても年金等控除額以内でおさまる場合②同控除額を超えたとしても他の所得が少なく、毎年退職所得として受け取った場合の税率よりも低いと見込まれる場合、が挙げられます。
これはそれぞれの方の実際の所得状況に基づいて個別計算することで判断できる内容なので、顧問税理士へご相談いただければと思います(こういった計算を快く受ける税理士か否かはかなり人によって分かれるところですが、私はこのような相談をいただくとワクワクする方で、今回顧客からこの相談を受けたため題材にしてみました笑)。
なお、退職を控えた経営者の方は、通常長年支払い続けている厚生年金があるため、①のパターンはほぼあり得ないかと思います。
まとめ
以上のように、小規模企業共済の共済金をお得に(無駄なく)受け取る方法としては、一般的には、「小規模企業共済の加入期間が20年以上になり、自身が65歳以上になったタイミングで任意解約して、一時払いで退職所得として受領し、その5年以後に自身の会社から退職金を受け取る」といえます。
そして、この計画をするということは、自身が経営から退くタイミングを計画するということであるため、併せて事業承継の計画を具体的に行う良いきっかけになるのではないかと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^