自閉症(発達障害)の理解⑤

前回は子どもに分かりやすく伝える方法についてお話しました。
今回は子どもからの発信をどのように育てていくかに焦点を当てます。

特に自閉症スペクトラム症の子どもたちは、「英語の何が難しいのか」といった抽象的な質問に対して答えることが難しい場合があります。
彼らが自己の感情や考えを外に表現するために、どのようなサポートが必要かを考えます。

コミュニケーションはよくキャッチボールに例えられます。
前回のテーマは、大人が子どもにわかりやすくボールを投げる方法、つまり伝える方法でした。

しかし、コミュニケーションは双方向です。子どもがボールを投げ返す、すなわちメッセージを伝えることも同様に重要です。

このスキルを育てる際、大人の役割は大きく2つに分かれます。
一つは、適切な伝え方を教えること、もう一つは、子どもの伝え方が未熟であっても、その意図を理解しサポートすることです。

また、子どもたちの発信を育てる際には、質問の仕方にも工夫が必要です。抽象的な質問よりも、選択肢を提供したり、考える時間を与えたりすることで、子どもたちが自分の考えや気持ちを伝えやすくなります。

コミュニケーションマインドを育てることは、自閉症スペクトラム症の人たちをサポートする上で非常に重要です。
コミュニケーションが苦手な子どもたちにとって、相手とのやり取りは不安や混乱を引き起こすことがあります。
しかし、信頼できる大人や友達との関係を通じて、伝えたい内容が適切に伝わる経験を重ねることで、子どもたちのコミュニケーションスキルは徐々に向上していきます。

子どもたちの発信を育てるためには、意図と手段を整理することが重要です。
子どもが何らかの方法で伝えることの意図と、その表現の方法を明確にし、適切なコミュニケーション方法を教えることが不可欠です。
例えば、目的が「先生に注意を引く」であれば、物を投げるのではなく、適切な方法を教え、それを実践する機会を提供することが重要です。

最終的には、どんな方法でも、子どもが伝えたい内容が適切に伝わる経験を積むことが、彼らのコミュニケーション能力の向上につながります。
そのためには、発言の仕方やコミュニケーションのルールを学んでいく必要がありますが、その過程で伝える意欲を損なわないように、寛容な態度を保つことが重要です。

療育の専門家や学校の先生と相談する際、ご家族も一緒に、子どもが伝えようとしている内容が不適切か、またはその内容自体は悪くないが伝え方の手段が不適切かを整理してみてください。
この整理を行うことなく、ただ単に無視する方法ややめさせる方法だけを話し合うのは、子どもにとって辛い状況を招く可能性があります。

そのため、子どものコミュニケーションの背景にある意図を理解し、サポートする方法についても考慮する必要があります。

子どもたちが自分の要求を伝えること、好まないものや行動を拒否すること、また注意を引くための方法は、それぞれ重要なコミュニケーションの要素です。
これらは、言葉だけではなく、カードや肩をトントンする、手渡すことなど、様々な方法で伝えることができます。
特に自閉症スペクトラム症の子どもたちにとっては、これらを適切に伝えられるようになることが非常に重要です。

療育の場では、写真やスマートフォンのアプリを使ってコミュニケーションを取る方法もあります。
例えば、特定のアイコンをタップすることで音声が出るアプリを使えば、たくさんのカードを持ち歩かなくてもコミュニケーションを取ることができます。
これらの方法は、子どもたちが自分の要求を適切に伝えられるようになるための一つの手段です。

子どもたちがコミュニケーションを学ぶ際には、成功体験を積むことが非常に重要です。
特に、信頼できる大人とのやり取りを通して成功体験を積むことは、子どもたちのコミュニケーション能力の向上につながります。
また、家族や療育の先生だけでなく、幅広い人々とのやり取りの中で経験を積むことも重要です。
このようにして、子どもたちは要求、拒否、注意喚起といった基本的なコミュニケーション能力を育て、より複雑な情報の提供や請求といった高度なコミュニケーションスキルへと発展させていくことができます。

例えば、子どもが特定の先生に伝えたことを他の先生にも伝える練習をすることが重要です。
保育園や幼稚園を訪れると、よく子どもたちが自分のできることを自慢したがります。
しかし、自閉症スペクトラム症の子どもたちは、見知らぬ人が来るだけで不安を感じることがあります。
また、特定の先生と練習したことを別の先生にも伝えなければならないとは思っていない子どももいます。

療育で頑張っても、その場だけでしか力を発揮できない、療育の効果が子どもたちの生活に反映されない状況は、子どもたちにとってはあまり役立ちません。
ですから、伝える練習をする際には、その子が療育で練習したことを家庭でも実践し、さまざまな人に伝える経験を積むことが大切です。
これは、自閉症スペクトラム症の子どもたちが自然と状況を一般化することが難しいため、似た状況を作り出し、多様な人に対しても同じスキルを使えるようにするためです。

例えば、保育園でブロックの特定の部品を使いたがる子がいたとします。
そういった時に「かして」という言葉を使って伝えることを学ぶ練習をします。
しかし、その子が外でブランコを使いたい時にも「かして」と言って伝える必要があるとは思っていないかもしれません。
これは、自閉症スペクトラム症の子どもたちが、一つの場面で学んだことを自動的に別の場面に適用することが難しいためです。

このような場合、療育の先生やご家族は、子どもが「かして」と言うことをブランコでも他の場面でも教える必要があります。
この過程では、カードなどの視覚的なサポートを使うことが役立ちます。
例えば、ブロック遊びの場面で使った「かして」のカードがブランコの近くにも置かれていると、子どもは「ああ、ここでも同じことを言うんだ」と理解しやすくなります。

このように、言葉が使えるようになる前の段階では、視覚的なサポートを通じて、同じコミュニケーションスキルが異なる場面や人に対しても適用されるように指導することが、自閉症スペクトラム症の子どもたちのコミュニケーション能力の発達にとって非常に重要です。

また、子どもたちが日常生活で直面する様々な状況を正しく理解し、それに基づいて感情や意見を表現することも重要です。
たとえば、学校での出来事について子どもが話す際には、事実を正確に把握し、子どもの感じたことを受け止めつつ、それをもとに話を進めることが大切です。
親が子どもの話を受け止め、子ども自身が自分の気持ちを言語化し、問題を解決するための選択肢を提示することによって、子どもは自己決定の力を育てることができます。

このように、自閉症スペクトラム症の子どもたちに適切なサポートを提供することで、彼らは日常生活の中で直面する様々な課題に対処し、自己決定の能力を育てることができるのです。





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