法人税シリーズ〜修繕費と資本的支出②〜
今日は前回から引き続き、建物に対する防水工事と外壁塗装が修繕費となるか、資本的支出となるかが争われた裁決事例をご紹介したいと思います。
ちなみに、今回の事例は所得税法の事例ですが、考え方は基本的に同じなため法人税シリーズの続きとさせていただきます^ ^
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審判所平成元年10月6日 裁決
1.事案の概要
納税者Aが所有する以下の建物について行なった外壁及び屋上の補修工事
1,540万円のうち888万円を修繕費として必要経費にしていたが、そのうち375
万円部分については修繕費ではなく資本的支出であるとして争われた事例。
◉建物の概要
構造:鉄筋コンクリート造 陸屋根9階建
外壁:モルタルスタッコ仕上げ
築年数:12年
用途:店舗併用住宅
◉工事内容
注入工事:建物全体のうち必要な部分についてのみ実施
壁はつり補修工事:ペントハウスのはり部分と正面の各階ベランダ部分について
実施
外壁美装工事:建物全体に防水性の高い普通よりも上質な塗装材を用いて実
施(屋上は床面に直でウレタン塗装)
付随工事:これら工事に必要な仮設工事、ガラスクリーニング工事、隣
家対策金属工事
2.裁判所の判断
①注入工事と壁はつり補修工事について
建物全体にされたものではなく、また、サッシ廻りシーリング工事及び塗装
工事は建物の通常の維持又は管理に必要な修繕そのものかその範ちゅうに属す
るものであるから、これらに要した費用は修繕費とするのが相当
②外壁美装工事について
注入工事及び壁はつり補修工事に伴うその補修面の美装工事であること並び
に建物建築後12年弱経過した時点における一般的な塗り替え美装工事であっ
て、塗装材として特別に上質な材料を用いたものではないことが認められるた
め、本工事によって格別、建物本来の使用可能期間を延長したり、その価額を
増加したりするような要素は認められないから、本工事は建物の通常の維持又
は管理に属するものとして、これに要した費用は修繕費とするのが相当
③付随工事について
①、②の工事を行うにあたり必然的ないしは付随して生ずるものであり、ま
た、諸経費は本件補修工事等の全体に及ぶものであるから、これらの費用も修
繕費とするのが相当
今回の事例では納税者の主張が全面的に認められ、全て修繕費と判断されています。
ポイントとなるのは、部分的な工事である点と経年劣化に対する工事であるという点が挙げられます。
裁判所が認定した事実によると、注入工事については「建物全体について壁面の浮き調査をし、必要な部分」に行っており、壁はつり補修工事は「建物全体の中から必要な梁部分とベランダ部分」に限って行っており、裁判所の判断理由もほぼこの点でまとめられています。
前回の裁判例で修繕費と認められなかったものの一つに「損壊箇所が20箇所ほどとわかっていたにも関わらず全体を覆い被せる工事をした」という点があったことと並べてみても、やはり修繕箇所を把握してその部分に対してのみ工事を行うことが修繕費として認められる維持管理・原状回復性の一つの要素と言えそうですね。
一方、外壁美装工事については、イメージとして、12年経過したことによってハゲてしまった外壁塗装を新築時の色に塗り直す、すなわちマイナス(ハゲ)からゼロ(色付き)に戻したのだから修繕というということです。
かつ、この塗料はハゲる前に塗られていたものと同じような防水性や耐久性のものであると認められている(2②において、使用した塗料は防水性が高い上質なものと裁判所は判断はしているものの、特に上質とは認められないから問題なしということなのでしょう)ので、そうなるとこれを塗ったことによって使用可能期間が伸びることにはならないということです。
そうすると、建物全体に対する工事であっても経年劣化相応の塗装をするということも修繕費として認められる維持管理・原状回復性の一つの要素といえそうですね。
資本的支出と修繕費の論点については、今後も参考になりそうな裁判例等があれば随時ご紹介したいと思いますので、是非ご覧いただければと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^